日本共産党志位和夫委員長は、14日午後の記者会見で、次のとおり提案を発表しました。

小泉内閣の医療大改悪に反対し、
3つの改革で安心できる医療制度をめざす

2002年3月14日 日本共産党


1、国民の命綱をたちきる空前の大改悪はただちに中止を

 さる3月1日、小泉内閣は、空前の国民負担増をもりこんだ医療制度の大改悪法案を国会に提出しました。医療保険制度がどうなるかは、国民にとって命と健康に直接かかわる問題です。国民にとって命綱ともいうべき医療制度を大改悪し、それをたちきろうというのですから、小泉内閣の冷酷、非情な正体をこれほど浮き彫りにするものはありません。しかも、この大不況のもとでの医療大改悪です。これが国民の暮らしと健康をますます悪化させることは明らかです。

(1)サラリーマン――3割負担と保険料値上げで健康と経済の悪化に追い打ち

 第1の改悪は、2003年4月から、サラリーマンなどの本人と、家族の入院時の窓口負担を、現在の2割から3割に引き上げることです。さらに、70歳未満の年金生活者(被用者保険の退職者)も、本人と、家族の入院時の負担を、現在の2割から3割に引き上げる計画です。この結果、70歳未満の世代は、2歳児以下(2割負担)をのぞいて、外来、入院ともすべて3割負担に引き上げられることになります。この負担増の影響は、8000万人以上の労働者と年金生活者、その家族におよびます。文字どおり、空前の大改悪です。

 国民の負担増は、窓口負担増だけにとどまりません。約8000万人の労働者と家族が加入するすべての医療保険の保険料を、ボーナスも含めてとりたてる総報酬制に変更して、保険料負担を増やそうというのです。中小企業の労働者と家族、3700万人が加入する政府管掌健康保険(政管健保)は、総報酬制にしたうえに、保険料を現在の7・5%から8・2%(労使折半)に値上げする計画です。一人当たり平均で年間3万円、全体で約6000億円もの負担増が、この不況下で中小企業の労働者と事業主に押しつけられることになります。まさに死活問題です。これでは、国民の暮らしと健康はますます悪化せざるをえません。

(2)高齢者――負担増と立て替え払いの二重の改悪で受診抑制をいっそうひどく

 第2の改悪は、高齢者への集中攻撃です。まず、今年10月から、70歳以上の高齢者の窓口負担が大幅に引き上げられます。いま通院の場合、自己負担は診療所で1回800円、月4回までの定額払い、病院で月3000円または5000円という負担上限がもうけられています。この定額制と上限をとりはらい、患者の自己負担を、かかった医療費の1割(一定所得以上の高齢者は2割)に引き上げようというものです。

 しかも、窓口で1割相当額をそのつど支払ったうえで、“高額医療費”(1ヶ月ごとに支払う上限額、一般高齢者の通院で月1万2000円)を超える分は、申請してあとから返してもらう仕組み、立て替え払いに変更します。いまは、どんな病気でも、検査でも、あらかじめ最大で5000円のお金をやりくりしさえすれば、1ヶ月間の通院は可能です。ところが、かかった費用の1割負担になり、立て替え払いになると、お金がいくらかかるかわかりません。この二重の改悪による負担増と不安感からますます受診を手控えることになることは必至です。高齢者に経済的、心理的な圧力をかけて、強引に医療費の伸びを抑えようという、冷酷きわまるやり方だといわなければなりません。

(3)診療報酬の引き下げ――医療機関の経営を圧迫、入院患者の追い出しも

 第3の改悪は、今年4月から予定されている診療報酬の引き下げです。医師はもうけすぎている、診療報酬を下げるのは当然という議論があります。たしかに、一部に、世間の感覚とかけ離れた高収入を得ている医師がいることも事実です。しかし、圧倒的な開業医、医療機関は、いまでも経営が困難をきわめています。この実態から目をそむけることはできません。今回の引き下げは、医療機関の経営をさらに圧迫し、治療にも重大な影響をおよぼすことになります。現に、診療報酬の2・7%の引き下げによって、300床前後の病院で、年間2億円の減収になるという試算があります。職員の給与30人分に相当します。いまでも職員不足からの医療事故があとをたちません。これ以上、職員が減らされるようなことになれば、国民の医療は重大な危機に陥らざるをえません。地域から医療機関そのものが消えてなくなる事態も想定されます。

 さらに、重大なことは、6ヶ月を超える入院患者を、「医療の必要の低い社会的入院」とみなして、患者にあらたに月4万円から5万円の負担増をかぶせることです。しかも、入院期間を通算する仕組みを導入して、6ヶ月を超えて入院していれば、どこの病院でも追加負担をとりたてるという徹底ぶりです。このように、診療報酬の引き下げは、入院患者にも重大な打撃を与えることになるのです。

 「社会的入院」といわれる高齢者は、政府の説明でも、受け入れ条件がないために退院が不可能な人たちです。特養ホームの不足も深刻で、入所待ちは3年、4年というのが現実です。病院をでてどこへ行けというのでしょうか。このような診療報酬の引き下げは絶対におこなうべきではありません。

(4)「抜本改革」の名で高齢者の負担を拡大、政管健保は見直しへ

 小泉首相は、「三方一両損」などといっていますが、改悪によって「損」を押しつけられる「三方」とはすべて国民であり、実態は「国民一方損」というものです。しかも、これだけの負担増政策を強行しても、健保財政は2006年度には再び赤字になると、政府自身が認めています。そこで「抜本改革」が必要だというのです。

 「抜本改革」とはなんでしょうか。その一つは、「新しい高齢者医療制度」を2004年度中に創設するというものです。これが介護保険にならって、すべての高齢者から医療保険料を徴収する計画であることは、97年当時の旧厚生省の「青写真」でも明確です。いまでも重い負担に苦しむお年よりに、さらに医療保険料までとりたて、そのうえ消費税増税までねらい、苦しみに追い打ちをかける、これが「抜本改革」の正体です。

 さらに、重大なことは、政府管掌健康保険の組織形態を、民営化することも含めて、5年以内に見直すという方針をうちだしたことです。中小企業の労働者と家族の医療にたいする国庫負担を減らすなど、国の責任を後退させようとする意図は明らかです。民間保険が中心のアメリカでは、医療費を出費することは「メディカルロス(損失)」であるとして、利益最優先の立場から、医療費の削減が極限まで追求されています。このため、患者は管(くだ)をつけたまま退院させられるなど、大きな社会問題になっています。国がほんらいの責任をはたしてこそ、国民の命と健康が守られるという教訓を、アメリカ医療の実態から学ぶべきです。

 小泉内閣は、今回の医療改悪を突破口にして、さらなる抜本改悪に連動させようとしています。このことは、今回提出された改悪法案の付則に明記されています。しかし、そこにあるのは、際限のない国民負担増への道だけです。日本共産党は、国民の圧倒的な世論、運動と連帯し、小泉内閣の医療大改悪を中止に追い込み、安心できる医療制度の改革にむけて、全力をつくす決意です。

2、窓口負担増による医療費抑制策は医療の大もとを破壊する

 医療の基本が、病気の早期発見、早期治療にあることは常識です。窓口負担を増やして医療機関の敷居を高くし、医療費の抑制をはかろうとするやり方は、実は、医療費の抑制にもならず、国民の健康を悪化させるだけの最悪のやり方です。

(1)国民的規模で健康悪化がすすむ

 なによりも、窓口負担の引き上げは、必要な受診の抑制をまねきます。現に、97年に健保本人の自己負担が2割に引き上げられたため、病気の自覚症状がある人のうちの13%、280万人が医療を受けない、がまんを余儀なくされるという状況が生まれました。これが3割負担になったら、受診抑制がさらにひどくなることは明らかです。

 高齢者も、昨年1月からの窓口負担増によって、すでに深刻な受診抑制がひろがっています。そのうえに今回の負担増です。大阪、兵庫の保険医協会のアンケート調査によっても、これ以上負担が増えたら、高齢者の7割以上が「通院回数を減らす」「がまんする」と回答しています。「生きる希望もなくなる」「病気だといわず黙って死を待つ」など、切実な声が寄せられています。それでも小泉首相は、「負担を低くすると、何でもない人がお医者さんに殺到してしまう」などと暴言をはき、負担増を強行し、国民の命と健康を切り縮めようというのです。

 歴代の自民党政府は、国庫負担を削減して医療保険財政が悪化すると、窓口負担を引き上げるというやり方を繰り返してきました。しかし、こうしたやり方は、病気の早期発見、早期治療を困難にします。ぎりぎりまでがまんして、病気が重くなってから医療にかかることになれば、かえって保険財政を悪化させることにもなります。窓口負担増によって医療費を抑制しようとするこれまでのやり方は、すでに破たんしているのです。

(2)サミット諸国中で異常に高い日本の窓口負担

 各国の公的医療保険制度における自己負担割合は、ドイツ6・0%、イギリス2・0%にたいして、日本は15・2%です。フランスは23・3%ですが、民間保険から補填されることが一般的であり、実際の負担率は11・1%にとどまっています。ドイツ、イタリアなどは入院時の自己負担は原則無料です。しかも、ドイツ、イギリスなどは、自己負担が少額であるうえに、窓口でお金を支払うシステムはなく、あとから請求書が送られてくる仕組みです。改悪案のように、多額のお金を用意しないと医療にかかれない、窓口の敷居を高くして医療費を抑制するやり方はとっていません。負担増による医療費の抑制効果は少ないという考えが背景にあるからです。

 家計消費支出に占める「医療・健康」のための費用は、イギリス1・2%、ドイツ4・5%、フランス3・7%、イタリア3・2%、カナダ3・7%にたいして、日本は11・1%と、異常に高くなっています(「日本労働機構」データブック国際労働比較2002)。このデータからも、日本の窓口負担がいかに高いかがわかります。世界では、窓口負担増による医療費抑制策などとっていないのです。

3、3つの改革で安心できる医療制度をめざす

 日本共産党は、だれもが安心できる医療制度にするために、次の3つの改革を提案します。

(1)削られた国庫負担の割合を元にもどす

 第1は、削られた医療保険への国庫負担割合を計画的に元にもどすことです。いま焦点の老人医療費でみても、有料化された1983年度と2002年度(予算)を比較すると、老人医療費に占める国庫負担割合は、44・9%から31・5%へと、13・4%も減らされています。国民健康保険(国保)も、退職者医療を含む総収入に占める国庫支出金は、1980年度の57・5%から2000年度には36・3%へと激減しています。政管健保も16・4%から13%に減らされたままです。これが、医療保険財政が深刻になった最大の原因です。この背景には、浪費的な公共事業や軍事費、大銀行支援に、巨額の財政をまわしてきたことがあります。

 日本共産党は、公共事業費や軍事費の浪費を削って、医療・社会保障を財政の主役にすえ、国庫負担を計画的に増やしながら、窓口負担を引き下げる方向をめざします。サラリーマン・家族の窓口負担は、3割負担への引き上げをやめさせます。国民健康保険も、国庫負担を計画的に増やせば、高すぎる保険料を引き下げるとともに、現在の3割負担を2割負担に引き下げる道も開けます。老人医療制度も、当面、2001年1月以前の定額払い制に戻します。なお、就学前の乳幼児については、国の制度として医療費無料化制度を創設するよう提案します。

[逆立ち財政をただし、公平・公正な税制で医療の財源を確保する]

 安心できる医療制度をつくるために、当面、老人医療費に国の負担を1兆円増やし、老人医療費に占める国・地方の割合を50%にします。国保、政管健保にたいしても、国の負担を、当面5000億円程度増やし、国の負担割合をそれぞれ改悪時の以前の水準に戻します。この財源については、公共事業費の浪費を削ってまかないます。

 ひきつづき、「公共事業に50兆円、社会保障に20兆円」という逆立ちした財政運営をただし、公共事業費を段階的に半減し、社会保障を予算の主役にします。また、大企業・高額所得者の不公平税制を是正することも避けてとおれない課題です。1990年当時とくらべると、所得税の最高税率は50%から37%へ、法人税率は37・5%から30%へと下げられ、「税収の空洞化」が進行しています。所得税の最高税率や法人税率の適正な引き上げなど、税制の民主的再建をすすめることが不可欠です。

 以上、歳入、歳出の両面での見直しをすすめ、税・財政の抜本的な改革を通じて、将来にわたって安定した医療・社会保障財源を確保する展望をきりひらきます。

(2)高い薬価を欧米並みに引き下げる

 第2は、高い薬価そのものを適正な価格に引き下げることです。日本共産党は、97年の国会で、日本の薬価が欧米諸国と比べて2倍から4倍も高い、とりわけ効き目は従来薬とほとんど変わらない「新薬」の価格が異常に高く、使用比率も異常に多いことが、日本の薬剤費をつり上げている元凶であり、これをただせば2兆円から3兆円の節減ができると指摘しました。

 その後、わが国の医療費に占める薬剤費の比率は、当時の30%程度から20%程度まで下がりました。しかし、この要因を厚生労働省の資料でみると、そのほとんどが「薬価差額」といわれるものです。この5年間で薬剤費が1兆2000億円減少していますが、そのうち8000億円、3分の2が「薬価差額」です。「薬価差額」というのは、診療報酬で決められている薬の公定価格と、医療機関の実際の購入価格との「差額」です。医療機関の収入がその分減ったことを意味します。「新薬」の使用比率も、当時の50%から40%に下がっただけで、いまなおドイツの4倍です。小泉首相は、「薬剤費は着実に減少している」と胸をはりましたが、高すぎる薬価の本体、それをつくりだしている「新薬シフト」、大手製薬メーカーのぼろもうけの構造には、まともなメスを入れていないのです。

 実際、大手15社の製薬企業は、この大不況のなか、3年間で19・3%も利益を伸ばしています。武田薬品工業は、10期連続の増益で、2002年3月期は前期比32%増という、過去最高の利益をあげる見通しです。薬価の本体にメスが入っていない証拠です。

 日本共産党は、「新薬」の承認審査と価格決定の過程を透明にし、薬価を適正な価格に引き下げることを、あらためて提案します。経済産業省も、欧米並みにすればさらに1兆4500億円の節減が可能であるとの試算をしめしており、これだけでも今回の改悪はストップできます。保険財政に依存し、高収益をあげている製薬大企業にこそ応分の「痛み」をもとめるべきではないでしょうか。

(3)窓口負担の軽減、保健師の増員などで、早期発見・早期治療の態勢を確立する

 第3は、国・自治体をあげて、病気の予防、早期発見と早期治療を保障する態勢を確立することです。

 そのためにもまず、窓口負担の軽減が必要です。長野県では、一人当たりの老人医療費は全国最低で、平均寿命は男性が全国1位、女性が4位です。さまざまな要因がありますが、国保の3割自己負担を軽減している自治体が19町村にひろがっていることが、医療費の節減につながっていると、多くの関係者は指摘しています。長野県下の町村をはじめ、名古屋市などで実施されている国保負担の軽減措置を全国の自治体にひろげるとともに、国の制度として国保の2割負担を早期に実現させることが重要です。

 健康教育、健康相談、健康診査などの総合的な保健事業を抜本的に拡充します。40歳以上を対象にした住民健診は、現在40%程度の受診率にとどまっていますが、当面、国の予算を2倍(現在は300億円)に増やし、自治体を先頭に、開業医や病院などの協力のもと、住民参加で健康づくりをすすめます。そのためにも保健師の増員が必要です。長野県では、保健師の数は人口10万人対比で全国4位、住民のほぼ2200人に一人が活動しています。新たに3万3000人(現在は2万5000人程度)の保健師を増員し、全国で長野並みの水準をめざします。保健所の統廃合を中止し、市町村保健センターをすべての自治体に設置し、拡充します。また、訪問看護事業所がない自治体は全国で50%も残されており、この解決を急ぐことも重要です。そのためにも、看護師の大幅増員が必要です。

 労働者の健康診査を拡充することが重要です。とりわけ、中小企業の労働者(40歳以上)の一般健診は、年々低下し、現在30%程度の低い水準です。財源を保険財政に依存しているためです。労働者の予防健診事業に国庫負担を導入するよう提案します。

 病気の早期発見、早期治療を保障する態勢を確立するには、お金と時間がかかります。しかし、長い目でみれば医療費の節減につながることは、長野などの実践でも明らかです。

 

 日本共産党は、国民のみなさんと連帯して、小泉内閣の医療大改悪を中止に追い込むために全力をつくします。同時に、3つの改革をすすめ、国民健康保険の2割負担への引き下げをはじめ、国民の負担をさらに軽減し、だれもが安心して利用できる医療制度の実現をめざして奮闘する決意です。


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