高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案(IT基本法案)について

衆院本会議/代表質問/松本善明衆院議員/2000.10.24
衆院本会議/反対討論/矢島恒夫衆院議員/2000.11.9


 2000年秋の臨時国会で、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)が成立しました。この法案に対して、日本共産党の議員が行った代表質問と反対討論の内容を紹介します。

衆院本会議での代表質問

2000年10月24日  日本共産党 松本善明衆院議員

 私は、日本共産党を代表して、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案、いわゆるIT基本法案などについて質問をいたします。(中略)

 21世紀を前にして、コンピューターを初めとした情報通信技術の発展は、人類の文化、技術の発展の中でも画期的な一段階を開きつつあります。特にインターネットの発展と普及は、世界じゅうのコンピューター同士の通信を可能にし、既に国民の2割以上がこれを利用し、多様な情報を入手し発信する新しいコミュニケーションの手段となっております。この問題は、日本国民の21世紀の生存と生活の基盤を守る重要課題の1つであるだけに、長期的視野に立った本格的な対策が必要であります。

 わが党は、特に新しい技術を社会全体が活用できるように国民の共有財産とし、その成果を国民すべてが受けられるようにする方策や、ITを利用した新たな犯罪を防止する対策、ITのもたらす否定的諸問題への対応などを当面特に重視する必要があると考えております。

 この法案についてまず言いたいことは、民主主義の立場を徹底するということであります。政府案の、目的、理念、基本方針、どこから見ても民主主義の立場がありません。これは、基本法として最も重要な情報技術の発展、高度なネットワークの構築を日本の民主主義の発展につなげるという観点がないということであります。言いかえれば、多くの国民が情報を入手するとともに発信できるという言論の自由を新しい段階につなげるという基本的観点がないということであります。

 情報通信技術の発展は、まさに民主主義の発展、国民生活、福祉の向上、文化の発展のために重要な貢献をいたします。現に、通信と密接にかかわる放送法でも、民主主義の発達をうたっております。

 総理、この基本法にそうした民主主義的立場を徹底すべきではありませんか。はっきりお答えいただきたいと思います。

 次に、すべての国民に情報へアクセスする権利を保障する問題であります。

 法案の第16条には「世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成を促進する」とあり、政府はこの最高水準をアメリカと考えているようでありますが、アメリカのゴア副大統領は、新しい通信方法は私たちに情報をもたらし、教育を助け、民主主義を広めると述べています。

 アメリカ政府の高度情報通信ネットワーク建設の方針を定めた全米情報基盤行動アジェンダには、国民一人一人に対して情報源へのアクセスを保障することは行政の義務であると書き込まれております。そして、原則を掲げるだけでなく、96年に改正した電気通信法で、インターネットへのアクセスが全国のすべての地域で提供されなければならない、全国すべてで都市部と同じ安い料金でできるべきである、小中学校とその教室、図書館、医療サービスの提供者にはインターネットへのアクセスが与えられなければならないと定めたのであります。

 インターネットの普及率は、アメリカは日本の約2倍です。学校への普及率では約1.5倍、図書館は約3倍であります。アメリカのインターネットが普及しているのは、単に事業者の競争が盛んだからだけではなく、政府がすべての国民に情報へのアクセスを保障しているからであります。基本法案には、この近代国家のイロハがないのであります。

 インターネットは、まさに画期的な情報へのアクセス手段であります。これをすべての国民に保障することこそ、高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たって国の果たすべき第一の責務であります。法案第8条では、情報格差の是正が積極的に図られなければならないと言っておりますが、低廉な価格で高度情報通信ネットワークを利用することを国民の権利として保障することが重要であります。

 総理、政府の責務と国民の権利を法案に明記する必要があると考えませんか。明確な答弁を求めるものであります。

 情報格差の是正を国民の権利の問題としてとらえることの重要性は、身体障害者の問題を考えれば一番よくわかります。

 難病で手足の機能が失われ、ベッド生活を強いられている身体障害者は、頭の中で文章を考えてもそれを表現するすべがなく、そういう人たちにとってパソコンは革命的だと言われております。こうした人で、家族の援助を得て農業をしている人がおりますが、ベッドの頭の位置につけたセンサーを唇で押す特別なスイッチを使って入力し、インターネットで作付や出荷状況をやりとりしているのであります。

 こうした障害者にとって、ITは生活必需品であるだけではなく、文字どおり光明であります。また、こういう人の人生を知ることは、健常者の人生にも勇気をもたらします。

 アメリカの96年通信法は、障害者に使いやすい電気通信装置を開発することを事業者に義務づけております。EUでは、情報社会の恩恵を全欧州市民に漏れなく届ける10項目の計画の中に、身障者に対する1項目を起こし、年次計画を立てております。日本では、具体的条文どころか、重点計画をつくることにすらなっておりません。メーカーに対して電気装置開発を義務づけるとか、基本法に条項を設けて特別の措置を設けるなどすべきではありませんか。総理の明確な答弁を求めるものであります。

 一方、IT化が進むと、リストラや下請中小企業を淘汰することなどによって、不安定雇用が大幅に増大するおそれがあります。また、情報通信ネットワークを利用できる者とできない者との間で所得の格差が拡大し、悪循環することも考えられます。既に、個人情報の流出やネット犯罪が多発しております。IT普及に伴うこれらの弊害について万全の対応が必要であります。総理、これらにどのように対処しようとしているのか、答弁を求めます。
 次は、ITに名をかりて従来型の公共事業予算を推進するという状況が生まれているという問題であります。

 日本の光ファイバー網の整備は、国土が25倍もあるアメリカの2倍であります。世界有数の光ファイバー大国と言っても過言ではありません。NTTを中心に、既に、全人口の36%をカバーするだけの光ファイバー網があります。政令市と県庁所在地に限ってみれば56%、ビジネスエリアでいえば93%がカバーされております。しかし、料金が月額15万円もするために、ほとんど使われていないというのが実態であります。

 他方、建設省が国道のわきにつくる専用溝、いわばトンネルを掘る工事は、今年度末までに約1万6000キロが完成いたします。しかし、民間企業が借りて使用しているのは、わずか450キロしかありません。一部人気地域を除けば、がらがらであります。マスコミから、全国各地に休眠状態の光ファイバー網がいたずらにふえることになりかねないと指摘をされているのであります。その上、下水道にまでも同様にしようとしています。こうしたやり方は改めるべきではありませんか。答弁を求めます。

 私は、IT革命の看板を従来型の公共事業予算の推進策に使ったり、景気対策の手段にする目先の無責任な対応ではなく、長期的視野に立った本格的な国民的対策を行うことこそが必要であるということを強調して、質問を終わるものであります。


衆院本会議での反対討論

2000年11月9日   日本共産党 矢島恒夫衆院議員

 私は、日本共産党を代表して、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法案に対して、反対の討論を行います。

 私は、まず、21世紀の社会のあり方にかかわる基本法の審議にもかかわらず、野党が要求した公聴会開催要求も受け入れず、与党がともかく審議を急ぐことに終始したことを、厳しく指摘するものであります。

 情報通信技術の発展は、人類の文化、技術の発展の中でも画期的な一段階を開きつつあります。特に、インターネットは、既に国民の2割以上が利用し、多様な情報を入手し発信する新しいコミュニケーションの手段となっています。我が党は、この新しい技術を社会全体が有効に活用できるようにしていくために、国民だれもが利用でき、その成果をすべての国民が受けられるようにすることこそ基本にすべきだと考えます。そして、個人情報の流出やITを利用した新たな犯罪など、否定的な諸問題への対応を重視すべきだと考えています。

 本法案に反対する第一の理由は、基本法として最も重要な民主主義の立場が欠落しているということであります。国民こそが、高度情報通信ネットワーク社会の主人公であります。法案には、この見地が完全に欠落し、目的、理念に、高度情報通信ネットワーク社会の形成が民主主義の発展に資する、という言葉すらありません。本法案では、国民が望む高度情報通信ネットワーク社会の形成となり得ないことは明らかであります。

 第二の理由は、高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たって最低限の土台となる、高度情報通信ネットワークへのアクセスを国民の権利とし、それを国が保障するという明確な理念及びその理念を具体化していく基本方針、重点計画がないことであります。

 審議の中でも、インターネットが障害者の社会参加への可能性を画期的に高めることが明らかになりましたが、障害者が活用できるような器具の開発や料金制度の具体化なしには、この可能性は現実のものとなりません。高度情報通信ネットワークの形成を民間の競争のみに任せるならば、地域、年齢、所得、身体的制約などによる新たな情報格差が生じ拡大することは明瞭であります。

 第三の反対理由は、高度情報通信ネットワーク社会形成の必須の要件として、個人情報保護及び消費者保護の徹底を国の責務として施策を推進するという点で不十分であるということであります。法案は電子商取引の促進をうたっていますが、個人情報保護及び消費者保護の徹底がなければ電子商取引の健全な発展はあり得ません。

 基本法として、国民、消費者こそが主人公という根本的な哲学を欠く本法案では、国民が望む高度情報通信ネットワーク社会の形成とはならないということを指摘して、私の反対討論を終わります。


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