いま、「小規模市町村」の強制合併や権限縮小の問題がとくに町村に大きな波紋をひろげています。昨年七月に地方制度調査会が、市町村合併特例法の期限後(二〇〇五年四月以降)の「小規模市町村」のあり方を「審議事項」にかかげ、九月には自民党のプロジェクトチームが「人口一万人未満」の町村の事務を窓口サービスだけに限定する案を検討していることが報道されました。そして、十一月一日の地方制度調査会の専門小委員会では、西尾勝副会長が私案「今後の基礎的自治体のあり方について」を提出し、議論が本格的にはじまりました。
こうした十一月はじめまでの動きとこの「小規模町村」問題をどうみるべきかについては、本誌昨年十二月号の論文「小規模町村合併強制のたくらみをどうみるか」(金子邦彦党自治体局員)で詳しく論じていますので、参照してください。
その後の動きでは、全国町村会と全国町村議会議長会が、さらに毅然とした反対の姿勢ととりくみを強めているのが大きな特徴です。全国町村会は、十一月十二日に山本文男会長の「今後の基礎的自治体のあり方について(地方制度調査会専門小委員会における『西尾私案』)に対する意見」をまとめ発表しました。そこでは、これまで町村が「地域の実情に沿った個性豊かな行政を展開し、最も住民に身近な行政主体としての役割を果たしてきた」ことのうえにたって、「一定規模の人口に満たない市町村を強制合併の対象としたり、権限の制限・縮小を行うことは、地方自治の本旨にそぐわないものと考える」「『私案』は財政効率、経済効率、規模の論理を優先することで貫かれており、地方自治・地方分権の理念に照らしても問題があるばかりでなく、総じていえば人口規模の少ない町村を切り捨てるという横暴極まりない論旨であり、絶対容認できない」と、きわめて厳しく非難しています。
十一月二十七日に開いた全国町村長大会では、緊急重点決議をあげ、「このような議論は、町村が人口小なりとはいえ、現に住民生活にかかわる幅広い分野で様々な公共サービスを提供し、国土保全等に重要な役割を果たしている実態を認識しておらず、いわば町村を無視したもので、到底容認できるものではない」として、「市町村合併は自主的に行うべきものであり、強制しないこと」、「人口が一定規模に満たない市町村を、『小規模市町村』と位置づけ、その権限を制限・6縮小することは、絶対に行わないこと」などを国に強く要請しています。ことし二月二十五日には、全国町村議会議長会と共催で「町村自治確立総決起大会」を開催します。
全国町村議会議長会は、十一月二十一日、安原保元会長の「『今後の基礎的自治体のあり方について(私案)』に対する意見」を発表しました。「現に、人口が少なくても、立派に自治を実践し、住民自治を徹底している町村があり、これからも合併しないで存続していこうとしている町村がある場合、そうした町村の『自治のあり方』は尊重されるべきである。然るに、かかる町村の意向や住民の意識とは無関係に、一定の基準を機械的に適用して『小規模町村』と位置付け、その『解消』を図るということは絶対に認めるわけにはいかない」「平成十七年四月以降、第二次合併推進運動を展開し、町村から基礎自治体としての地位を剥奪し、町村を解消しようとする『私案』は、地方制度調査会のこれまでの輝かしい歴史を踏みにじり、自治を破壊する以外の何ものでもなく、絶対に認めるわけにはいかない」と、これもきわめて厳しい批判です。
十一月二十日の町村議会議長全国大会では、まさにこの問題を主題に「宣言」を採択し、国による強制的な市町村合併の促進に加えて「町村の根幹に係わる自治制度の改変を検討していることは、町村の存在そのものを否定することに繋がるものである」、「まさに、今や、町村は危急存亡のとき」、「われわれ町村議会にあるものは、事態の厳しさを真剣に認識し、関係団体と連携を密にして、町村の自立に向け毅然とした運動を展開していくことを、ここに誓う」と宣言し、特別決議も採択しています。
さらに、全国町村議会議長会は、十二月六日の役員会で「『西尾私案』粉砕のプログラム」を決定し、同十一日各町村議会議長に十二月議会での意見書の採択をはじめとする依頼の連絡をおこなっています。「『西尾私案』粉砕のプログラム」では、意見書の採択のほか、全国紙への投稿や一面全面広告、二月二十五日に全国町村会と共催での「町村自治確立総決起大会の開催とデモの実行、そして、総決起大会の前に、各四十七都道府県において、地元選出の国会議員に対し、文書で『西尾私案』に賛成か反対かの確認を取る。賛成の国会議員に対しては、来るべき総選挙において応援できない旨、伝える」ということも決めています。
こうした動きを受けて、全国各地の町村議会での意見書の採択が広がっています。和歌山県では、四十三町村の八割近い三十三町村議会が「西尾私案」批判の意見書を採択しています。長野県でも町村会事務局の調べで、百三町村のうち五十三町村議会が「西尾私案」に反対、あるいは再考を求める意見書を可決しています。
二月二十二、二十三日には、「小さくても輝く自治体フォーラム」が、北海道ニセコ町長、福島県矢祭町長、群馬県上野村長、福岡県大木町長、長野県栄村長のよびかけで、栄村で開かれます。
各地の県知事も、「西尾私案」など合併強制と権限はく奪の動きへの批判をおこなっています。鳥取県の片山知事が十二月五日の県議会本会議で「人口が多ければ能力はある、人口が小さければ能力はない。こんな決めつけ方をするのは非常に幼児的発想」、「人口が八、〇〇〇人くらいしかいないから、もう窓口業務をするしか能力がないと決めつけて、権限をはく奪するのは自治の侵害」と厳しく批判しています(「自治日報」十二月十三日付)。秋田県の寺田知事も十二月県議会で「自己決定、自己責任という地方分権の根本的な理念から逸脱するものと言わざるを得ません」と表明しました。長野県の田中知事は、十二月二日、県内の合併に頼らない自治体のあり方を研究している坂城町、小布施町、栄村、泰阜村の四首長との話合いをもち、「四町村の取り組みが(市町村の)『自律』を目指す人たちの光明となるようにしていただきたい」とあいさつしています(「信濃毎日」十二月三日付)。
また、連合傘下の自治労も十二月九日、「西尾私案」に対する意見をまとめ、「国による画一的な基準や価値の押しつけ、強制によるものであれば、もはや地方自治とはいえなくなる」、「優れた自治体経営や行政施策で目立つ自治体は町村にも数多く、地方自治体の能力は規模の大小ではかることはできない」などと批判しています(「自治日報」十二月十三日付)。
この問題を議論する国の公式の場である地方制度調査会では、専門小委員会が十一月一日(第十回)に続いて十二月十七日(第十三回)にもこの問題を議論しています。注目すべきは、十二月の委員会には、十一月の委員会での議論のさいに「西尾私案」について「住民自治というものが消えてしまったという気がする」、「地方自治の本旨という点からいって問題ではないか」と発言していた尾崎護委員(国民生活金融公庫総裁)が、「西尾勝副会長私案に対する意見」を提出していることです。そのなかで尾崎氏は、「地方分権の理念に鑑みれば、住民がどうしても合併に賛成しないという自治体に対し合併を強制することは適当ではない」、「理念達成の手段としての合併の重要性を強調するあまり、強圧的な議論という印象を与えかねないことを危惧する」と表明しています。
一方、自民党は十二月十二日に開いた総務部会で、同部会の「地方自治に関する検討プロジェクトチーム」がまとめた「市町村合併に関する中間報告」を了承しています(「自治日報」十二月二十・二十七日付。「中間報告」も掲載)。現行合併特例法の期限までの「市町村合併の強力な促進」のための新たな法的な措置などとともに、その後に「なお残る小規模市町村(例えば人口一万人未満)については、引き続き基礎的自治体として位置付けるとしても、通常の市町村に法律上義務付けられた事務の一部を都道府県又は周辺市町村が実施する仕組みとすること等の方策について、今後さらに検討する」、「上記の小規模市町村については、地方交付税の割増措置等のあり方を含めさらなる縮小について検討する」などとしています。
このうち地方交付税について「あり方を含めて」としたのは、議論のなかで委員から「小規模町村には交付税への甘えがあり、交付税を交付しないことも検討すべき」などの意見が出たためとされています。こうした乱暴な議論を平気でおこない、その含みをもたせた表現を「中間報告」にもりこむというのは、一部会とはいえ、自民党の地方自治についての見識が問われるものです。もし、自民党全体がこうした立場に固執するなら、その支持基盤を根本から掘り崩すような反撃をまきおこさなければなりません。
昨年の十一月、十二月の動きをみてきましたが、地方制度調査会の中間報告のまとめの期限が今年三月となっているだけに、この二月、三月のとりくみは決定的に重要な意味をもっています。全国町村会、全国町村議会議長会をはじめ、関係者・6関係団体の広範な共同が事実上つくられてきています。憲法が保障する地方自治と、住民生活にとっても国土保全にとってもかけがえのない役割をはたしている全国の町村、ふるさとを守るために、さらに広大な世論に発展させることが強くもとめられています。
|