国から地方への税源移譲そのものは、地方自治体関係者がかねてから要望してきたことです。日本共産党も、自治体の財政基盤を強化するために、国税の一部を地方に移譲することを検討すべきと主張してきました。
今回、税源移譲が小泉内閣の「三位一体の改革」でとりあげられたのは、「地方の自立」を建前に、国からの地方への支出を大幅に減らすことを目標にして、国庫補助負担金と地方交付税の大幅な削減をはかろうとする以上、その代替的な措置として避けて通れないからです。「地方への税源移譲」が掲げられたからといって、単純に歓迎するわけにはいきません。しかも、財務省は、その場合でも「国税の減税になる税源移譲は反対」という立場であることは問3でもみたとおりです。
もちろん、「三位一体の改革」は閣議決定ですから、総務省などをはじめ税源移譲の議論が始まっています。この問題に、どういう立場で接近する必要があるのかを考えてみましょう。
まず、地方への税源移譲そのものは当然の要望です。それは、地方の財政基盤を強化するためにもとめているものです。もし、それが逆に、地方自治体にとって歳入が減るようなやり方であれば、もともとの目的に逆行することになります。そもそも、地方自治体の間には、大きな税収のアンバランスがあります。ですから、税源移譲だけでは、一般的にいえば、課税対象が大きい自治体と、小さい自治体との格差はいまより広がらざるを得ません。この点は総務省も財務省も認めています。したがって、地方への税源移譲を検討するときには、あわせて、この格差の是正、とりわけ農山村地域を広くかかえるなど課税対象が小さい自治体への配慮が十分におこなわれる必要があります。基本的には移譲すべき税源と配分方法、さらにどうしても地方交付税による財源保障の充実が必要でしょう。
全国町村会もこうした立場に立っています。片山総務大臣が昨年五月に、国庫補助負担金を五・五兆円削減し、それに相当する規模の地方への税源移譲案をしめしたのにたいして、全国町村会の山本会長が次のような談話を発表しています。
「全国町村会としては、地方税財源の充実確保についてかねてから要望してきたところであり、今回、税源移譲について、具体的な道筋があきらかにされたことは、一歩前進と受け止めている。今後の具体的な検討にあたっては、人口が少なく、また、課税客体の乏しい町村の自主的・自立的な行財政運営に支障が生じないよう、移譲されることとなる税源の配分や地方交付税の確保等について十分配慮いただくことが必要であると考えている。」
では、そもそも税源移譲に反対している財務省はさておいて、総務省の試案・ビジョンはどういうもので、地方自治体と住民にとってどういう問題点、危ぐがあるのかみておきましょう。
総務省の考え方は、五月の片山試案とそれをふまえた八月の「制度・政策改革ビジョン」にしめされています。税源移譲は二段階で、まず国庫支出金(一部)の地方税への振替えを先行実施し、次に景気・税収の回復を踏まえ地方交付税(一部)を地方税に振替え、国税と地方税の比率を現在の「三対二」から「一対一」にするというものです。先行する振替えでは、国庫支出金を五・五兆円程度縮減する一方、所得税から住民税に三兆円程度(個人住民税を一〇%の比例税率化)、消費税から地方消費税へ二・五兆円(五%のうちの現行一%を二%に引き上げ)、合わせて五・五兆円を税源移譲するとしています。
総務省は、「税収が安定的で、かつ、税源の偏在性が少ない」ものと説明しています。たしかに、法人税などと比べれば、所得はどこにもあり、消費もどこにもあるでしょう。しかし、現実には、所得税も地方消費税も地方間の格差は、人口の違い以上に大きく、単純な税源移譲では格差はさらにひろがることになります。たとえば、人口でほぼ十倍の開きのある東京(千百九十万人。全国の九・四%)と秋田(百十九万人。同〇・九四%)で比較してみると、所得税(源泉所得税と申告納税額の合計。平成十三年度)は、全国合計十九兆六千五百三十八億円のうち、最大の東京は五兆四千五百十八億円で二七・七%を占める一方、秋田は八百六十四億円で〇・四四%にすぎません。両県の比較では実に六十三倍の開きがあります。もちろん移譲は全額でなく、各個人の所得税の一〇%の定率という提起ですが、それでも格差が拡大することはあきらかです。地方消費税も、都道府県に交付されている清算後の収入額をみると、全国二兆五千二百八十二億円のうち、東京は三千一億円で一一・九%を占める一方、秋田は二百三十億円で〇・九%、両県の比較では十三倍です(平成十二年度。『平成十四年版地方財政統計年報』)。さらに、同じ県内でも、都市と農山村地域の町村との格差があるのは一般的傾向です。
これに対して、削減対象の国庫支出金の額を比べると、東京は九千六十二億円で全国の六・三%程度で、一方、秋田は二千百四億円で一・五%になります。両県の比較では格差は四・三倍程度しかありません(都県と市町村の合計。平成十二年度普通会計決算。全国合計は十四兆三千五百三億円。『平成十四年版地方財政統計年報』)。
このように総務省の案についても、格差の少ない現行の国庫補助金・負担金を縮減して、格差の大きい税を移すわけですから、地方間の格差はひろがらざるを得ません。総務省の「ビジョン」も※印の注で「税源移譲に伴う地方団体間の財政力格差の拡大に対応した財源均てん化の方策については総合的に検討」としています。「格差の拡大」を認めたうえで、「総合的に検討」といいますが、これは「いまのところ妙案はない」と読み解くべきでしょう。この問題は、さまざまな学者や研究者なども、諸案を検討していますが、地方税充実という枠の中では解決は困難でしょう。地方への税源移譲の検討にあたっては、全国町村会などが提起するように、地方交付税の財源保障機能の拡充などをあわせた方策を探ることなしに、地方への一方的な負担転嫁を避けることはできません。
また、地方消費税の引き上げという方向は、消費税増税の要因、口実にもされかねない危険をはらんでいることも指摘しておかなければなりません。昨年末に、小泉首相が年金の国庫負担率を引き上げる財源として消費税増税の議論を提起し、この正月早々には日本経団連がそれを受ける形で、二〇〇四年度から毎年一%ずつ引き上げ二〇一四年度には一六%にするというビジョンを発表しているだけに、警戒と反撃がもとめられます。
このほか、総務省の案では、税源移譲ではありませんが、地方税充実の方法として、法人事業税(都道府県税)への外形標準課税の導入や個人住民税の諸控除の見直しによる増税も含まれています。外形標準課税の導入については、地方団体のなかでは安定した税収を得たいとのことから導入を求める声が強くあります。もちろん、日本共産党は、大銀行や大企業は別にして、赤字の中小企業からも新たに税金を取り立てる外形標準課税の導入には反対です。中小業者をはじめ保守層もふくめて反対の声がつよいものであり、合意を広げる努力が求められています。
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