地方交付税には、(1)自治体間での税収のアンバランスを調整するという財政調整機能と、(2)自治体が標準的におこなうべき行政サービスの財源を国が補償するという財源保障機能という、二つの役割があります。これは、戦後の日本国憲法と地方自治法のもとで確立された地方交付税制度(一九五〇年に地方財政平衡交付金制度、五四年に地方交付税制度に整備)のスタートからの基本的な役割です(地方交付税について詳しくは、本誌〇二年四月号「地方政治 これだけは知っておきたい」、または『必携地方政治 これだけは知っておきたい2』、新日本出版社、などを参照してください)。
小泉内閣が、この地方交付税の財源保障機能の縮小を目指すとしていることは、戦後の地方自治の歴史に前例のない根本的で、重大なくわだてです。「第二次骨太方針」では「地方交付税の改革を行う。九割以上の自治体が交付団体となっている現状を大胆に是正していく必要がある。このため、この改革の中で、交付税の財源保障機能全般について見直し、『改革と展望』の期間中に縮小していく」と、二〇〇六年度までの課題として提起しています。さらに財界や財務省サイドは、「地方交付税の財源保障機能の廃止」まで主張しています。
戦後の地方自治を財政的に支えてきたもっとも基本的なしくみである地方交付税の財源保障機能の大幅な縮小や廃止を許さず、堅持させるかどうかは、地方財政をめぐる攻防の最大の焦点といってよいでしょう。全国町村会や全国町村議会議長会をはじめ地方自治関係者が、地方交付税の財政調整と財源保障の機能の堅持を強く主張しているのは当然のことです。
そもそも、地方交付税の財源保障機能は、いわば地方交付税制度の命ともいえる位置を法的制度的にもっており、しかもそれは現実に照らして合理的かつ必要な制度です。それだけに財務省などにとって、その抜本的な改悪は容易ならざることです。この問題を考えるさいに大切なことは、このことにしっかり確信をもってのぞむことです。
条文を紹介しながら、交付税の財源保障機能が法的にはどのように裏付けられているのかをみてみましょう。
地方交付税法の第一条(法律の目的)は、「この法律は、地方団体が自主的にその財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能をそこなわずに、その財源の均衡化を図り、及び地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障することによって、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的とする」とのべています。「財源の均衡化」は、税収のアンバランスの調整、つまり財政調整機能のことです。財源保障機能については「地方交付税の交付の基準の設定を通じて地方行政の計画的な運営を保障する」と述べています。そして、そのことが「地方自治の本旨の実現」に役立ち、「地方団体の独立性を強化すること」になると明記しています。いま、財界や財務省サイドなどは「地方交付税が地方自治体の自立を妨げている」といっていますが、これは本末転倒の議論です。地方交付税法は、必要な財源を保障してこそ、地方自治体は国に依存することなく独立して運営できるという見地に立っているのです。
法第二条では、各用語の定義がされています。地方交付税については、その第一項で「第六条の規定により算定した所得税、法人税、酒税、消費税及びたばこ税のそれぞれの一定割合の額で地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるように国が交付する税をいう」と規定しています。ここには、交付税の本来の原資は何かとともに、「地方団体がひとしく行うべき事務を遂行することができるように国が交付する税」と、財源保障こそ地方交付税の本来の役割であることをはっきりと規定しています。
法第三条では、運営の基本を定めています。その最初に国の責任に触れ「総務大臣は、常に各地方団体の財政状況の的確なは握に努め、地方交付税の総額を、この法律の定めるところにより、財政需要額が財政収入額をこえる団体に対し、衡平にその超過額を補てんすることを目途として交付しなければならない」と規定しています。これは、財源保障機能の発揮の方法の基本を定めたものといえるでしょう。
このように、地方交付税法の第一条から第三条まで、この法律の根幹にあたる条文をみても、財源保障機能が交付税のもっとも基本的な役割であり、命ともいうべき位置づけがされていることはあまりにあきらかです。十二月六日に出された地方財政審議会(総務大臣の諮問機関)の「平成15年度の地方財政についての意見」も、基本的に片山試案・6総務省ビジョンの線に沿ったものですが、そのなかでも「地方交付税の財源保障機能についてさまざまな議論が行われているが、地方交付税は、財源保障と財源調整の二つの機能を一体として果たす仕組みであり、地域間での税源偏在が存在する中で、国が地方公共団体に一定の行政水準の確保を求める仕組みが採られている以上、地方交付税による財源保障と財源調整は不可分であり、両機能のうち財源保障のみを廃止するという考え方は採り得ないものである。三位一体の改革の推進に当たっても、こうした地方交付税の役割の重要性を十分踏まえることが必要である」と、あらためて強調しているほどです。
また、問3で、国庫補助金・負担金と地方交付税、地方税収は密接な関連があることに触れ、介護保険給付費を例に挙げておきました。国が定めた地方自治体の仕事の場合、国の負担金・補助金が一定割合で支出され、その残りの地方負担分は、地方交付税の基礎になる基準財政需要額に算入されます。地方税が十分でない自治体は、交付税として交付されることになります。これは、地方財政法の第十一条の二で、国の負担金を規定した第十条に続いて、「経費のうち、地方公共団体が負担すべき部分は、地方交付税法の定めるところにより地方公共団体に交付すべき地方交付税の額の算定に用いる財政需要額に算入するものとする」との規定にもとづくものです。主な項目と割合をしめしたのが資料4(データファイル)です。いちばん右の欄が、地方負担分の措置です。
こうして、地方財政法と地方交付税法、さらにそれぞれの行政の仕事を規定した各法律にもとづいて、地方交付税は交付されているのです。もちろん、国は、「標準的な経費」の水準を決める権限を持っていますから、毎年の地方交付税法や総務省令の改定で、一定の範囲内での見直しをすることはできるし、これまでもおこなってきました。公共事業や地方単独事業の奨励のしくみ、段階補正の縮小などは、その代表例です。見直すというなら、交付税制度に持ち込んできた公共事業促進のしくみこそ見直すべきです。それによって、公共事業の全体の規模が縮小されることは、基本的に歓迎すべきことであり、それに対応する分の交付税が減ることは当然あってよいことです。もちろん、その見直しが、ゼネコン型事業は継続され、生活密着型が大幅に削られるというのでは反対です。
小泉内閣は、国庫補助負担金の数兆円規模での削減を、本来なら税源移譲とともにその受け皿となるべき地方交付税の財源保障機能を逆に縮小することとあわせておこなおうというわけですから、現法律の体系のなかでの「見直し」では到底実行できない課題とならざるをえないのではないでしょうか。
もし、地方交付税の財源保障機能を大幅に縮小するとか、財務省の主張するような廃止ということなれば、現行の地方交付税の「改定」ではなく、実質的には「法の廃止」にも等しい抜本改悪というべき大問題です。国がこうした地方財政法や地方交付税法の基幹的な条項の改悪に踏み出すとすれば、地方自治体や関係団体だけでなく、福祉や教育をはじめ「ナショナルミニマム」にかかわる広範な各分野からの激しい反発と抵抗に直面することは間違いありません。
|