現在の地方財政論議をどう見るか

問3/地方財政の「三位一体の改革」といわれていますが……

答え/地方への財政支出の切り縮めがねらいですが、矛盾にも直面しています


 小泉内閣が昨年六月閣議決定したいわゆる「第二次骨太の方針」(「経済運営と構造改革に関する基本方針2002」)は、地方行財政改革を強調し、そのなかで、「国庫補助負担金、交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方を三位一体で検討」することを明記しています。これは、「国が地方に要請する仕事の洗い直し・縮小に応じて、補助金や地方交付税、あるいは地方財政計画により財源を手当てする歳出の範囲・水準を縮小する」(「構造改革と経済財政の中期展望」、〇二年一月二十五日閣議決定)という、地方への財政支出の削減方針の具体化をはかるものです。三位とは、国庫補助負担金の大幅削減、地方交付税の「改革」(見直し)、地方への税源移譲を含む税源配分の見直しのことです。

 この三つの分野は、実はもともと密接に関連しています。たとえば、介護保険の給付費の公的負担分は、半額を国が負担金として地方に支出し、残りの半額は地方の負担となりますが、地方交付税で措置する対象になるというしくみで、税収の少ない市町村も財政運営に困らないようになっています。もちろん、国庫補助負担金、地方交付税、税源配分はそれぞれ相対的に独自のしくみをもっているので、その範囲で「見直し」ができる部分もあります。

 しかし、今回のように、「改革」の内容と規模が大きくなることを想定した場合は、それぞれの独自の「見直し」ではどれも到底実行できません。たとえば、「第二次骨太方針」では、「国庫補助負担金について、『改革と展望』の期間中(二〇〇二年度〜二〇〇六年度の五ヵ年)に、数兆円規模の削減を目指す」としています。これほどの規模での削減となると、大きな問題になっているように義務教育費の国庫負担金(義務教育教員の給与の二分の一)など、憲法と関連法が国の支出を義務づけている分野をも対象としなければならなくなります。本来、国が法令で義務づけられているような国の支出であるならば、現在の地方財政法の規定通り、国庫負担金として地方に支出するのは当然のことです。国庫負担金の大幅削減は、国の責任放棄につながるものであり、全体としては許してはならないものです。

 そのうえでの議論ですが、さすがに国も、国庫負担金や必要な補助金については、削減すればすむというわけにはいかないので、補助負担金のうち今後も必要な事務の経費は「一般財源化」するといっています。「一般財源化」とは、その必要な財源分を地方交付税で措置するか、地方に税源を移譲するか、あるいはそれに準じた方法で国が地方に財政補償するということです。ところが、同じ「第二次骨太方針」で「交付税の財源保障機能全般について見直し、『改革と展望』の期間中に縮小していく」とも明記しているように、地方交付税は削減したいのが小泉内閣の立場ですから、そうすると、必然的に、基本的には地方への税源移譲でカバーするしかない、ということになります。

 つまり、福祉や教育をはじめ国民生活にかかわる国の制度を大幅に後退させて、そもそも財源が要らないようにしてしまえば話は別ですが、それが思うようにいかなくて、なお国庫補助負担金の大幅削減・一般財源化をおこない、かつ地方交付税は減らすとするなら、地方への税源移譲しか本格的な手だてはないことになります。その意味では、小泉内閣が「三位一体の改革」で「地方への税源移譲を含めた税源配分のあり方を検討する」としているのは、地方への支出削減という彼らの論理から必然的な帰結であって、これまで地方自治体関係者が要求してきた税源移譲とは異なる発想によるものであり、いささかも幻想をいだくわけにはいきません。

 同時に、国の「三位一体の改革」論には、大きな矛盾があります。なにより、前述したような事情によるものであっても、地方への税源移譲について、財務省は激しく抵抗していることです。塩川財務大臣が昨年五月二十一日に経済財政諮問会議に提出した資料でも「国の基幹税である所得税、消費税が国の歳入を確保できていない現状では、これらの移譲は困難」として、「国・地方を通じた行政のスリム化」や「課税自主権の発揮」などを強調しています。もし、本格的な税源移譲が困難となれば、国庫負担金の大幅削減も地方交付税の見直しも、暗礁に乗り上げることになりかねません。

 もちろん、こうした矛盾があっても、内閣の方針に掲げている以上、地方への総支出の削減という大目標に向かって必死になることはあきらかであり、いささかもこの地方切り捨てのたくらみを軽視せず、それを許さないとりくみを強めることが求められています。
 昨年十一月に開かれた全国町村長大会で採択された「緊急重点決議」が、合併の強制や「小規模町村」の位置づけと権限制限・縮小に厳しく反対するとともに、「税源移譲等により、町村税財源の充実確保をはかること」「国庫補助負担金の廃止・縮減を先行実施するなど、単なる地方への負担転嫁は絶対に行わないこと」「地方交付税のもつ財政調整機能、財源保障機能を絶対堅持するとともに、必要な総額を確保すること」を国に要求しているのは、地域住民の利益と権利、地方自治の大義に照らしてまったく正当なことです。

新年度予算での「芽出し」の内容は

 さて、小泉首相が「新年度予算で、三位一体の改革の芽だしを」とくり返し強調したこともあり、政府予算案で、その「一歩」が盛りこまれました。国庫補助負担金の削減では、義務教育費の国庫負担金のうち「共済長期負担金」(年金の雇用者負担分に相当するもの)などで二千二百億円弱、在宅福祉事業費補助金の一部など二百億円弱を削減する計画になっています。あわせて二千三百億円程度です。その財源措置は、半分の千二百億円程度を地方特例交付金で、残り半分の千二百億円程度を地方交付税の増額で対応するとしています(なお、地方交付税分の財源は交付税特別会計の借入金でまかなうのですが、その返済額の四分の一を「地方負担分」としているのは、国の責任を転嫁するもので問題です。ただし、「地方負担分」といっても国の会計上のもので、個々の自治体の会計には直接あらわれません)。

 半額を地方交付税特例交付金としたのは、地方交付税だけで措置した場合、東京都のような交付税の不交付団体は財政措置の対象からはずれてしまうため、それを避けたものでしょう(地方特例交付金制度は、恒久的な減税に伴う地方税の減収の一部を補てんするため、地方税の代替的性格の財源として、地方交付税の不交付団体への影響も考慮した方策として活用されてきたものです)。

 国庫補助負担金のもう一つの削減は、市町村道整備に係る補助負担金の見直し(約四百五十億円)です。関連して、国の直轄事業による高速道路整備の地方負担の導入(都道府県に新たに約四百五十億円の負担)がはかられ、あわせて九百億円程度の財源措置をとるというものです。その方策として、自動車重量譲与税(市町村)の割合を四分の一から三分の一に引き上げ、そのうち半額程度を都道府県に配分しなおす、という少しややこしい措置になっています。

 地方交付税の「見直し」については、今回の予算案と地方財政対策の段階ではあきらかにされていませんが、昨年八月に出された「総務省 制度・政策改革ビジョン」ではいくつかの点がしめされています。事業費補正の見直し(平成十四年度からの実施。地域総合整備事業債の廃止)、段階補正の割増率の縮減、留保財源の見直し(平成十五年度から都道府県分で五%引きあげ)などです。

 これで「三位一体の改革」の「芽だし」ができた、というわけです。しかし、この「芽だし」の内容をみれば、「三位一体」の矛盾の解決にメドがついたとは到底いいがたいことはあきらかです。総務省も、今回の地方財政対策の説明テキストで、地方特例交付金と地方交付税による国庫補助負担金の一般財源化の措置について、わざわざ「暫定措置」と注意書きをしているほどです。



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