1997年9月26日

日本共産党第21回大会決議

第3章 世界の動きと日本共産党の立場


(10)アメリカ覇権主義の横暴と矛盾

 (1)第二十回党大会は、ソ連解体後の世界で、アメリカが軍事的にも経済的にも覇権主義をつよめていることを警告したが、その後の情勢の展開のなかで、アメリカ覇権主義の横暴は、むきだしの形であらわれた。

 その危険な本質を全世界にしめしたのが、一九九六年九月のイラクにたいするミサイル攻撃だった。これはいかなる国連決定にも根拠をもたず、国際法を無視した、無法な攻撃だった。イラク政府の行動には、クルド人自治区にたいする弾圧など批判されるべき問題があったが、だからといってアメリカが勝手にイラクを裁き、軍事制裁をおこなう権利をもつことには、けっしてならない。

 この軍事攻撃は、偶然のものではない。アメリカは、ソ連崩壊によって、その巨大な戦力を正当化してきた「ソ連の脅威」という大義名分を失うことになった。アメリカが、それにかわる「脅威」としてもちだしてきたものは、北朝鮮、イラン、イラク、リビアなど、「ならず者国家」と彼らがよぶ一連の諸国だった。これらの国ぐには何をやるかわからない国家であり、その「脅威」にそなえるためにアメリカは強大な軍事同盟と核兵器をもちつづける必要がある、アメリカが必要と考えればこれらの国ぐににたいする軍事制裁も許される――これがいま公式にアメリカが採用している世界戦略である。

 アメリカは、世界にはりめぐらした軍事ブロック網のいっそうの強化をはかろうとしている。日米軍事同盟の地球的規模への拡大と、北大西洋条約機構(NATO)の東欧地域への拡大は、その二つのかなめとなっている。しかし、旧ソ連にくらべれば比較にならない軍事力しかもたない「ならず者国家」の「脅威」なるもので、この巨大な軍事同盟網を合理化することは到底できない。アメリカ主導の軍事同盟の本質が、あれこれの「脅威」からの「防衛」にあるのではなく、「世界で唯一の超大国」を自認するアメリカが、地球的規模でみずからの覇権を追求する道具であることは、いよいよ明りょうとなっている。

 アメリカを先頭とした核保有大国は、一九九五年五月に核不拡散条約(NPT)の無期限延長を強行した。核保有国のみが核兵器を永久にもちつづけるという特権をふりかざす集団的な覇権主義が、ますますあらわとなっている。アメリカは、核兵器独占体制をまもるためには、核兵器の先制使用さえおこなうという「拡散対抗構想」をとっている。アメリカは、最近、地下施設破壊用の新型核爆弾B61―11を配備したが、政府当局者はこれを「ならず者国家用の核兵器」だと言明している。また、核戦力の保持と強化を目的に、未臨界核兵器実験を強行している。

 (2)こうしてアメリカ帝国主義は、みずからの戦後の歴史のなかでも、もっとも傍若無人でごう慢な姿をしめしている。しかし、これは平和と民族自決にむかう世界史の大きな動きからみれば、逆流にほかならない。アメリカの横暴は、国際社会との深刻な矛盾を、さまざまな分野でひろげつつある。

 昨年のイラクへの無法な軍事攻撃は、国際社会の拒否と批判をよびおこした。フランスはアメリカの軍事行動を支持せず、ロシアと中国はアメリカの介入をきびしく非難した。中東諸国も、クウェートをのぞき批判的な姿勢をしめし、サウジアラビア政府は米軍の基地使用を拒否することを言明した。国連安保理事会の場でも、この軍事攻撃を追認させようとするアメリカ、イギリス両国のくわだては、各国のきびしい反対によって、破たんをよぎなくされた。こうした国際社会の理性的な対応にくらべても、イラク攻撃のために在日米軍基地を自由に使用させ、この無法に全面的支持をあたえている日本政府の追随姿勢はきわだっている。

 核兵器に固執する勢力に反対し、核兵器廃絶をめざす国際世論にも、大きな質的前進がつくられた。一九九五年十二月の第五十回国連総会では、期限をきった核兵器廃絶を正面から要求する総会決議が、はじめて採択された。九六年十二月の第五十一回国連総会では、核兵器全面禁止・廃絶条約の早期締結のための交渉開始をよびかける総会決議が、はじめて採択された。これらは、核兵器廃絶を期限をくぎった緊急課題とすることが、国際社会の合意になりつつあるという点で、画期的なものである。

 こうした国連における前進には、諸国民の運動と世論の発展、非同盟運動が積極的役割をはたしている。非同盟諸国は、ジュネーブ軍縮会議に、二〇二〇年までに三段階で核兵器を完全廃絶するという、具体的な「核兵器廃絶のための行動計画」を提出している。

 唯一の被爆国でありながら、いぜんとして核兵器廃絶を「究極目標」として棚あげしている日本政府の立場は、核兵器問題をめぐる国際社会の前進に逆らう、恥ずべきものである。

(11)世界の資本主義経済の新たな矛盾のひろがり

 (1)わが党は一九八〇年代から、世界の資本主義経済が深刻な矛盾におちいるもとで、それまでのケインズ経済学にもとづく経済政策――政府が国の財政をつぎこんで経済に大規模にてこ入れすることで大企業中心の経済をさかえさせる政策が、処方せんとして役立たなくなっていること、それにかわる新たな安定した指針をみつけだせないでいる現状にあることを、指摘してきた。この状況は、今日も根本的には変わっていない。

 ケインズ政策がゆきづまるもとで、発達した資本主義諸国のなかでは、一九八一年に発足したアメリカのレーガン政権、一九七九年に発足したイギリスのサッチャー政権、一九八二年に発足した中曽根政権などの時期から、「規制緩和万能」論ともよぶべき経済政策の流れがつよまった。それは、「規制緩和」による「自由な市場原理」こそが、経済を「再活性化」させるという考えにたって、大企業への経済的規制の撤廃、労働法制の改悪、社会保障制度のきりちぢめ、公営企業の民営化、大型間接税と一体の法人税・所得税減税など、多国籍企業化した大企業の横暴をよりいっそう野放しにし、世界的な規模で独占資本の集積・集中をつよめようというものであった。

 国際的にみると、クリントン米政権は、アメリカの多国籍企業の利益拡大を最優先させた「規制緩和」の世界各国へのおしつけを、「グローバル化」の名のもとにおしすすめている。そのやり方は、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、OECD(経済協力開発機構)、WTO(世界貿易機関)などの国際機関をつうじての支配と、米通商法スーパー三○一条を露骨にふりかざしての二国間交渉におけるおしつけを、使いわけるというものである。アメリカ主導で、全世界ですすめられている「規制緩和」「グローバル化」は、たんなる「自由競争への復帰」というものではなく、多国籍企業につごうの悪い障害をなくし、発達した資本主義国と途上国の国民生活を犠牲にして、多国籍企業のいっそうの巨大化をはかるための新たな国際秩序をつくりだそうというものである。アメリカ流の経済路線を全世界におしつけようという、手前勝手な経済覇権主義の横暴は、EUという自前の経済圏をつくろうとしているヨーロッパ諸国の反発をよびおこしており、発展途上国には深刻な矛盾をつくりだしている。

 (2)「規制緩和」や「グローバル化」のもとで、世界の資本主義は、一九七〇年代以前の時期にもっていたような安定的発展を回復することに成功していないばかりか、つぎのようないっそう深刻な諸矛盾に直面している。

 「規制緩和万能」論にもとづく経済路線が、各国国民との矛盾を深めていることは、ことし五月のイギリス総選挙での保守党の歴史的大敗、六月のフランス総選挙での与党・保守連合の大敗、昨年五月のインド総選挙での国民会議派の歴史的敗北など、この間の一連の選挙での国民の審判にもあらわれている。

 橋本内閣は、「規制緩和万能」論にたった「改革」をすすめるさいに、“世界の流れに日本が取り残されないための改革だ”とのべている。日本の財界はつい最近まで“サッチャーのイギリスに学べ”というキャンペーンをはっていた。しかし、橋本内閣がいますすめようとしている「改革」の路線は、世界でもさまざまな矛盾を深め、各国国民のきびしい審判がくだされつつある路線なのである。世界の動きにてらしても、この道にはけっして未来はない。

(12)国際的な交流と連帯の発展をめざして

 日本共産党は、世界の平和と進歩をめざして、国際的な交流と連帯の活動をいっそう発展させるために力をつくす。

 (1)核兵器廃絶を世界平和の緊急・中心課題として追求し、すべての軍事ブロック・軍事同盟を解消し、外国基地を撤去させるための国際的共同をひろげる。この運動は、これまでの枠をこえて、大きく発展する条件がひろがっている。

 アメリカをはじめとする核保有国による核兵器への固執の姿勢にたいして、アメリカの核戦略の中枢にいた元将軍からも、きびしい批判の声があげられ、一九九六年十二月にはこの二人の元将軍が、つづいて十七カ国六十人の元軍最高幹部が核兵器廃絶の共同声明を発表し、「核抑止力」論を批判するとともに、核保有国がすみやかに核兵器廃絶を誓約することをもとめた。「核抑止」政策を推進してきた人びとさえ、その危険と道理のなさを告発せざるをえないほど、矛盾が深まっている。

 これらは、国連における核兵器廃絶を要求する流れの前進とともに、日本の原水爆禁止運動がいっかんして追求してきた方向が、世界の世論と運動のなかでいっそうたしかな流れとなって発展し、核兵器廃絶を要求するこれまでにない広範な共同戦線が可能であることをしめしている。原水爆禁止世界大会の前進、「ヒロシマ・ナガサキからのアピール」署名運動、「非核の政府を求める会」の運動の発展をはじめ、被爆国日本の運動がはたすべき役割は、いよいよ重要となっている。

 (2)多国籍企業の横暴から、勤労者の権利をまもり、地球環境を保全し、国際的な経済民主主義を確立するための共同と連帯が、大切になっている。

 ことし四月に来日した、アメリカ労働総同盟・産別会議(AFL・CIO)の会長は、東京での講演のなかで、アメリカでの勤労世帯の生活水準がこの二十年間にわたって下落の道をたどっていること、その原因が「米国モデル」の経済原理――「財政引き締め、金持ち減税と貧困層にたいする支援削減、規制撤廃、労働市場の弾力化、および労組の弱体化という保守的な手法」にあることを指摘し、それを日本に導入しようとするくわだてを拒否し、「企業の論理」とたたかうようによびかけた。

 世界的規模ですすめられている「規制緩和万能」論による国民犠牲の政策に反対する国際的連帯を、発達した諸国の勤労者のあいだで、また南北問題の道理ある解決をめざして発達した諸国と途上国のあいだで、大きく発展させる条件がひろがっている。

 労働運動をはじめ各国国民の民主運動の情報交換と交流、切実な問題の解決を探求するシンポジウムや、共通のテーマをかかげた共同行動の実現など、多国籍企業の横暴をおさえ、国際的な民主的規制をはかるための連帯の発展にむけた積極的探求をおこなう。


 (3)第二十回党大会の決定は、「ソ連の崩壊という事態をうけて、それぞれの国の社会進歩の道を自主的に探求しようとする模索と努力が、一連の国ぐにではじまっていることに注目し、それらの勢力との対話と連帯を発展させる」こと、「各国で、科学的社会主義の事業を自主的に探求しようとする勢力、世界平和と社会進歩をまじめに追求しようという勢力――集団や個人との対話と連帯を発展させる」ことを確認した。

 この立場と方針にもとづき、わが党は、多様な国際活動を展開し、相互理解と連帯のために力をつくしてきた。そのなかには、これまでは交流がなかった勢力――党、団体、個人などと、新しく関係をもったものも少なくない。

 この間、世界の進歩的勢力の動きをみると、さまざまな制約や問題点をかかえながらも、社会進歩の道を自主的に探求する努力が各地で開始され、重要な成果もあげられている。一連の国ぐにで、進歩的勢力が、各国政府の国民生活破壊攻撃とたたかい、国政選挙や地方選挙で一定の前進をとげていることも注目すべきである。

 これらの勢力は、軍事同盟解消、核兵器廃絶、多国籍企業の横暴への批判など、国際的にも重要な共通の課題をかかげている。わが党が、そうした党、団体、個人と、相互理解をすすめ、共通の課題で共同をすすめていくことは、科学的社会主義の事業の世界的規模での新たな発展にとって、重要な意義をもつものである。


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