賃貸マンションから転居、原状回復費用を請求された

回答者 弁護士 米倉勉さん(渋谷合同法律事務所)


 

 私は3LDKの賃貸マンションを借り、敷金として四十万円を預けていました。六年間居住したこの春、転勤のため転居したのですが、管理組合から原状回復費用として五十万円かかるので、敷金で不足する十万円を請求されています。
 原状回復費用の内訳は、壁クロスの張り替え、畳・ふすまの張り替え、台所のハウスクリーニング等です。私ども家族は、特に部屋を汚すような住み方はしておらず、納得がいきません。(千葉県・Y生)


 米倉賃貸マンションを明け渡す場合、借り主はその居室について原状回復する義務があります。ただし、この原状回復という意味は、完全に最初の状態に戻すということではありません。
 一般的には、通常の使用によると考えられる程度の変化については、原状回復の対象には含まれず、通常の使用による以上の特別の汚損・劣化についてのみ原状回復の義務を生じます。この趣旨は、建物の価値は時間の経過や使用によって当然に減少していくものであって、これを借り主に負担させることは不公平だという考え方に基づきます。
 したがってクロスの張り替え費用や清掃業者によるハウスクリーニング費用まで常に負担する必要はないはずです。ただし、賃貸借契約書に、このような費用まで賃借人の負担にするという特約があると問題が生じます。

 ――契約書には、畳の表替え、大小の修繕等は賃借人が負担するという特約が書かれています。
 米倉このような特約がある場合でも、これは賃貸人が契約期間中にこれらの修繕義務を負担しないことを規定するだけであり、賃借人が支払い義務を負うことまで意味しないと解されます。最高裁を含めて、多くの裁判例がこのような見解を取っています。
 問題は、「退去時には賃借人の費用でクロスの張り替えを行う」というような具体的な規定がある場合です。このような特約の解釈には様々な裁判例があるようですが、私はこのような場合でも、通常以上の特別な汚損がある場合についての特約と解するべきだと考えます。常にクロス張り替えまで賃借人の義務とすることは、前述の趣旨に照らし不公平すぎるからです。

 ――今後、どのようにすれば。
 米倉通常の使用の範囲内であることについて、よく話し合ってください。話し合いがつかない場合、敷金返還・追加の支払い等、支払いを求める側が裁判を起こすことになります。なお、特別の汚損による修繕の必要を主張する側が、その点の立証責任を負うことになるでしょう。


(04月18日 10面 掲載)



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