2002年2月17日(日)「しんぶん赤旗」
「政府系金融機関の見直しについて、年内に結論を得る」。小泉首相は国会での施政方針演説(四日)の中で、こう強調しました。一方で政府・与党内から見直しを延期すべきだという声もあがっています。何が問題になっているのか、国民の暮らしにどう影響するのか――。
特殊法人(注)に含まれ、政府が全額出資している金融機関のことを政府系金融機関といい、九つあります。 (下の表参照)
住宅金融公庫、国民生活金融公庫のように、民間銀行の融資が難しい国民や中小業者などのために、「長期・低利・固定」で融資しているのが特徴です。一方で、大企業中心に貸し付ける日本政策投資銀行もあります。
小泉内閣は、昨年十二月、特殊法人「改革」と称して、七十七ある法人の「整理合理化計画」を決めました。「民間でできるところは民間にゆだねる」として、公的融資を、民間銀行などの、もうけの対象にしようという考えです。
住宅金融公庫は「五年以内に廃止」としています。残りの八機関は、政府の経済財政諮問会議(議長は小泉首相)で「平成十四年初に検討を開始し、…できるだけ早い時期に結論を得る」としました。一月下旬の諮問会議で論議が始まり、注目を集めているわけです。
| 廃止、見直し対象の政府系金融機関 | |
|---|---|
| 機関名(設立年、主な所 管省) | 事業の目的、概要 |
| 〈廃止を計画〉 | |
| 住宅金融公庫(1950年)(国土交通省) | 国民が健康で文化的な生活を営むのに足りる住宅建設・購入資金の融資 |
| 〈見直し、年内に結論〉 | |
| 国民生活金融公庫(1949年)(財務省) | 一般の金融機関では難しい国民に必要な融資。事業資金、教育資金など |
| 中小企業金融公庫(1953年)(経済産業省) | 中小企業の振興に必要な長期資金で、一般の金融機関では難しい資金の融資 |
| 商工組合中央金庫(1936年)(経済産業省) | 中小企業などの協同組合、主に中小業者でつくる団体に融資する |
| 農林漁業金融公庫(1951年)(農林水産省) | 農林漁業の維持・増進、食料の安定供給のため、農林漁業者、食品製造・加工・流通業者に融資 |
| 公営企業金融公庫(1957年)(総務省) | 地方自治体の公営企業にかかわる借金(地方債)の資金融資、道路公社・土地開発公社への融資 |
| 沖縄振興開発金融公庫(1972年)(内閣府) | 対象は沖縄。産業開発のための長期資金、住宅建設、農林漁業、中小企業、病院開設などの融資 |
| 日本政策投資銀行(1999年)(財務省) | 大型プロジェクトなど、設備投資、土地の造成などへの融資(日本開発銀行、北海道東北開発公庫を統合) |
| 国際協力銀行(1999年)(財務省) | 輸出入、海外での経済活動をすすめるための融資など(日本輸出入銀行、海外経済協力基金を統合) |
廃止・民営化されたら、庶民のマイホーム資金や、零細業者の「命綱」が切られかねません
住宅公庫ローンは、現在約五百五十万世帯が利用。住宅ローン市場の約四割を占めています。その廃止計画に、公庫にも「銀行は融資枠が狭く、貸し渋りは依然あります。小泉内閣は低所得者のマイホーム実現を妨げるつもりでいるのか」(男性・会社員)などの声が寄せられています。
「民間住宅ローン市場が広がる」と喜んでいるのが、大手銀行。「銀行、市場争奪へ始動」(「日経」八日付)しています。
しかし、「廃止」が決まってしまったわけではありません。「住宅金融公庫法などの改正が必要で、これから検討する」(国土交通省住宅局)からです。法案提出に向け、改めて大きな論議となります。
|
国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫があります。
国民公庫の融資先(件数)を従業員規模でみると、「四人以下」が約七割(グラフ)。これらの公庫、金庫は文字通り中小・零細業者の“命綱”、“駆け込み寺”になっているのです。
東京都内の飲食店主(51)は、「公庫がなくなったら…」と心配します。昨年秋、何度か公庫に足を運び、開店資金五百万円を借りました。不況の影響で売り上げが二割ほど減る中で、「民営化されたら同じ条件で借りられないのではないか」。
戦後最悪の倒産、銀行の深刻な「貸し渋り」。「国民公庫などの役割はますます大事になっている」というのは、中小企業金融に詳しい、平石裕一協同金融研究会事務局長。「昨年三月と四年前と比較すると、国民公庫の融資残高は8・7%増えているように、業者の要望は強い。中小企業はどうなってもいいという、弱いもの切り捨て政策でいいのか」と批判します。
小泉内閣のもとでデフレの悪循環が一段と深刻です。その中で、政府系金融機関を見直すことに、政府・与党内からも疑問が出ています。
閣僚も「中小企業は、本当に悲鳴をあげており、頼るところはもう公的金融機関しかないという現状がある」(平沼赳夫経済産業相、一月二十五日の経済財政諮問会議)というほどです。
日本政策投資銀行のように、ムダな大型プロジェクトへの融資を続けることは問題です
政策投資銀行(旧日本開発銀行・北海道東北開発公庫)は、コンビナート建設など大企業むけの基盤整備に長期・低利の融資をしてきました。とくに苫小牧東部開発(北海道)、むつ小川原開発(青森県)、東京湾横断道路など、採算の見通しもない事業に資金をつぎ込んできたのです。
融資先上位には東京電力などの巨大企業、ムダな二期工事が問題になっている関西国際空港会社などが並んでいます(左の表参照)。小泉内閣は、大企業を優遇する、この融資のしくみは温存。「プロジェクト・ファイナンス(融資)、地域プロジェクト等リスクの高い業務に特化する」としているのです。
| 政策投資銀行、貸付残高上位10社 | |
|---|---|
| (1)東京電力 | 1兆1278億円 |
| (2)中部電力 | 7175 |
| (3)日本原燃 | 6964 |
| (4)関西電力 | 6518 |
| (5)九州電力 | 5441 |
| (6)JR東海 | 4416 |
| (7)東北電力 | 4366 |
| (8)JR東日本 | 3993 |
| (9)中国電力 | 3664 |
| (10)関西国際空港 | 2800 |
| ……………………………………… | |
| (26)むつ小川原開発 | 969 |
| (27)苫小牧東部開発 | 961 |
| (注)2000年2月、衆院予算委員会への政府提出資料。 「有価証券報告書」(1999年3月期他)調べ | |
ムダな事業はメスを入れて縮小・廃止し、国民にとって必要な事業は民主的に改革し拡充することです
小泉内閣の「改革」は、あべこべの方向です。奨学金を出している日本育英会を廃止したり、七十五万戸に及ぶ都市公団の賃貸住宅についても、棟単位で売り払おうとしています。
国民のための改革をいうなら、政策投資銀行などは、縮小・廃止し、日本道路公団の必要のない道路建設などは、やめることです。
利権・腐敗の温床になっている特殊法人への高級官僚の天下りも禁止すべきです。
(注)特殊法人 公共性の高い事業や国策をすすめるとして、特別の法律でつくられた法人。事業団、公団、公庫、金庫などがあり、政府から出資、補助金などを受けています。
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