現場Note

「政治とカネ」を追う──「圧力」がきかず、信頼と協力があってこそ

三浦 誠(社会部長)

三浦 誠(社会部長)

 8月4日、東京地検特捜部の動きに詳しい知人から、衝撃のニュースが携帯に寄せられました。秋元司・衆院議員=自民党離党=が収賄罪で起訴されたカジノを中核とする統合型リゾート(IR)をめぐる汚職事件で、同議員に有利になるよう裁判での偽証を依頼したとして、会社役員らを組織犯罪処罰法違反(証人等買収)容疑で特捜部が逮捕した、というのです。

マルチと首相夫妻

 逮捕起訴された淡路明人被告(54)は、クローバーコインと称する仮想通貨を扱っていたマルチ企業「48(よつば)ホールディングス」(札幌市)の元社長です。同社は、2017年10月には消費者庁から特定商取引法違反で取引停止命令を受けました。同庁の発表によると、勧誘者が「1カ月半後には10倍に値上がりする」と告げて勧誘していました。現在、被害者が同社に返金を求め、数10件の損害賠償請求を起こしています。

 8月20日には、秋元議員が淡路被告らと共謀したとして特捜部に再逮捕されました。現職議員が、裁判での偽証を求めて買収した疑いで逮捕されるという異例の事態です。

 一般メディアが淡路被告と秋元議員の関係を中心に報じるなか、赤旗社会部は淡路被告と安倍晋三前首相夫妻とのかかわりに注目しました。

 私たちが淡路被告ら同社幹部と安倍前首相が、首相の地元山口県で一緒に写った写真を入手して、2月16日付の1面で「首相と写真 マルチ利用」と報じていたからです。菅義偉現首相と同社幹部だった中田義弘氏が、首相主催「桜を見る会」で一緒に撮った写真や、安倍前首相の妻昭恵氏と中田氏が写っている写真も関係者から提供を受けていました。

 提供者は、知人からこれらの写真を見せられて「安倍さんや菅さんとツーショットを撮れるような立派な人がクローバーをやっているんだ」などと勧誘されたといいます。

カジノと首相

 もともと秋元議員はIR参入をめざす中国企業「500ドットコム」側から賄賂総額約760万円を受けたとして起訴されています。社会部はこのときも安倍前首相との関係に焦点を当てました。IRは、安倍前首相が「成長戦略の目玉」として強引に推し進めてきたものです。そんなIRを内閣府副大臣として担当したのが秋元議員でした。

 日本共産党の志位和夫委員長は衆院本会議(1月23日)で、「総理自身が成長戦略の『目玉』にすえたカジノをめぐって汚職事件が起こり、総理自身が任命したカジノ担当副大臣が収賄疑惑で逮捕された。この責任をどう自覚しているのか」と、全容解明を安倍首相に迫りました。しかし、安倍首相は「副大臣に任命した者として事態を重く受け止めているが、捜査中の刑事事件に関わる事柄なので詳細なコメントは差し控える」とひたすら説明を避けてきました。

 淡路被告との関係についても、安倍前首相は国会で「個人的な関係は一切ない」(衆院予算委員会、2月17日)というばかり。なぜ淡路被告らが安倍前首相夫妻と写真を撮るにいたったか、桜を見る会に呼ばれることになったか、一切説明を避けています。

 IR汚職事件と淡路被告らとの関係について、安倍前首相が説明を回避する中で起きたのが、今回の証人等買収です。政治資金オンブズマン共同代表の上脇博之神戸学院大学教授は社会部の取材に「安倍首相には『逃げればどうにかなる』という発想があります。国会を開かず、主権者国民を軽視しています」と指摘しています。

首相秘書が応援

 安倍政権の「政治とカネ」をめぐっては、もう1つ重大な裁判が進んでいます。河井克行元法相と妻の案里参院議員=ともに自民党離党=をめぐる選挙買収事件です。

 河井夫妻は昨年夏の参院選挙で地元広島県内の首長や地方議員らに票の取りまとめを依頼し、総額約2900万円を提供したとして公選法違反(買収、事前運動)の罪で起訴されています。

 この事件でも、安倍前首相と自民党の責任が問われています。参院選前に自民党本部から河井陣営に提供された1億5000万円が買収資金に含まれるのではないか─そんな疑いがあるのです。

 広島県府中町議員は、克行議員から「安倍さんから」と言われて現金を渡されたことを取材に認めました。取材を担当した記者は早朝にこの議員に電話し、自宅を出る寸前につかまえ、証言を得ることができました。

 関係者への取材で、安倍前首相の秘書らが案里議員の応援に深くかかわっていることも判明。陣営関係者によると、昨年6月下旬に安倍前首相の筆頭秘書をはじめ数人の秘書が応援に入り、4日間かけて県内の企業40〜50社を訪問したといいます。「秘書は『安倍晋三事務所から来ました』と名刺を差し出してあいさつしていました。相手も総理の秘書だということで好意的な反応だった」と振り返ります。

伝統の疑惑取材

 ロッキード事件、リクルート事件、佐川急便事件など、「政治とカネ」にまつわる疑惑の取材は赤旗の伝統です。

 疑惑取材では、「ネタ」が自然に入ってくるわけではありません。疑惑の核心をよく知る関係者を取材する必要があります。いわゆる「ネタ元」の開拓です。

 関係者の連絡先を調べて直接、訪ねて「こういうことで話を聞きたい」と説得に行く。ときには早朝、深夜、雨の中での取材になります。相手に手紙を送ることもあります。関係者にかたっぱしから電話をすることもします。

 私自身、かつて防衛利権の取材で元防衛省幹部の自宅を何回も訪ねました。最初の応対は門の前で、2回目は門の中で、3回目は玄関の中、最後は自宅の居間で、兵器調達の仕組みを丁寧に教えもらいました。

 空振りになることも当然多く、地道な努力だけが「事実」にたどり着く道です。だからこそ相手から返事がきたり、信頼されて教えてもらったりしたときの喜びはひとしおです。

 「ネタ元」は多岐に渡ります。与党関係者、官僚、大企業の幹部...。一見、日本共産党とは対極にいるようにみえます。なぜそんな人たちが取材に協力してくれるのか。

 そこには、「日本共産党は嘘をつかない」「まじめだ」といった日本共産党や党議員、党員への信頼があります。ある自民党参院議員(故人)は事務所にいくたびに、「共産党議員は本当によく勉強されている。野党では官僚から情報が入らないのに努力がすごい」と語っていました。

 原発取材ではある電力会社の元社長が初めての取材の際、「不破哲三さん(党前議長)の原子力に関する見識は深い。今度本をもってきてくれ」と話していました。

 また党地方議員、党員への信頼から語ってくれる方や、「まえに赤旗読者だったよ」という人も多くいます。

 もう1つ、赤旗が信頼されるポイントがあります。それは日本共産党が企業・団体献金や政党助成金を受け取っていない、ということです。知人のメディア関係者からは、広告を出している大企業や与党筋から報道現場に「圧力」があるという話をたまに聞くことがあります。大企業にしがらみがない赤旗には「圧力」がききません。

 企業・団体献金、政党助成金をうけずとも取材ができるのは、党費、カンパ、赤旗など機関紙誌事業による独自の財源があるからです。私たちの疑惑取材は、党員、支持者の皆さんの努力、協力があるからこそ、信頼の面でも資金の面でも成り立つのです。そのことを胸に刻み社会部として今後も取材に取り組んでいきます。

 (みうら・まこと)

g-note-miura.JPG

チリ・標高5000メートルのアタカマ砂漠で。世界最大のアルマ電波望遠鏡の取材=2017年11月

『前衛』2020年11月号から