
2006年5月14日(日)「しんぶん赤旗」
主張
原爆症認定
国は抜本的改善に着手せよ
原爆症認定を求める集団訴訟で、原告全員の訴えが認められた大阪地裁の判決が、全国の被爆者を励まし、勇気を与えています。
全国十三カ所の裁判所で、十八都道府県にまたがる、百七十人の被爆者・遺族が、原告となってたたかっています。
その最初の判決で、原告九人全員にたいし、“国が認定申請を却下したのは不当”だと、判断が示されました。「よかったね」と被爆者と支援の人々が、幾度となくかわす握手と抱擁、うれし涙が、その喜びを語っています。
機械的適用をいましめ
広島・長崎の被爆者の病気や障害が、放射線によるものであると認められれば、原爆症と認定されます。被爆者手帳は自治体の長が認定するのにたいし、原爆症は、被爆者行政のなかで唯一国による認定です。医療費の全額支給や生活保障的要素を加味した手当が受けられます。
しかし、原爆症と認定される人は、被爆者の0・8%程度に抑えられてきました。二十六万人(被爆者健康手帳所持者)のうち、二千人ほどにすぎません。
国の原爆症認定基準が、被爆の実態からかけ離れているからです。そのことは、これまで司法の場でも何度も指摘されてきました。しかし、国は、認定をさらにきびしくする新基準をつくり、機械的な切り捨てをすすめてきました。
この状況をなんとしても変えようと、三年前に集団訴訟のたたかいを開始したのです。
今回の判決は、国の認定基準について、「考慮すべき要素の一つにすぎない」と言い切っています。そして、国の認定基準を「機械的に適用して判断することは相当でない」とのべ、機械的適用をいましめています。
判決は、呼吸や飲食などで体内にとりこんだ放射性物質による内部被曝(ひばく)が、障害を引き起こす可能性を指摘しています。
被爆前と後の健康状況や生活状況など、被爆者個別のさまざまな事実に踏み込んで検討しています。健康状況や生活状況などくわしく調べて、それを総合的に判断して認定すべきだと求めています。
国が、冷酷に切り捨ててきたのにたいし、判決は、一人ひとりの被爆者の苦痛と願いに寄り添い、被爆の実態を正面から見つめています。
とくに、原爆投下後に爆心地に入った「入市被爆者」や、爆心地から二キロ以上離れた遠距離での被爆者について、原爆症と認定したことは、今回の判決の特徴の一つです。
入市被爆者と遠距離被爆者について、原爆放射線の影響を否定できないとしたことは、今後の認定行政のあり方を示すものとして重要です。
被爆から六十年余、高齢と病に苦しむ被爆者は、命をかけて、この集団訴訟をたたかっています。裁判が長期にわたることは絶対に許されません。
国は控訴するな
判決は、国の被爆者行政が間違っていると判断したのです。政府は、判決を重く受け止めるべきです。
国は控訴せず、原爆症認定行政の抜本的改善をしてください―。被爆者のつよい願いに、政府はこたえるべきです。
判決は、国の原爆被害過小評価の姿勢を批判したものであり、世界中に核兵器の非人間性を訴え、世界から核兵器を根絶するよう呼びかけるメッセージでもある―。原告と支援の人たちの訴えがひびきます。