2005年12月11日(日)「しんぶん赤旗」

あすからASEAN・東アジア首脳会議へ

平和の共同体を展望


 東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、ASEAN+3(日本、中国、韓国)首脳会議、東アジア首脳会議(EAS)が十二日から十四日までマレーシアの首都クアラルンプールで開催されます。


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 ASEANが一九六七年の創設から一貫して追求してきた東南アジアの平和と協力の流れは、さまざまな逆流にぶつかりながら、いまやアジア全域に広がろうとしています。

 ASEANが東アジアの共同の枠組みを提唱したのは十五年前です。ASEANのすぐれたリーダーであったマレーシアのマハティール首相(当時)が九〇年十二月に東アジア経済協力構想を提唱しました。これには、米政府が自国抜きの構想に強く反対し、日本政府がそれに従って反対したため実現しませんでした。

 しかし、九七年のアジア通貨危機を契機に東アジア協力の機運が高まり、九七年十二月、クアラルンプールでのASEAN首脳会議の機会に、実質的な東アジア協力の枠組みであるASEAN+3の第一回首脳会議が開催されました。通貨危機に直撃された東南アジア諸国と韓国、ASEANとの対話路線に転換した中国などが東アジア協力の枠組みに賛成し、日本も従来の態度を変更し参加に踏み切りました。

 ASEAN+3はこの間、通貨危機再発防止への対策などで着実な成果をあげてきました。

 こうした実績のうえに二〇〇四年十一月のラオス・ビエンチャンでのASEAN首脳会議で、〇五年末に第一回EASを開催することが決まりました。

◆3条件確認

 その際に問題となったのはEASの参加範囲をどうするかという問題でした。

 ASEANは今年四月の非公式外相会議で、首脳会議参加資格として三条件((1)東南アジア友好協力条約=TAC=に加入する(2)ASEANの対話国である(3)ASEANと実質的な経済関係をもっている)を確認しました。七月のビエンチャンでのASEAN外相会議でEAS参加国としてこの三条件を満たしたASEAN十カ国、日本、中国、韓国、インド、ニュージーランド、オーストラリアの参加が決まりました。

 EASに参加する国がTACへの加入を前提とすることは、東アジアを平和と協力の地域に変えるうえで重要な意義をもっています。マレーシア国民大学のタン教授は「TACは平和への誓約であるのみならず、戦争をしないという誓約です。それが行動規範となります」と語りました。

 アジアにはこれまで米国主導の軍事同盟とそれにもとづく米軍基地網が張りめぐらされていました。ASEAN各国はベトナム戦争の終結後、次々に米軍基地をなくし、非同盟運動に加わりました。現在、アジアで実態的に米国との軍事同盟が機能し、米軍基地が置かれている国は日本と韓国だけになっています。

 オーストラリアは米国と軍事同盟を結び、ハワード首相はブッシュ政権の先制攻撃戦略を支持しています。しかし、同国はASEAN諸国との経済協力の利益を重視して、TACへの加入に踏み切りました。

 日本の小泉政権は「米国との関係が第一」として、米国との軍事同盟がアジアの安全保障に不可欠との立場です。ASEAN各国はこの立場を厳しく批判しています。日本はこれまで繰り返し米国のEAS参加を提案してきましたが、ASEANは賛成しませんでした。

◆逆流に対処

 ASEANは、東アジア首脳会議をめぐる逆流にたくみに対処し、東アジア首脳会議を平和の流れに沿った方向に導きました。ASEANは将来の東アジア共同体の構築を展望しながら、EASを「対話のフォーラム」(EAS宣言案)と位置づけて、まず対話をすすめて相互の理解と信頼を築き、ASEAN流にゆっくりと前進することを重視しています。

 ASEANは「ASEANがEASの運転席に座ることで安全運転が保障される」(ASEAN外交官)としています。ASEANが結束して諸大国の主導権争いを調整し、協力の方向にすすめることで東アジア共同体に行き着くことができると考えているのです。

(クアラルンプール=鈴木勝比古)


■日本

■米国関与の強化を画策

■「靖国」で障害持ち込む

 日本政府は、東アジア首脳会議を「将来の東アジア共同体形成を視野に開催される歴史的な首脳会議」と評価。東アジアの地域協力について(1)開かれた地域主義(2)経済連携やテロ対策など個別分野での機能的協力の促進(3)民主主義など普遍的価値の尊重―を基本方針にしています。

 とりわけ「開かれた地域主義」を強調し、東アジア首脳会議参加国の拡大を主張。小泉純一郎首相も十四日の首脳会議での演説で「地域の開放性・透明性・包含性の確保」に言及する方針です。

 政府が「開放性」にこだわる背景には、中国主導の東アジア共同体の形成に強い懸念を示す米国の意向があります。

 米国は自らが関与できない東アジア共同体に反対を表明してきました。日本政府も日米同盟最優先の立場から、ASEAN+3(日中韓)を軸にした地域協力を進めようとする中国を「排他的」(外務省筋)と批判してきました。

 今年二月に日米両政府が合意した日米同盟強化のための「共通の戦略目標」でも「地域メカニズムの開放性、包含性及び透明性の重要さ」を強調。これを受けて日本政府は、東アジア首脳会議への米国のオブザーバー参加を画策し、ASEAN諸国への工作も進めてきました。

 しかし、ASEANのオン・ケンヨン事務局長は「米国との関係は重要だが、米国も参加するAPEC(アジア太平洋経済協力会議)と東アジア首脳会議は性格が異なる」と不快感を表明。現時点では、米国のかかわり方について「議論が分かれている」(外務省筋)状況です。

 さらに、東アジア共同体形成への「積極的な貢献」を言いながら、小泉首相の靖国神社参拝や麻生太郎外相の相次ぐ侵略戦争肯定発言が、その流れに大きな障害をもたらしています。

 首相の靖国参拝によって、東アジア首脳会議が開かれるマレーシアでの日中、日韓の首脳会談をはじめ、一九九九年以来続いていた日中韓三カ国の首脳・外相会談が開かれないことになりました。

 東アジア首脳会議参加国の中で大きな国力を持つ日中韓三カ国の関係は、東アジアの地域協力を決定的に左右します。しかし、日本と中国、韓国との関係は国交正常化以来、最悪の状態と指摘されています。「靖国問題」を解決しない限り、未来ある東アジア共同体への展望も開かれません。

(クアラルンプール=竹下岳)


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