2005年10月29日(土)「しんぶん赤旗」

EU

国境こえる労働者

賃金・条件切り下げに反発


 欧州連合(EU)では域内を移動する労働者の賃金や労働条件をめぐる論議が広がりつつあります。昨年五月に十五カ国から二十五カ国に拡大したEUは、ヒト、モノ、資本、サービスの「移動の自由」が原則。ところが新規加盟した中東欧諸国と既加盟の経済格差は著しく、その矛盾が噴出した形です。(パリ=浅田信幸)

 「(委員の発言は)EUにおける賃金レベルを引き下げるもので、欧州委員会は新自由主義路線をとっている」―欧州議会(仏ストラスブール)で二十五日、域内市場担当マクリービー欧州委員は社会党や共産党の議員から激しく詰め寄られました。

■時給5分の1

 スウェーデンの労組を相手取ってラトビアの建設会社ラバルが欧州司法裁に提訴し、同じ問題でスウェーデンの労働裁判所がやはり同裁に裁定を求めている件で、同委員がラトビア支持の態度を表明したことがやり玉にあげられたものです。

 ラバル社は昨年秋、スウェーデンの学校建て直しの事業を落札し、五十人のラトビア人労働者を連れて仕事を開始しました。ところが賃金は時給三十五クローナ(約五百円)とスウェーデン建設労働者の五分の一でしかありませんでした。

 これにスウェーデンの建設労組が「社会的ダンピング」だと怒りを爆発させ、建設現場を実力封鎖。同国の労使団体協約にしたがった労働条件と賃金をラトビア人労働者に適用するよう迫りました。しかしラバル社はこれを拒否し、結局、今年四月には建設をあきらめて撤退しました。

 マクリービー欧州委員は「障壁を維持したり、競争は存在しないとか国境の外にとどめておくとか主張したりするのは選択肢にならない」と発言。司法裁ではラトビア支持の証言をするとのべています。

 同委員の発言が最初に飛び出した十月初め、欧州三十四カ国七十六労組六千万人の労働者を結集する欧州労連(ETUC)のモンクス書記長は、世界でも最高レベルにあるスウェーデンの社会モデルを擁護して、「欧州委員会には、域内市場の追求だけでなく、社会的対話と基本的社会権を推進するという別の義務も負っている」と同委員の発言を批判しました。

■理解どう得る

 同種の問題は他の国でも生じています。

 欧州憲法をめぐるフランスの国民投票では、フランス人より賃金の安いポーランド人の鉛管工が「仕事を奪う」と憲法反対派の一部からやり玉に挙げられました。

 ベルギーでは今月十九日、アントワープ近郊にある従業員二百人の食品工場で労働者が無期限ストに突入。原因は、五人のベルギー人労働者が解雇されると同時に、賃金が三分の二でしかない十人のポーランド人労働者が採用されたことにありました。同争議は二日後、経営者が「契約に誤りがあった」としてポーランド人労働者の採用を取り消して一応収まりました。

 これらの事例は経済格差がなければ生じない問題です。EUの拡大によってこうした事態が頻発するようだと、フランス国民投票での欧州憲法批准否決以後、各国で広がる反EU感情も強まらざるをえません。

 「歴史的偉業」とまで称されたEU拡大ですが、欧州市民の理解と支持をどう得るか―各国政府と欧州委員会に難題が突きつけられています。


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