2005年2月27日(日)「しんぶん赤旗」 ここが知りたい特集 核兵器廃絶・不拡散5年前の約束
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核戦争の危険は遠のいたか? |
「使いやすさ」米推進
百八十九カ国が加盟するNPTは、五大国だけに核兵器保有を認める一方、他の国々には保有を禁じる、核独占体制の維持を前提とした不平等条約です。とはいえ第六条は、核保有国に軍縮努力を求めています。
前回二〇〇〇年の再検討会議では、核保有国による「核兵器廃絶の明確な約束」が米国も含む全会一致で合意されました。
ソ連が消滅した後は核兵器も減り、核戦争の危険も遠のいたのでは―との声も聞かれます。とんでもないことです。ブッシュ米政権は、核使用政策への大転換を図り、「使いやすい核兵器」開発への道を突き進んでいます。
大量破壊兵器を取得し使用する恐れのあるテロリストやテロ支援国家に対するとの口実で、先制攻撃も辞さないブッシュ政権。この先制攻撃戦略には、核兵器を使用する先制核攻撃も含まれています。
〇二年一月に議会に提出された「核態勢見直し」(NPR)報告は、ロシア、中国、イラク、イラン、北朝鮮、シリア、リビアを核攻撃の標的としています。核兵器を特別視せず、「普通の兵器」と組み合わせて使いやすくするというのがブッシュ政権の考えです。
〇三年五月、与党・共和党が多数を占める米議会は、五キロトン(広島型原爆の三分の一)以下の小型核兵器の研究・開発を禁じた九三年の法律の条項を撤廃しました。
二期目のブッシュ政権は一期目より穏健化したとの見方も出ています。しかし政権首脳には、核兵器政策推進論者が勢ぞろいしています。
ライス国務長官の後任として国家安全保障担当大統領補佐官となったハドリー氏は、NPRの土台となった全米公共政策研究所(NIPP)の報告書を作成したグループの一人です。
英紙フィナンシャル・タイムズ(一日付)の「『核政策タカ派』を昇格させるブッシュ大統領」と題された記事は、核強硬論者として、「タカ派の中のタカ派」といわれたボルトン国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)に代わるジョセフ氏、クラウチ次期大統領副補佐官、ロード国家安全保障会議特別顧問らを挙げています。
ジョセフ氏もNIPP報告を作成したグループの中心人物の一人です。
ブッシュ政権が七日に発表した新年度予算案では、地中貫通型核兵器の研究費として八百五十万ドル(八億九千万円)が計上されています。米議会は昨年、政府が要求していた新型核兵器開発関連予算を削除しました。同政権は、新年度の予算で巻き返しを狙っています。
米国の核兵器の「信頼性と耐久性を高める次世代核兵器の設計」も始められようとしています。
米国の核使用政策は、新たな核軍拡競争を引き起こしています。
ロシアのイワノフ国防相は十三日、訪問先のドイツで、「ロシアは今も昔も今後も核大国だ」と述べ、「世界に例のない」戦略ミサイルシステムが近く完成すると語っています。
問題は北朝鮮、イラン? |
崩れる「不拡散」
米国、ロシア、英国、フランス、中国の五カ国以外には核保有国を広げないとの核不拡散の体制が崩れ、NPTの危機が指摘されています。
一九九八年、NPT未加盟のインドとパキスタンが核実験を強行し、新たな核保有国となりました。北朝鮮は二〇〇三年一月、NPT脱退を宣言。今月十日には「自衛のために核兵器を製造した」との声明を出しました。イスラエルの核保有は「公然の秘密」となっています。ブッシュ米政権は、核開発の疑惑があるとしてイラン非難を強めています。
北朝鮮の核問題では、同国と日本、韓国、中国、米国、ロシアによる六カ国協議という話し合い解決の枠組みが〇三年八月に発足しました。昨年六月の第三回協議では、「朝鮮半島の非核化に向けた第一段階の措置」として、北朝鮮の核開発凍結を実施することが確認されました。その後、協議は中断していますが、協議再開に向けた外交努力が改めて強まっています。
イランの核開発疑惑は、同国が国際原子力機関(IAEA)に申告することなくウラン濃縮実験を行ってきたことが発端です。英国、フランス、ドイツの三カ国がイランと交渉を続けた結果、イランは昨年十一月、ウラン濃縮を一時停止すると表明しました。
IAEAのエルバラダイ事務局長は米紙ワシントン・ポスト十六日付で、「査察と情報活動のいずれによってもイランに(核開発の)動きはない」と明言。英仏独の外交努力を評価しました。
米国は、「今は外交の時期。イランはイラクとは違う」(ブッシュ大統領)として、当面は欧州三カ国の外交を見守る姿勢です。しかし、それへの参加は拒否。イラン政権を打倒する軍事力行使の選択肢も排除しないと繰り返し表明しています。
廃絶の道 どうすれば? |
背向ける保有国
NPT再検討会議を前に、核廃絶・不拡散をめざすさまざまな提案が出ています。
エルバラダイIAEA事務局長はフィナンシャル・タイムズ二日付で、NPT体制の弱点を認めたうえで、ウラン濃縮とプルトニウム抽出のための新たな施設の建設を五年間凍結する、核保有国は「核廃絶の明確な約束」を迅速に実行する―などを提案しました。
NPTが直面している根本矛盾は、核兵器廃絶に背を向ける核保有国の姿勢からきています。米国をはじめとする核保有国が、自国の核を死守しながら、他国の核保有は世界平和の最大の危険だといくら叫んでも、何の説得力もありません。
しかしブッシュ政権は、自国は核使用政策へと突進しながら、「核不拡散」こそが緊急に追求されるべき最優先課題だと主張しています。ラドメイカー米国務次官補(軍備管理担当)は三日、五月のNPT再検討会議の主目的はイランと北朝鮮に不拡散の義務を厳格に順守させることだと表明。前回再検討会議で合意された核保有国の核廃絶の義務には口を閉ざし、無視する姿勢を示しました。
核廃絶をめざす国家連合である新アジェンダ連合(ブラジル、エジプト、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、南アフリカ、スウェーデン)は、核不拡散と核廃絶の両方を同時に追求すべきだと訴えています。同連合が昨年の国連総会に提出した「核廃絶の合意履行の促進」決議案は、非同盟運動参加国など非核保有国の支持を得て採択されました。核廃絶の展望が明確にならない限り、NPT体制が直面している矛盾を解決する方策はないとの声が、世界で高まっています。
NPT再検討会議と、この機会に行われる主な平和団体の取り組みは次の通り。
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