2005年2月13日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 労働時間規制緩和

働く時間 もっと長〜くなる?

国の規制から“企業まかせ”へ


 「長時間労働をなくしてほしい」は、いまや国民的な願いです。ところが、長時間労働の是正に大きな役割を果たしてきた法制度を改悪する法案が、今国会に提出されようとしています。国が規制する長時間労働の是正策を、企業まかせにするというのです。畠山かほる記者


■時短促進法の廃止

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 その一つは、労働時間を年千八百時間に短縮する目標をかかげた時短促進法の廃止です。

 時短促進法は、日本の労働時間が長いと欧米からつよい批判をうけ、一九九二年に制定されました。年労働時間千八百時間とは、完全週休二日制で国民の休日と年次有給休暇二十日を完全消化して、一日八時間労働をしたときの数値です。そのため、政府は(1)年次有給休暇の取得促進(2)完全週休二日制の普及促進(3)所定外労働(残業・休日労働)の削減を柱に、推進計画を立て企業への指導にとりくんできました。

 五年間の時限立法でしたが未達成のため、二度延長され、来年三月に法の期限がきます。厚生労働省はこれを延長せず、廃止するとしています。

 廃止理由を、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)労働条件分科会の報告書はこう主張します。短時間働くパート労働者と長時間働く正社員との「長短二極化」が進んでおり、「一律の目標を掲げることは時宜に合わなくなっている」。

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 二〇〇四年の年間労働時間は千八百十六時間ですが、パート労働者を除いた一般労働者では二千四十時間もの長さになります。これには、あらかじめきめた時間しか働いたとみなさない裁量労働制や、違法な不払い残業(サービス残業)などは反映されていません。欧州では100%取得が常識の年次有給休暇は、日本では四割台です。

 今後は、労働時間の数値目標は定めず、事業主の「自主的な努力」に委ねる「労働時間等設定改善特別措置法」に改めるといいます。「時間ではなく成果によって評価される仕事が拡大」しているから、「効率的な事業運営の観点から、労働者が着実に成果を上げられるようにしていく」ことを理由にあげています。

 企業がよりもうけるために、労働時間短縮は邪魔という考えです。数値目標を降ろして「事業主の自主的努力」に任せれば、いっそうの長時間労働が横行することは明らかです。

■過重労働防止の骨抜き

 もう一つは、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を骨抜きにする改悪案です。

 総合対策は、長時間労働による健康破壊が広がっていることから、残業時間の削減をもとめた行政通達で、〇二年に策定されました。

 残業時間が一定時間を超えると、過労死疾患との関連性が徐々に高まるという医学的検討結果にもとづき、残業は月四十五時間以内とすること、それを超える場合は医師の面接指導などを事業者にもとめています。

 この方向をより強めるため、総合対策の内容を法に明記することが検討されてきました。過労死の危険がもっとも強まる月百時間を超える残業の禁止や、医師との面接指導を使用者に義務化することなどです。ところが、この検討をした労政審安全衛生分科会の報告書は、月百時間を超える残業をさせても、使用者が是正義務を負うのは、労働者が申し出た場合に限るとしました。

 労働者の申し出を条件としたことは、とくに重大です。労働安全衛生法三条は、事業者は「労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」としています。労働時間を把握しそれに配慮することは、使用者の責務です。使用者の責務を労働者に転嫁することになりかねません。

 現在、月百時間超の残業に相当する年間三千百時間を超えて働くのは、正社員の六人に一人に及んでいます。過労死など脳・心臓疾患による労災認定件数は三百十件を超え、精神障害の認定件数は過去最多で百件以上です。多くの労働者がリストラによる不安や成果主義によるしめつけのもとで、長時間労働に追い込まれています。このもとで、どれだけの労働者が「申し出」ることができるというのでしょうか。

 報告書は、労働者が「申し出」た場合以外は、個別労使の「自主的な取組」に委ねるとしています。現在、労働組合組織率は二割に届かず、労組のある大企業職場でも年間千時間の残業が行われてきました。労使に委ねれば、企業主導となることは明らかです。

財界の圧力で

 当初の厚生労働省原案には、労働者の「申し出」条件はなく、総合対策の内容を法に明記し義務化したものでした。それをくつがえしたのは、日本経団連の圧力です。労働者の申し出があった場合に限るよう交渉し、「厚労省が約束した」とみずからのべています(「日本経団連タイムス」一月十三日号)。

 この内容で、いま労働安全衛生法「改正」案が準備されています。法案が成立すると、総合対策は新法にそって見直されます。

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3年間に是正されたサービス残業代

 (2001年4月〜04年3月)

 支払い総額 427億円

 支払われた労働者数 33万5千人

 支払った企業数 2201社

 出所:厚生労働省発表資料に武富士の是正分を加えて本紙で集計(100万円以上の是正が対象)

■8時間労働は世界の常識

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 一日八時間を超えて労働させてはならないという八時間労働制の原則は、国際社会が一九一九年にILO(国際労働機関)一号条約で確認している世界の常識です。一日のうち、労働に八時間、睡眠に八時間、残りの八時間を自分の生活のために使うことは、労働者が健康で文化的な生活を営むために必要だからです。ところが、日本政府はいまだにこの条約を批准しておらず、命を削るほどの長時間労働が横行するルールなき資本主義の国となっています。

 日本がいま、長時間労働を是正する意義は、これにとどまりません。新たな雇用を必要とするので失業者の減少をもたらし、それは国民全体の消費を拡大し、経済全体の活性化につながります。さらに、すすむ少子化を食い止めるなど、社会的にも重要な影響をあたえます。国による規制強化こそ、もとめられています。


サービス残業をなくした場合の経済効果

 創出される常用雇用 161.6万人

 実質個人消費押し上げ 5.1%

 実質GDP押し上げ  2.5%

 出所:第一生命経済研究所・門倉貴史氏の試算(2003年6月)


財界の狙いこの他にも

 労働時間を制限する法・制度改悪の動きは、これにとどまりません。

 とくに、財界がつよく要求しているホワイトカラー・イグゼンプション(労働時間法制の適用除外)制度の導入にむけ、厚労省は今年中に審議会で検討を開始する予定です。一切の法的な制限なしに長時間働かせられる労働者をつくりだすことになります。

 このほか、日本経団連が昨年政府にたいし行った規制改革の要望は、長時間労働を制限したあらゆる法や行政通達の改悪を主張しています。労働者・国民と日本共産党国会議員団の追及の成果である“サービス残業根絶通達”の緩和もその一つです。

 財界のねらいは、よりもうけをあげるために、労働者をどれだけ長時間働かせても、残業代も払わずにすみ、企業がなんの責任も負わずにすむしくみをつくることにあります。

 この身勝手な要望にたいし、小泉内閣の村上誠一郎規制改革担当相は「実現にむけて全力でとりくむ」とこたえたと報じられています(「日本経団連タイムス」昨年十一月二十五日号)。



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