2005年2月8日(火)「しんぶん赤旗」

ムダ増殖

「もんじゅ」改造

これまで

8千億円かけ 発電20億円分


 高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の運転再開の前提となる改造工事に西川一誠・福井県知事が了解を表明。県は七日、核燃機構(核燃料サイクル開発機構)に正式に伝えました。動燃(動力炉・核燃料開発事業団)から核燃機構へと引き継がれた「もんじゅ」はこれまで巨額の税金がつぎ込まれています。改造・運転再開となれば、さらに多くの費用がかかります。はたして、それに見合った意義はあるのでしょうか。前田利夫記者


 核燃機構によると、これまでに「もんじゅ」に使われた費用は約八千億円にのぼります。「もんじゅ」が発電して送電を開始したのが一九九五年八月二十九日。同年十二月八日にナトリウム漏れ・火災事故が起きました。このときまでに、すでに七千億円以上つぎ込まれていました。当初の原子力委員会の見積もりの七倍を超えていました。事故で運転を停止してからも、ただ維持するだけで年間約百億円をかけてきました。

 発電実績は、核燃機構によると一億二百万キロワット時。「もんじゅ」の設計出力は二十八万キロワットですから、フル出力運転の十五日分程度にしかなりません。一般家庭の電力料金を一キロワット時当たり約二十円として「もんじゅ」の発電量を換算すると約二十億円となります。これまで八千億円かけて二十億円分発電した計算になります。

 「もんじゅ」の改造費として予定されているのは百七十九億円。運転再開後の維持費は年間百五十億円を超えるとみられます。

実用化の見通しは…

“先発国”は開発を断念

写真
ナトリウム漏れ・火災事故を起こした高速増殖炉「もんじゅ」の配管(1995年12月12日撮影)

 高速増殖炉は、使った以上の燃料を生み出す“夢の原子炉”として、原子力発電を始めた各国が開発にとりくんできました。最も早くとりくんだアメリカやイギリスでは、炉心溶融や蒸気発生器の破損などの重大事故を起こし、開発をやめました。

 ドイツでは九一年に計画を中止。フランスでは、「実証炉」として「もんじゅ」より先に位置付けられた「スーパーフェニックス」(出力百二十四万キロワット)の運転を開始しましたが、ナトリウム漏れで運転を停止するなどの事故が続発。結局フランスも高速増殖炉開発を断念しました。

 これらの各国に共通しているのは、安全に運転する技術の困難さと、安全を保持するためには費用が高くつきすぎるということです。

 「もんじゅ」が建設までも、運転開始後も、予想外の費用がかかっているのも、技術的な困難が大きな理由です。このまま「もんじゅ」を改造し、運転を続けたとしても、実用化にいたる見通しはまったく立っていません。

高裁判決も危険性指摘

 二〇〇三年一月、名古屋高裁金沢支部は、「もんじゅ」にたいし、「国の安全審査の瑕疵(かし)により、炉心崩壊などの事故が起き放射性物質が環境へ放出される具体的危険性を否定できない」とする判断を示し、国の設置許可は無効であるとする判決を出しました。

 今回、核燃機構が計画している改造は、一九九五年のナトリウム漏れ・火災事故に対応するものです。しかし、国の安全審査に欠陥があり安全が保証されないという問題は、部分的な改造で解決することではありません。

 国は、この判決に不服として最高裁に上告受理を申し立て、最高裁は昨年十二月に受理を決定。三月に口頭弁論が開かれる予定です。こうした時期に、政府と県と核燃機構が一体となって「もんじゅ」の運転再開に突き進もうとしても、住民の納得はえられないでしょう。


「もんじゅ」をめぐる動き

 1980年12月 動燃、もんじゅの原子炉設置許可を申請

   83年 5月 国、原子炉設置を許可

   85年 9月 地元住民が国と動燃を相手取り提訴

   91年 5月 もんじゅ完成

   92年 9月 最高裁、住民全員の原告適格認め、福井地裁に差し戻し

   94年 4月 もんじゅ初臨界達成

   95年 8月 もんじゅ初送電成功

      12月 ナトリウム漏れ火災事故発生、以後、運転停止

   98年10月 動燃、改組により核燃に

 2000年 3月 福井地裁判決、住民側全面敗訴

   01年 6月 核燃、国に運転再開に必要な改造工事に伴う設置許可の変更申請

   02年12月 国、安全審査を経て改造工事許可

   03年 1月 名古屋高裁金沢支部、「もんじゅ設置許可は無効」と住民側逆転勝訴の判決

       1月 国が上告

   04年 1月 国、もんじゅ改造工事の詳細設計を認可

      12月 最高裁が国側の上告受理の決定

   05年 2月 福井県知事がもんじゅ改造工事を了解


 高速増殖炉 高速増殖炉ではプルトニウムを燃料として使用しますが、燃料の周囲にウランを置いておけば、プルトニウムをつくり出せます。原理的には使用した以上のプルトニウムをつくれることから増殖炉の名がつけられています。高速増殖炉の「高速」は、軽水炉型原発では減速させた中性子を核反応に利用しているのにたいし、高速の中性子を利用することを意味します。中性子を減速させる水を冷却材に使うことはできず、「もんじゅ」では加熱して液体状にしたナトリウムを使っています。ナトリウムは空気や水に触れると激しい化学反応を起こすため、その取り扱いが高速増殖炉開発の技術的難問となっています。高速増殖炉は、実用炉(商業用原子炉)にいたるまでに実験炉、原型炉、実証炉の三つの段階を設けて開発を進めています。「もんじゅ」は原型炉です。


技術的に困難

 舘野淳・中央大学教授の話 高速増殖炉は、資源的にみれば大きなメリットがあるため、このタイプの原子炉の可能性は早くから考えられてきました。しかし技術的に非常に難しいのは「もんじゅ」の事故をみてもわかります。各国でもほとんど失敗し、経済的理由もあって開発をやめています。

 各国で挫折したのは、ナトリウムの取り扱いが難しいし、高速中性子を使って核分裂を起こすので軽水炉とは異なる事故や故障が起こるのに対しその現象が十分解明されていないことや、いったん事故や故障が起きるとその修理に膨大な時間と費用がかかるからです。

 また増殖炉でできるプルトニウムは純度が高いものです。核兵器の転用が問題になっているなかで、日本だけが許されるとも思えません。

【関連記事】



もどる
日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ

著作権についてリンクについてメールの扱いについて
(c)日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7  TEL03-3403-6111 FAX03-5474-8358 Mail:info@jcp.or.jp