2005年1月14日(金)「しんぶん赤旗」

番組はこう改ざんされた

NHKデスクの証言から


 大幅に改変されたNHKの番組「戦争をどう裁くか〜(2)問われる戦時性暴力」(二〇〇一年一月三十日放送)。自民党の安倍官房副長官(当時)と中川現経産相の強い圧力を受けて、制作現場に何が起き、番組がどうゆがめられていったのか。十三日に会見した番組デスク・長井暁チーフプロデューサーの証言がリアルに物語ります。


01年1月下旬

安倍、中川氏が放送中止要求

同29日

安倍氏らは説明に納得せず。夜に3カ所が変更された

天皇の戦争責任などカット、「戦犯法廷」に反対の学者インタビュー大幅追加

 二〇〇一年一月下旬。自民党の安倍晋三官房副長官と中川昭一衆院議員らが、NHKで国会・政治家対応を担当していた総合企画室の野島直樹担当局長(現理事)らを呼び出し、放送中止を強く求めます。この時期は、自民党総務部会でのNHK予算審議直前。事態を重く見た野島担当局長は、一月二十九日の午後、松尾武放送総局長を伴って、中川・安倍両氏を議員会館などに訪ねました。

 このとき、NHK上層部の指示でとにかく番組は完成していました。政府・自民党幹部に呼び付けられて「放送中止」まで迫られたのは異常なことです。

 NHKの局長らは番組についての説明を行い、理解を求めましたが、両氏は納得せず。放送総局長は、「番組内容を変更するので、放送させてほしい」と述べ、NHKに戻ります。その日の夕方六時過ぎから、松尾放送総局長、野島担当局長と伊東律子番組制作局長と長井デスクで異例の試写が行われました。

 ここで変更された内容は以下三点です。

 (1)法廷が、日本国と昭和天皇に戦争責任があるとした部分を全面的にカットする

 (2)スタジオ部分の出演者である米山リサカリフォルニア大学準教授の話を数カ所カットする

 (3)「女性国際戦犯法廷」に反対の立場をとる日本大学の秦郁彦教授のインタビューを大幅に追加する。

 「それまでもNHKの上司の指示で何度もつくり直しはしました。でも、それはあくまで編集の範囲だった」。長井デスクは、二十九日以降、番組修正の質が変化したことを語ります。

 その結果、通常四十四分だった番組は四十三分に縮小されました。

放送当日30日

さらに中国人の被害者、元慰安婦の証言などがカットされた

 番組の改変はそれだけにとどまりませんでした。放送当日も、松尾放送総局長は、三分のカットを現場に指示したのです。

 その内容は(1)中国人被害者の紹介と証言(2)東ティモールの慰安所の紹介と元慰安婦の証言(3)加害兵士の証言をカットする│というものでした。

 これには制作現場は全員が反対。しかし、押しきられました。二度にわたる政治介入にともなう番組の改変で、当初の番組の企画意図は大きく損なわれました。いまなおNHKは、「番組改変が自主的判断に基づくものだった」と主張していますが、けっしてそうではなかったことを長井さんは強調します。


与党政治家の介入前にも

VAWW─NET代表のコメント削除、天皇有罪の審理結果発表シーンも削除

出演者のコメント撮り直し

 この番組は政府・与党幹部の介入前にもNHK内部で、改変が重ねられていました。

 二〇〇〇年八月、NHKエンタープライズ21のプロデューサーが、十二月の「女性国際戦犯法廷」をとりあげた番組を企画したい、とドキュメンタリージャパンに制作依頼。十月、取材交渉開始。

 十二月、編集開始。編集方針は、十一月のスタッフ打ち合わせの際に決定した法廷の記録性を大切にする、という方針に沿ったものでした。

 十二月中旬、「ニュース7」で女性国際戦犯法廷が報道され、右翼がNHKに抗議。

 二〇〇一年一月十九日、スペシャル番組部部長とNHK教養部長が試写。二人から「ラディカルで刺激的」「法廷との距離が近すぎる」などの指摘を受け、スタッフが修正について協議。その後、NHK番組制作局長と教養部長の通告として、番組の中でVAWW―NETの松井やより代表のインタビューをはずし、天皇有罪の審理結果の発表シーンも削除し、ナレーションに変更するよう命じられます。

 一月二十四日。教養部長がスタッフに「ボタンを完全に掛け違えた。このまま出せば、皆さんとはお別れだ。二度と仕事はしない」と発言。制作会社ドキュメンタリージャパンがおろされます。

 一月二十七日、二十八日と右翼がNHK放送センターにおしかけ、放送中止を要請。出演者の高橋哲哉氏にコメントの撮り直し。しかし、まだこの段階では、「女性国際戦犯法廷」の仕組み、加害兵士の発言、天皇有罪判決は残っていました。



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