2005年1月11日(火)「しんぶん赤旗」

将来の働く人たちのために

思想差別とたたかう クラボウの労働者

憲法をこの手に


 新年仕事始めとなった四日早朝、大阪市中央区にある繊維大手のクラボウ本社前に「人権侵害・賃金差別をやめよ」「地裁判決に従って争議解決をはかれ」の横断幕。地域の労働組合員や支援者ら十数人とともに、ゼッケン姿でビラを配る宮崎周吉さん(56)の前を労働者が出勤していきます。さりげなく受け取る人や「ご苦労さま」と声をかけていく人。一時間で約五百枚を手渡しました。名越正治記者


「外国ではそんな企業は存在できない」

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「企業は憲法を守れ」とクラボウ本社前で抗議する争議支援総行動の参加者=昨年11月26日、大阪市

 宮崎さんは、日本共産党員だからと思想差別するクラボウを二〇〇〇年四月に大阪地裁に提訴。以来、七十七回門前に立っています。「世の中変わってきたなあ」とまぶしそうに出勤する労働者や年始あいさつの人たちの列を見つめました。宣伝後、一人出向させられている本社ビルの一角にあるアラミスインターナショナルの小部屋にパタパタと駆け込みました。

 宮崎さんは、一九七一年四月に同社に入社しました。名古屋工業大学の学生時代に「いい社会をつくりたい」と日本共産党に入党していました。

 職場に入ってあぜんとしました。労働者の権利や要求を大切にしなくてはならない労働組合が憲法違反の一党支持(民社党=当時)を押しつけていたのです。選挙になると、工場の若い女性たちが白いベレー帽をかぶり、演説会場で靴当番をさせられていました。

 「ほうってはおけない」。宮崎さんは七三年の労組支部大会で、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と明記した憲法第一九条に違反する一党支持決議案に異議をとなえ、「憲法が保障する思想・信条・政党支持の自由を守ろう」と主張しました。

 宮崎さんの発言に次々と手があがり、男性組合員は「私も民社支持は賛成できん」とのべました。

バスも通らぬ駐在所へ

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クラボウ争議原告の伊藤(左)さんと宮崎さん

 会社側もすぐに反応しました。上司は宮崎さんをよびつけ、「そういう発言をするなら、これから相当な覚悟がいるよ」とすごみました。

 曲がったことが大嫌いな宮崎さんは、翌年の支部大会で再び同じ訴えをしました。この年は採決をせずに拍手で一党支持を押し切りました。

 会社側は、本格的な差別を開始しました。三日後に岡山から大阪本社への転勤を命じられ、七七年には静岡県の浜松駐在員に飛ばされます。

 「浜松で『社宅だ』とあてがわれた家は、二間しかない劣悪な物件。それを三つ見つけてきて一つ選べという。一番ましな『社宅』も家具や荷物を入れると、すきまがほとんどなくなりました」

 宮崎さんの仕事場と指示した駐在所は、袋井駅からバスが一時間に一本しかなく、バス停からさらに三十分も歩かなければならない場所。さながら“島流し”でした。

 取引先の社長が見るに見かねて、「仕事の都合上、町中にしてほしい」と会社に要望し、長距離通勤からのがれました。

 浜松駐在の当時、宮崎さんは、丸編みニットの編成を依頼している中小の工場を巡回し、技術指導をしてきました。工場のミスが原因で不良となった製品の発生率を0・5%から0・1%に減らす成果も上げました。

 しかし会社は、宮崎さんに「能力が劣る」と長期にわたって最低ランクの評価をしてきました。

憲法に依拠すれば勝てる

 もう一人の原告、伊藤建夫さん(61)には、クラボウは「共産党をやめれば研究の仕事を与える」と執拗(しつよう)に迫り、総務課の原動・工作補助という閑職を命じて、先輩や同僚の研究者の目が届く場所でごみ捨てや草抜き、溝掃除の雑用を押しつけました。

 「でもね。結構楽しみもありますよ」と体を揺すって笑う伊藤さん。

 「何をするか自分で考えろ」といわれた勤務時間を活用し、さまざまな業務に対応できるようにと、危険物取扱者や放射線取扱主任者、高圧ガス製造保安責任者など多くの資格を取得しました。

 語学の学習にも打ち込みました。ロシア語、イタリア語、フランス語、ラテン語…。これが幼いころから続けている昆虫の研究に役立ったといいます。百本以上の研究論文も書いてきました。

 「妻は『虫があって、あなたは生きのびた』といっています。裁判のなかで、会社は憲法や法律を順守する意思があるのだろうかと疑いたくなることがしばしばでした。だからこそ、憲法や労働基準法に依拠してたたかえば必ず勝利できる、これが私たちの到達です」

評価「90%」、査定は最低

 大阪地裁は〇三年五月、クラボウが「共産党員を嫌悪し、閑職に就かせるなど処遇上不利益を与えた」と断じ、原告全面勝利の判決を出しました。昨年夏には、大阪労働局が労基法違反(三条=信条による差別)の疑いで数回にわたって本社や前会長宅などを捜索しました。差別待遇で強制捜査を実行したのはきわめて異例です。

 事件を新聞報道で知った外資系企業の社長をしている伊藤さんの知人が「外国では、そんな企業は存在できない」といって、激励しました。

 大阪高裁での審理は、宮崎さんの管理職への昇格が焦点の一つです。

 新商品開発や外注工場の品質を安定的にする仕事で、宮崎さんへの目標達成評価は「90%」。それで査定はいつも最低です。会社側の証言に「90%で平均以下ですか」と裁判長があきれ顔で聞き直したほどでした。

 長いたたかいを振り返りながら、宮崎さんはいいます。「差別がぼく一人の問題やったら、クラボウを辞めていたでしょう。けど“思想で差別する”とか、“女性だから差別する”というのは世界では通用しません。異常な差別をなくすため、世界に誇れる憲法を活用して、将来の働く人たちのためにがんばります」



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