日本共産党

2004年12月20日(月)「しんぶん赤旗」

列島だより

ウミガメとの共存さぐる


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 2000キロもの距離を回遊して、砂浜に上陸して涙を流し産卵する―。ウミガメの生態は人の心をひきつけるものがあります。減少し、絶滅の危機にあるウミガメ。ウミガメと人との共存を考えた、各地での取り組みを3氏に聞きました。

宮崎 優しい海岸づくり目指す

宮崎市のNPO法人野生動物研究会理事長・竹下完(ひろし)さん

 宮崎市の青島から高鍋町にかけて二十キロにおよぶ海岸。一九七一年ごろは子どもたちが野球のできるくらい広い美しい砂浜でした。この砂浜に毎年五月半ばから八月初めにかけてアカウミガメが産卵しにやってきます。

 私がはじめてウミガメに出会った七一年には、アカウミガメが産卵した卵は約85%が根こそぎ盗掘に遭う状況でした。戦後の食料難や「栄養がつく」という迷信からウミガメの卵は食用にされていたのです。

 私はなんとかして守らなければと保護をはじめました。盗掘の原因を知るためにウミガメの卵の栄養価を調べ、ニワトリの卵より低いという結果を発見し、マスコミを通じてウミガメの保護を訴えてきました。その後、アカウミガメとその産卵地が、七五年に宮崎市の天然記念物に指定され、保護されるようになりました。そして、八〇年には、宮崎県の天然記念物に指定されるとそれ以来、盗掘被害はなくなりました。

 七三年に数人で野生動物研究会を結成。宮崎市と宮崎県の委託研究を受け、七五年からは本格的な調査をはじめることにしました。夜中にパトロールし、産卵する親ガメの体長や産卵の行動を記録。ウミガメの海洋での生態を調べるために標識をつけ放す調査もしています。

 アカウミガメの上陸数が増加し、最高は千二百回にのぼりました。しかし八一年に宮崎港、宮崎空港の拡張工事が始まると突堤によって海流の動きが変わり、砂浜がだんだんと削りとられ、砂浜がやせてきました。さらに川の上流の砂防ダム建設によって砂の供給も減少しました。

 このような砂浜の環境悪化で、九六年には上陸数が減るという、影響が出てきました。こうして九七年には最低の四百回ほどまで落ちこみました。

 しかし二〇〇一年ごろから増加がはじまり、今年は千二百回まで増えました。あいつぐ台風の上陸などで、せっかく産んだ卵も狭い砂浜では波をかぶり、ふ化できなかった卵がかなりの数になりました。

 今後の課題としては、技術を駆使してウミガメが産卵できる優しい海岸づくりに行政も取り組んでいただきたいと期待しています。


熊本・荒尾 豊穣の海 有明再生ともに 上陸待ち海岸清掃

熊本県荒尾市の「海ガメを呼びもどす会」会長・小川堯利(たかとし)さん=共産党市議=

 荒尾市に「海ガメを呼びもどす会」が誕生したのは一九九六年八月です。

 九〇年六月に荒尾の猫宮海岸に上陸したアカウミガメは百二十個の卵を産みましたが、残念ながらふ化しませんでした。九二年にお隣の長洲町新山海岸でふ化した子ガメ二十五匹は、大海に向かいました。

 荒尾の海岸は、日本の緑を守る会が「二十一世紀に引き継ぎたい日本の白砂青松百選」に選んだ貝殻砂の白い砂浜が長洲町まで四キロ続く美しい海岸でした。

 荒尾市議会の文教厚生委員会が九六年に名古屋市で視察をした際、名古屋港水族館でアカウミガメの遊泳を見学。感動した市議らから「企業誘致よりよほど価値がある」と声があがりました。このことが、会発足につながりました。

 荒尾の海岸にはここ十年ほどアカウミガメの上陸はありませんが、会ではアカウミガメが産卵に来る日を期待して活動を続けています。毎年産卵の時期前後には海岸清掃を続けています。

 荒尾市では国道389号線の建設が進み、当初の計画は海岸を埋める予定でした。会は県知事や市長、隣接する自治体にも陳情、こういった運動の反映か、この計画は白紙に戻りました。アカウミガメの産卵の砂浜はわずかながら(約一キロ)残しています。

 対岸の諫早湾堤防締め切り後、異変が続き、荒尾地域の干潟でも生き物が激減しました。それでも荒尾地域の砂干潟は千六百五十六ヘクタールもある日本一の砂干潟です。

 私は十二月市議会で、干潟の調査と生き物再生で質問しましたが、会の夢と活動は、アカウミガメが来る海に加えて豊穣(ほうじょう)の海有明海の再生も加わり、ますます広がっています。


産卵場 どう守る

日本ウミガメ協議会会長・亀崎直樹さん

 アカウミガメが北太平洋で産卵するところは、日本だけです。アオウミガメ、タイマイにとっても日本近海は産卵場の一つであるとともに重要なエサ場でもあります。

 ウミガメが好む海岸は外洋に面して、砂が波によって洗われており、ハマダンゴムシなどゴミを食べる生物もすむ自然豊かな、騒がしくない海岸です。

 いま、日本で産卵ができる海岸が減少しています。

 その原因である砂浜の荒廃・減少は、公共事業による影響が大きい。人工砂浜に卵を産む事例もありますが、つくった当初はよくても、砂が固くなっていきます。本当の砂浜は、波に洗われる、常に不安定な環境です。これを人工的につくるのは難しいのではないでしょうか。砂浜の生態とメカニズムの解明もしていく必要があります。

 各地で開かれている子ガメの放流会が子ガメの生存率をあげているか、疑問があります。科学的に評価し、ウミガメ減少の原因に人の影響がないか、見ていく必要があります。

 行政には、潮流の調査をしっかりした上で砂浜を変化させないように海岸土木の工事の質の向上をしてほしい、またウミガメを守る地元での取り組みを支えてほしいと思います。


 アカウミガメ 世界に七種いるウミガメの一種。関東から沖縄にかけての広い範囲で産卵をする、日本で最も多く見られるウミガメです。二、三年おきに産卵で上陸しますが、ふ化直後から産卵時以外はほとんど地上にあがることはありません。人工衛星による追跡調査などで、太平洋を回遊するなど広範囲に移動していることがわかってきました。環境省のレッドデータブックでは絶滅危ぐII類(絶滅の危険が増大している種)に指定されています。減少の原因に、砂浜の減少のほか、漁場での混獲も指摘されています。



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