2004年12月17日(金)「しんぶん赤旗」
組織や制度改革をせまられているプロ野球が、もうひとつ大きな課題をかかえこんでいます。
ドーピング(禁止薬物使用)問題です。
いま米大リーグは、ボンズ、ジアンビら一流選手のドーピング疑惑で大揺れです。彼らが大陪審で禁止薬物の使用を認める証言をしていたと地元紙などが報道。いっせいに批判がおこり、セリグ・コミッショナーはドーピング対策を強化する方針を示しました。ブッシュ大統領も再発防止の具体策を求め、ドーピング対策に消極的だった選手会も、より厳しい検査の導入を機構側と話し合うことを合意しました。
これは、ひとごとではありません。日本のプロ野球が、ドーピングに対する手だてを組織的にとっていないからです。
「将来的には(対応策を)とると思うが、いまは各球団任せ」(コミッショナー事務局)の状態がつづいています。プロが参加した過去2回の五輪で検査に引っかかった選手がなかったことや、米国よりも薬物への自己規制が強い社会環境が、関係者の危機感を喪失させているのでしょう。
しかし現状はそんなに甘くはありません。いまや日本にいても、インターネットなどを通して簡単に筋肉増強剤などの禁止薬物が手に入ります。
ドーピング事情にくわしい医学博士の高橋正人・国際武道大助教授は、「日本のプロ野球でも、禁止薬物を使用している選手はいると思う」と明言します。実際に、禁止薬物を使うことでみられる症例がでていることなどを指摘。外国人選手の影響や、元選手が週刊誌上などでドーピングの事実を認めたこと、現役引退後に覚せい剤で捕まった著名投手の例をあげ、このままでは大リーグの二の舞いになりかねないと懸念します。
プロに先んじて国際大会に出ていたアマチュア球界では、一定のドーピング対策がすすんでいます。国内大会の都市対抗や日本選手権ですでに薬物検査を実施。ワールドカップ(W杯)などの国際大会に出場する選手は事前に国内で検査を受けています。有力選手やチームにはドーピングのガイドブックを渡し、医者による講習会など、啓もう活動も行っています。
こうした経験を生かしながら、今後はプロ野球を含め、球界全体で早急にドーピング対策をとることが必要です。
それには選手会の協力も不可欠です。まだ日本の選手会もドーピング問題については静観していますが、プロ野球の将来にかかわる問題として、重視すべきでしょう。
先のアテネ五輪でも、薬物汚染の実態が浮かび上がりました。ドーピングの根絶は21世紀のスポーツ界の最大の課題になっています。今月初め、ユネスコの国際会議は「スポーツにおける反ドーピング国際協定」の草案を固めました。これは、各国政府が禁止薬物の取引や輸入、生産、使用を制限するために、法による取り締まりなどを呼びかけたものです。
ドーピングはスポーツの死を招きます。世界反ドーピング機関(WADA)の規程は、「ドーピングはスポーツ精神に根本的に背反するものである」としています。そして反ドーピング活動の目的を「倫理観、フェアプレーと誠意」「健康」「人格と教育」「献身と真摯(しんし)なとりくみ」「規則・法令を尊重する姿勢」などのスポーツ固有の価値観を守ることだと明記しています。
プロ野球が見せ物ではなく、スポーツとして発展していくためにも、ドーピング根絶へのとりくみを本気で考え、一刻も早く対策に手を付けるべきでしょう。
(本紙スポーツ部記者)