2004年12月7日(火)「しんぶん赤旗」
「独禁法って、名前からして怖そうだね」。同僚記者がつぶやきました。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。本当に怖い法律なのかなあ。金子豊弘記者
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独禁法とは、そもそもどういうものか。ここは一番、独禁法を運用している公正取引委員会の委員長に聞いてみよう―。
出かけていったのは、独禁法改定案を審議している衆院の経済産業委員会。竹島一彦委員長に、約束なしの体当たり取材を試みました。
記者 独禁法を一言でいうとなんですか。
竹島委員長 公正で自由な競争を促進する法律です。
たしかに一言でした。中身はどういうことか。霞が関にある公正取引委員会に足を運びました。
広報の担当官は、五センチもある『独占禁止法関係法令集』をめくりながら説明してくれました。
「独禁法が禁止している主な柱は三つです。私的独占とカルテル、そして不公正な取引方法です」と担当官。
それで、それぞれの意味は―。
不当な低価格販売や差別的な価格によって競争者をつぶしたり、新たに参加しようとする事業者を排除することなどを禁止しています。これが私的独占の禁止です。カルテルは価格や生産・販売数量などを制限する複数の企業による協定のこと。価格が不当につりあがると消費者は困ってしまいます。
不公正な取引方法というのは、デパートやスーパーが、納入業者に商品を押し付け販売したり、協賛金を強いることや、誇大広告、商品を仕入れ価格よりも安い価格で販売して地域の商店に打撃を与えることなどをいいます。
さまざまな問題を取り扱う法律なんだな、と感心。でも違反したらどうなるのだろう―。
公正取引委員会は、違反の疑いがあるお店や企業に行き、証拠を集める立ち入り検査をします。それで「黒」と判断すれば、「悪事はやめなさい」と排除勧告を出します。事業者側が受け入れないときには、裁判に似た手続きの審判をおこない、必要な措置を命じます。これを「審決」といいます。カルテルには不当にもうけた分を徴収するために課徴金を課すことがあります。公正取引委員会は審判手続きという司法手段に似た行政手続きをするので、準司法的機関ともいわれているのです。
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それにしても、競争を促進することだけで、私たちの暮らしを守れるのかなあ。競争が激しくなれば、弱者が切り捨てられ、格差は拡大するし、競争に打ち勝とうと大企業がリストラをすすめると大量の失業者が生まれる―。そんな思いを胸に今度は、早稲田大学法学部の土田和博教授の研究室を訪ねました。
この疑問に土田教授は「原点に戻って考える必要があります」と指摘。「本来、独禁法は独占的大企業を規制するための法律なんです」といいます。
現在の独禁法の源流はアメリカにあります。一八九〇年、当時の鉄道独占体が農産物輸送に差別的な高運賃をかけたり、石油トラストが石油産業を思いのままに支配したため農民や小零細企業の怒りが爆発し法律ができました。日本では戦後、「ポツダム宣言」を受け財閥を解体し、一九四七年に独禁法が制定されますが、その時は、製造業などの会社はほかの会社の株を持つことを一切禁止されるほど厳しいものでした。「いまでは、考えられないですね」と土田教授。
もともとは、大企業にとっては「怖い」法律だったのです。でも、その後、独禁法は骨抜きにされて今では、持ち株会社まで解禁されてしまいました。いま、国会では課徴金の引き上げ率圧縮など大企業側の要望が取り入れられた独禁法改定案が継続審議になっています。改定案について土田教授に聞いてみました。
「政府の案は一歩前進にすぎません。公取委が日本経団連に妥協した結果だと思います。独禁法の本来の役割を果たさせるため、消費者、小零細事業者、納税者、有権者の立場から監視していく必要があります」