日本共産党

2004年12月5日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 核燃料サイクル

このまま進めて大丈夫?

核燃料再処理


 国の原発政策をめぐって、日本原燃が青森県六ケ所村に建設している使用済み核燃料の再処理工場を稼働させるべきかどうかが大きな問題になっています。政府の原子力委員会は、このほど従来の核燃料サイクル政策を継続することを確認、再処理工場へのゴーサインと受けとめられています。これを受けて、日本原燃は年内にも放射性物質を使った「ウラン試験」を実施する計画です。このまま進めていいのでしょうか。

 前田利夫記者


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再処理工場の使用済み核燃料貯蔵プール=青森・六ケ所村

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プールに貯蔵されている使用済み核燃料。下はまだ空いている部分

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見直し迫られた政策

見通しないままに強行

 「核燃料サイクル」政策は、これまで日本の原子力政策の基本として推進されてきました。原発から出る使用済み核燃料を再処理して、取り出したプルトニウムを再び原発の燃料として使用する方式です。その一環として六ケ所村の再処理工場も建設されました。

 ところが、再処理工場での「ウラン試験」を前にして、再処理をやるべきかどうかが大きな論議になりました。論議が起きた最大の理由は、再処理を前提にした核燃料サイクル路線の行き詰まりです。

 核燃料サイクル政策の当初の計画では、再処理で取り出したプルトニウムは、主に高速増殖炉で使用することになっていました。しかし、一九九五年十二月に高速増殖炉「もんじゅ」で、冷却材のナトリウムが漏れだし、火災を起こすという深刻な事故が起き、政府の思惑は破たんしました。各国も高速増殖炉の開発から撤退し、実用化の見通しはまったく立っていません。

 そのため、国と電力業界は、プルトニウムを現在の軽水炉型原発で使用する「プルサーマル」(プルトニウムとウランの混合酸化物燃料=MOX燃料を使う)を実施しようとしています。しかし、プルトニウムを大量に使うことによって原発の危険を増大させるやり方には国民的な反対が強く、予定通りには進んでいません。

 再処理でプルトニウムを取り出しても使い道がない状況で、大規模な再処理工場を稼働させることにたいして、大きな疑問が出されるようになり、核燃料サイクル政策の見直しを求める声が高まりました。

 こうしたなかで、経済性の面からも、再処理を疑問視する指摘が多く出されるようになりました。再処理する方が、再処理をしないで使用済み核燃料を直接地下に埋めたて処分する場合に比べてずっと費用が高くつくという試算を政府が隠していたことも明らかになりました。

「高くつく」が結論

経済性には目をつぶる

 政府の原子力委員会は今年六月、原子力政策の基本方針である「原子力長期計画」の改定のための「新計画策定会議」を設置しました。同会議で真っ先に取り上げられたのが、使用済み核燃料の処理・処分問題です。

 同会議での検討のなかではっきりしたのが、再処理は高くつくということです。再処理した場合の「核燃料サイクルコスト」は、直接処分した場合にくらべ、一・五―一・八倍高くつくとしています。経済性の面から、再処理を強行する理由はなくなりました。

 しかし、十一月十二日に発表された同会議の「中間取りまとめ」の結論部分では、「使用済み核燃料を再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用することを基本方針とする」としています。

 その理由としてあげられているのが、「再処理路線から直接処分路線に政策変更を行った場合、原子力発電所からの使用済み核燃料の搬出が困難になって原子力発電所が順次停止する事態が発生する」というものです。

 青森県や六ケ所村は、再処理を前提に、再処理工場をはじめとする核燃料サイクル施設を受け入れてきました。青森県は、再処理をしないなら使用済み核燃料は受け入れないと主張しています。青森県が受け入れないと各原発の使用済み核燃料貯蔵プールが満杯になってしまい、原発の運転ができなくなってしまうというのが意味するところです。

 要するに、行き詰まり状態にあるプルトニウムの用途や、経済性の問題には目をつむって、当面原発の運転を継続可能にするために、再処理路線を強行するというのが原子力委員会の結論です。

処理費42兆9千億円

国民負担は増えるばかり

 原子力委員会は使用済み核燃料の処理・処分方式による費用を比較する際、四つの場合について算定しています。

 シナリオ(1)は、すべての使用済み燃料を再処理する「全量再処理」。現在六ケ所村に建設中の「第一再処理工場」(再処理能力年間八百トン)は二〇〇五年度から二〇四六年度まで操業すると想定。二〇四七年度からは再処理能力が年間千二百トンの「第二再処理工場」が操業開始すると想定しています。

 シナリオ(2)は「部分再処理」。第一再処理工場が操業する間だけ再処理して、その後は直接処分(使用済み核燃料を再処理せずに、そのまま地下に埋めてしまう)するとしています。

 シナリオ(3)は使用済み核燃料をすべて直接処分する「全量直接処分」。

 シナリオ(4)は「当面貯蔵」。直接処分するか再処理するか、適当な時期に判断するというもの。

 これらのシナリオについて二〇〇二年度から二〇六〇年度までの費用を算定。その結果を表に示しました。

 最も費用が高くつくのが、全量再処理の場合で、四十二兆九千億円。いずれにしても、これらの費用は、電気料金などの形で国民が負担することになります。

使用済核燃料の処理・処分方式による費用比較
    
(1)全量再処理 (2)部分再処理 (3)全量直接処分 (4)当面貯蔵
発電1キロワット時当たり(円) 1.6 1.4〜1.5 0.9〜1.1 1.1〜1.2
総額(兆円) 42.9 38.7〜45.0 30.0〜38.6 36.7〜40.9

ウラン試験見切り発車

すでにトラブル、事故が心配

 原子力委員会による再処理路線へのゴーサインを待って、青森県と六ケ所村は十一月二十二日、日本原燃との間で再処理工場ウラン試験の前提となる安全協定を締結。今月三日には、周辺六町村とも安全協定を結びました。日本原燃は今月中にもウラン試験を始める予定です。

 強い放射能をもつ物質を大量に扱う再処理工場は、「放射能化学工場」ともいわれます。その技術は、核兵器用プルトニウムを取り出す軍事技術を応用したもので、原発にくらべても技術的に未熟だとされています。

 核燃料サイクル開発機構(旧動燃)の再処理工場(茨城県東海村)は、年間二百十トン(ウラン換算)の処理能力で設計されましたが、稼働を始めた一九七七年からこれまでの処理実績は千六十二トン。二十七年間で設計能力のわずか五年分にすぎません。事故・トラブルの多発によるものです。

 なかでも九七年三月に起きた爆発・火災事故は重大でした。放射性物質が施設外に放出され、三十七人もの作業員が被ばくしました。

 青森県六ケ所村に建設されている再処理工場は、年間処理能力八百トンで設計されています。事故が起きれば、それだけ影響も大きくなります。

 稼働前から、すでにトラブルが発生しています。使用済み核燃料の貯蔵プールで水漏れが起き、二百九十一カ所もの不良溶接が明らかになりました。操業開始予定も大幅に遅れています。

 日本原燃によると、再処理工場の配管の長さは約千三百キロメートルにも及びます。これまでは、水や化学薬品を使って設備の試験を行ってきました。

 ウラン試験は、放射性物質を使っての初めての試験になります。いったん放射性物質を使用すれば、解体が困難になります。そのため、ウラン試験開始前に従来政策の見直しを求める声が多く出されたのです。

 政府は、先の見通しのないまま原発を増設し、核燃料サイクル政策を推進してきた結果、深刻な行き詰まり状況をつくりだしてきました。いままた、何の見通しも立たないまま再処理工場の稼働へ向かうことは、事態をさらに深刻化させるだけです。根本に立ちかえった政策の見直しこそが求められています。

 日本原燃は、ウラン試験を一年間実施した後で使用済み核燃料を用いて試験を行い、本格操業を目指すとしています。

 プルトニウム 自然界にはほとんど存在しない元素。原子炉のなかでウランからつくられます。比放射能(一グラム当たりの放射能の強さ)がウランに比べてもけた違いに大きく、体内に取り込むと、ごく微量でもがんなどの原因となるきわめて毒性の強い物質です。核兵器の材料ともなり、プルトニウム数キログラムで原爆一個がつくれるとされています。現在、日本は海外にあるものも含めて約四十トンのプルトニウムを保有しています。六ケ所村の再処理工場を稼働させれば、保有プルトニウムはさらに増えることが予想されます。




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