2004年12月4日(土)「しんぶん赤旗」
電話を使ったいわゆる“オレオレ詐欺”にあった被害者が、「警察はもっとまじめに捜査をしてほしい」と訴えています。東京都内に住む男性、五十一歳。二カ月前、「すぐに金を振り込まなければ息子を殺す」と脅されて、家族が百数十万円をだまし取られてしまいました。その体験を聞きました。
九月末の午後一時ごろ、電話が鳴りました。家族が受話器をとってみると、「A男だけど、交通事故をおこした」と泣きじゃくる息子の声。家族は、その泣き声で本人に間違いないと確信をもってしまいました。「えーっ、人身事故?」「そうじゃないけど…」のやりとりのあと、電話を代わったのは、「組のもの(暴力団員)」を名乗る男でした。
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「赤信号で横断歩道を渡っていた息子さんを避けるために、車を塀にぶつけてしまった。車は組長のベンツ。すぐに修理しないとまずい。修理代五百万円を払わなければ息子の命はない」
男は、携帯電話の番号を聞き出し、すぐに電話をかけなおしてきました。「この電話の声が十秒以上とぎれたら息子の命はない」。他人と相談したり、息子の携帯に電話をかけて確かめたりする手段を奪いました。
つなぎっぱなしの携帯電話を持ったまま、銀行に直行。ATMから指定された二つの口座にすぐに引き出せるありったけのお金を振り込みました。
家族はそのまま、指定の場所で待機するように命じられました。三十分が経過。家族は、何の連絡もないことに不安が募り、つながっている携帯電話を持ったまま、公衆電話から私の職場に連絡してきたのです。
その後、息子と携帯電話で連絡がとれて、そこで初めて「詐欺」が明白になりました。警察に直行し、被害を届け出ました。
あれから二カ月余。私が実感しているのは、犯罪の凶悪さ、巧妙さとともに、警察の対応が信じられないということです。
犯行当日、警察暑の担当者から聞いた第一声は、「お金は戻ってきませんから、あきらめてください」でした。被害の状況を聞いたり、銀行口座の差し止めなどの手だてをとる前の言葉です。あぜんとしながらも、「とにかくすぐに銀行に連絡をとり、犯人を追跡してほしい。捜査の状況については追って知らせてください」とお願いして帰宅しました。
しかし、その後、警察からは何の連絡もありません。しびれを切らして十月半ば、警察を訪ねました。担当者は、「現金はその日のうちに埼玉県内のコンビニから全額引き出された」「口座が使われた人が実在することが確認できた」と教えてくれました。
ところが驚いたことに、コンビニのカメラの映像は、 「見ていない」 「残っているかどうかも確認していない」 、 口座が使われた人とは「会っていない」というのです。この二つは犯人追跡の手掛かりのはずです。
「おかしいのでは?」と訴えると、「コンビニ会社はプライバシーをタテに映像を出さない。出させるには裁判所の令状がいる」「口座が使われた人といきなり接触すると、犯人に仕立てられたといわれ、国家賠償の請求が出される」といわれてしまいました。「犯行から二十日近くたった。これでは、犯人が逃げてしまう」と、重ねてお願いしました。
翌日、コンビニ会社のATM担当者に電話すると、「映像は残っている。警察から要請があればすぐに出します」。警察にこの事実を伝えたところ、「コンビニ会社の電話番号を教えてください」。その後、映像入手の手続きをしたとのことです。しかし、今になっても、口座が使われた人とは「会っていない、連絡もとれていない」という状況が続いています。
これだけ重大な社会問題になっているのに、オレオレ詐欺の検挙率はわずか6%(認知件数比)だと報道されています。
警察の担当者に「私の事件はどういう態勢で捜査しているのか」と聞きました。すると、「私一人でやっている。他署との連携もない。とても手が回りません」とのことでした。これでは、百年かかっても犯人は捕まらないのではないでしょうか。警察の本来の仕事は、市民の安全と財産を守ることにあるはずなのに…。