2004年11月28日(日)「しんぶん赤旗」
【モスクワ=田川実】大統領選の開票をめぐる混乱が続くウクライナ。人々の関心は、政権側候補による不正疑惑とともに、ソ連崩壊後の経済落ち込みをどう本格的に再建するか、民営化の暗部をどうただすか、そして外国との協力をどう探るかにあります。
ウクライナは旧ソ連経済の約二割を占め、約七割のロシアに次ぐ存在でした。独立を宣言したのは一九九一年八月。同年末のソ連崩壊に大きな影響を与えました。
しかし独立の熱狂後に直面したのは、インフレの高進や生産の大幅な低下でした。西・南部の肥よくな穀倉地帯、炭鉱やトラクターなどの機械、金属の東部・重工業地帯は、ともに二〇〇〇年までマイナス成長。賃金や年金の低さ、遅配に国民は不満を募らせました。
過去三年はプラス成長ですが、〇三年の一人あたりの国民総所得は九百七十ドルです。
国民の怒りは、独立後の民営化による利益が一部に偏っていることにも向けられます。
「クラン」(氏族)や「オリガルヒ」(寡頭政治の独裁者=新興財閥)と呼ばれる一部企業家グループが幅を利かせています。東部ドネツク出身のヤヌコビッチ首相や、クチマ現大統領の親族などがその例に挙げられています。
クランは政権、行政とも癒着。大統領選挙で国営テレビはヤヌコビッチ首相・候補の姿と主張を優先して報じました。
こうした現状を野党のユシチェンコ候補は厳しく批判。経済での「機会均等」、言論の自由拡大などの「改革」を訴え、支持を得ます。
同候補の売りは、政権時代の実績です。一九九三年に中央銀行総裁になり、九六年に新通貨フリブナを導入。金融引き締めで一時インフレ率を抑えました。九九年には二期目のクチマ政権の首相に。二〇〇〇年からの経済成長を背景に賃金、年金を改善しました。
〇二年に首相についたヤヌコビッチ氏も、経済成長、生活改善の実績と国の役割の強化を掲げ、支持を広げました。
経済成長には対外関係が絡みます。ウクライナの輸出入の最大の相手はロシア。ユシチェンコ、ヤヌコビッチ両候補の「実績」も、好調なロシア経済に助けられた側面が少なくありません。
ヤヌコビッチ氏は、クチマ大統領が昨年ロシア、ベラルーシ、カザフスタンと合意した統一経済圏づくりの推進を公約しています。
一方のユシチェンコ氏は統一経済圏づくりに反対。欧米との関係強化を重視します。特に今年五月に旧ソ連・東欧諸国が相次いで加盟した欧州連合(EU)の存在が大きな比重を占めています。
ドイツ、イタリア、隣国ポーランドは主要貿易相手。「繁栄に取り残されたくない」というのが、反ロシア、親欧州感情の強い西部、中央をはじめとした有権者にくすぶる思いです。