2004年11月22日(月)「しんぶん赤旗」
プロボクサーの小林秀一さん(30)は、豆腐屋の四代目です。九日、つくりたての豆腐を新潟県中越地震の被災地へ送り、二十二日からはボランティアとして現地に入ります。震災取材にあたっている本紙の藤川良太(24)、本吉真希(31)の両記者が東京都文京区にある小林さんの自宅を訪ね、震災について話し合いました。
本吉 現地に入る二十二日には、豆腐を持っていかれるんですか?
小林 ええ、持っていこうと思っています。阪神大震災のときは、学生でしたからね。今回は、社会人になってますし、何とか力になりたいという気持ちがありますから。テレビでみてるだけでは、ほんとうのことはわかりませんし、被災地の人と接したいですね。機会があれば、被災地のセンターに入っておしゃべりしたいと思ってます。
本吉 取材で話を聞くんですけど、話すことで地震を忘れるという人もいました。ボブ・サップがきたときなど、おばあちゃんまでがサインをもらいに並んだそうです。それだけでも和むんですよね。
藤川 青年ボランティアも活躍してますよね。
小林 そうでしょうね。
本吉 小千谷市の避難所の総合体育館にいったときのことなんですが、すみっこでギターとタンバリンで歌ってる二人の青年がいたんです。聞いてる人はいないんですけど、話を聞いてみたら「ボランティアです」というのは気がひけるけど、何かしたいというんです。小千谷市の案内をみたら、パフォーマー募集というのがあって、「歌を歌うことならできる、よしいこう」ということになったそうなんです。
小林 なるほど。
本吉 新潟に来る前につくったというのが、「高みの見物」というタイトルの歌詞なんです。そのなかの「募金する勇気などありはしない」「ボランティアなんて僕にはできっこない」とあるんですね。そんなところなんかは、多くの若い人たちが感じていることなんじゃないかって思うんです。私も日本共産党に入る前は、立ちどまって募金する自分がうそっぽく感じてましたから、彼らの気持ちは理解できました。そんな青年たちも、今何かしなきゃいけないと思う状況なんだ、そういう青年たちがいっぱいいるんだなと思いました。
小林 ぼくの場合、自分でできることは豆腐を届けることですよね。その豆腐の名前が「久間吉(くまちき)」で、もらった人は、「久間吉」ってなんだろうと思うでしょう。だから、メッセージをつけて祖父、久間吉のことも書いたんです。
記者のお二人はどんな気持ちで取材にあたったんですか?
藤川 社会部にきて二カ月くらいしかたってないし、しかも大災害の取材は初めてです。地震が起きてすぐ行けといわれました。興奮しましたね。一晩かけて現地にはいりましたが翌朝、道路は陥没し、マンホールは飛び出していました。余震がきたら、さらに崩れてしまう状況を目の当たりにして、興奮してるだけではだめだ、と思いました。地震のひどさはもちろんですが、そこに生活をしている人たちがどうなっているのか、何を思っているのか、を伝えなければと思って懸命でしたね。
本吉 私はボランティアの取材にあたることが多かったですね。印象的だったことは、被災から十三日目で畳の上で眠ることができた人が「畳はいいよね」「いびきかいて寝たよ」といってたことですね。ほんと生活感をかんじました。
小林 地震はいつまで続くんですかね。ある程度するとおさまるはずなんですが。住民の不安はどうなんでしょうね。
藤川 このあとすぐ、新潟に入る予定ですが、現地はこれからがきつくなると思うんですよね。避難生活は長くなるでしょうし、雪も降ってくる。個人の力だけではどうしようもないレベルの問題になってきますから、そこをしっかり取材し、取り上げていきたい。そして、住民が安心して生活していけるように早めに手を打っていけるといいですね。住民の不安をしっかりみていきたいと思います。
本吉 被災者の気持ちに“寄りそう”ことは正直、難しい。でも、それを読者に、どう伝えるかですね。自分自身が、被災地でいろいろな経験ができる一つひとつを大切にしたいと思っています。
小林 テレビをみて、現地の人たちのことを分かったつもりになることは、怖いですよね。テレビだけでは、被災者の気持ちは本当にはわからない。被災者に接して初めて、伝わってくるものがありますからね。
で、被災者にとっては、将来がすごく心配だと思うんですよね。今は必死で生活していますが、問題はこれからですよね。一人ひとりに人生があるわけですから、被災者が将来のことを考え、心配していることを私たちが「わかる」ことが大切だと思いますね。がんばってください。
藤川、本吉 ありがとうございました。新潟へは気をつけて行ってください。(おわり)
◇「お悩みHunter」は休みます。
小林さんと若い記者さんたちの話し合いの記事(十五日付)おもしろかったです。私も何かしなければと思っていたところでした。ボクシングチャンピオンの小林さんが豆腐を百丁も作って送ったなんてすごいなー。こんど行くんですものね! 私も見習わなくちゃ! 記者さんたちも、きっと大変なんだろうと思うのに、「大変だ」といわずしっかり問題意識をもって取材されていることにも、ほんと偉いなーと感心してしまいました。記事ではわからない記者さんたちの感じ方や考えを知ることができて、とても親近感が持てました。写真を見て、私たちと同じなんだ? なんて思いました。こういう企画ときどきやってくださいね。
今週も(下)を掲載しています。ぜひ読んでください。それから、企画提案、ありがとうございます。(タカ)