2004年11月15日(月)「しんぶん赤旗」
震災だけでなく、今年相次いだ台風災害は各地の住民の暮らしに深い傷跡を残しています。十月に襲来した台風23号による円山川の堤防決壊で街の大半が浸水した「かばんのまち」兵庫県豊岡市。かばん業界の被害総額は約五十億円といわれます。不況と中国や台湾、東南アジアからの輸入増大で業界全体が苦しむなか、追い打ちをかけた水害。被災から一カ月になろうとしているなか業者は、営業再開に向けて苦闘しています。関西総局・和田肇記者
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同市のかばん生産は全国シェアの七割を占め、主力はビジネスバッグや旅行かばんです。普段はひっきりなしにミシンの音が響く同市九日市上町のかばん団地にはメーカー、卸商、材木商など十八社が集まります。今はひっそり。後片付けに奔走する人の姿がみられます。
「コンピューターつきのミシンは全部パーだ。とにかく資金がほしい。それが一番だね」。疲れた表情で高島芳一さん(47)は語ります。
高島さんの工場には床上五十センチ近くまで水が上がった跡が残っていました。フローリングの床板は反り返り、モーターの間に挟まった細かな泥が機械を壊しました。ミシン、工場、泥に漬かった原材料、商品…被害総額はいくらになるのか検討もつきません。「ただでさえ不況だ。早いこと仕事せんならんというもどかしさがある」
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台風23号にともなう豪雨で市中心部を流れる円山川の堤防が決壊。あっという間に道路が川になったといいます。市街地の九割、全体で八千戸が床上・床下浸水。二階まで浸水した家もあります。
細々と営業を再開したメーカーもあります。西村彰夫さん(48)のミシンは、二階に置いていたので難を免れました。「一週間くらいでなんとか再開にこぎつけました。借金もあるし、手作業でできるものをしていかないと」。あわただしく小型かばんのこん包を続けていました。
一階に置いていた大型の布地を裁断する裁断機や大きなカッターはモーターがダメに。二台で八百万円の損失です。「保険をかけていたけれど、一律で5%しか出せないというんです。全部でたったの百五万。だまされた気分です」。妻の利恵子さん(46)も「信用金庫などの融資もあるらしいけど、借りても返せるかどうか。この何年か売り上げも伸び悩みで、手形を割らなあかん状態なのに」とため息です。
早期の営業再開を願う背景には、販路が絶たれてしまうという危機感があります。
元大手メーカーの社長の植村美千男さん(70)は「生産にブランク(空白)ができてしまうと、余計に海外製品が入るという懸念がある」と指摘します。「心配なのは、やめてしまうメーカーが出てくること。今でも目いっぱいやってるのに、こういう事態になると、頑張ろうという気持ちのほこ先が折れてしまう」
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豊岡鞄(かばん)協会の尾畑信行会長は「流通部門は八―九割が回復したが、生産部門の復帰にはまだ一カ月かかる」とみています。「資金を借りる条件は二年すえおき十年返済でも厳しい。これから資金繰りの苦労がさらに出てくるでしょう。五十億円の損害というのは、年間売り上げの二カ月分に匹敵します。復興には、県も国もかかわらないと無理です」
尾畑会長は、また「内職でかばん製造に携わっている縫い子さんたちがやめてしまうのでは」と危ぐします。「街のどこを歩いてもミシンの音が聞こえる」といわれた豊岡市。かばん縫製を底辺で支えてきたのは、内職の婦人たちです。「これから七十万円も八十万円もするミシンを買い直してやっていく気力があるか。それが心配です」
個人下請けを救済しようというメーカーも現れていますが、まだ一部の例です。損害分を個人責任でまかなうには限界がある、というのが共通の声です。あるかばんメーカーの社長(66)は「機材の貸し出しや購入代金の補てんがあれば、かなり楽になる」と指摘します。尾畑会長も「スムーズに、早く資金を出してもらうことが再建のための第一歩」と強調します。
個人・メーカーの努力だけでは解決の見込みが立たない営業再建。国や自治体の役割が問われています。
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日本共産党の安治川敏明豊岡市議は「くらし、営業の再建はまったなし」と訴えます。
同市議団の中家和美議員は市の災害対策本部に参加、業者の個人負担となっていた化繊などの産業廃棄物を水害ゴミとして一括処理するよう強く主張し、実現させました。
営業再建のための直接支援制度はまだないのが実情です。日本共産党は被災者生活再建支援法の改正で中小企業事業所への公的支援(直接支援)を実現することや、無利子・無担保、長期返済の融資制度をつくることを求めています。
党兵庫県委員会は、福井県が七月の豪雨水害で伝統的工芸品をつくる企業に最高三百万円の補助を実現したことを例に「自治体独自の制度創設を」と訴えています。