2004年10月6日(水)「しんぶん赤旗」
本州にすむツキノワグマが各地で人里に下りてきて、家屋に侵入するなどの例が急増、人身被害も増えています。
本紙が主な十三県を調査したところ、ツキノワグマによる今年の被害は、死亡一人、負傷者六十五人で、昨年の負傷者三十五人に比べ倍近くに及んでいることが分かりました。
とりわけ、北陸三県と新潟県で昨年の負傷者七人が三十二人と急増しているのが特徴で、猛暑と度重なる台風のせいでエサとなる果実が不作で山を下りてきたのではないかと見られています。
連日のように報道されるツキノワグマによる人身被害―。本紙が各県の自然保護課などに問い合わせたところ、別表のように、東北では、秋田県を除き昨年と大差がないのに、北陸各県で被害が急増しています。
富山県では、今年四月以降九件十三人が被害を受けました。
そのうち八人は九月に立て続けにおそわれました。福光町では九月十六日、自宅玄関前に現れたクマに男性(77)が襲われ、パトロール中の猟友会会員がスパナで撃退したものの、クマは百メートル離れた会社員宅の玄関前のガラス戸を破って侵入。その音で家に戻った女性(56)の顔を殴りました。
二十八日には、上市町の老人ホームのガラス扉を破って侵入するクマまで現れました。
福井県では、昨年はクマの出没は五十五件で、けが人一人、捕獲したクマは十二頭でした。
ところが、今年は四―九月だけで出没件数が百七十件、捕獲三十五頭に上り、うち八頭は山に返したといいます。
長野県では信濃町で、八月十三日に川沿いで男性(61)が倒れているのが発見されました。犬と散歩中にクマに襲われ、三メートル下の川に転落して死亡したとみられています。
例年に比べ、なぜ今年はクマの出没や被害が多いのか。
昨年の負傷者五人が今年は九人と倍増した秋田県は、出没件数も約三百件と例年に比べて多く、クマがエサにしている山の木の実が不作だったのではないか、と県では推測しています。
富山県の自然保護課も、今年は夏の猛暑と台風と周期的な果実の不作が重なったのではとみています。
財団法人「自然環境研究センター」の黒崎敏文上席研究員はいいます。
「現場を見てないので推測ですが、クマが通常、夏に食べているハチやアリが気象の影響で少なかったところに、追い打ちをかけたのが台風では。ツキノワグマが越冬のため、ドングリを食べて太るのはこれからなので、十月、十一月もクマが出てきてもおかしくない。クマと人間が共生するためには、どこかですみ分けのために境界線を引く必要がある。クマにはできないので人間が引いてやる必要があります」 橋本伸記者
| 今年 | 昨年 | |
| 青森県 | 1 | 1 |
| 岩手県 | 10 | 10 |
| 秋田県 | 9 | 5 |
| 山形県 | 3 | 3 |
| 宮城県 | 3 | 1 |
| 富山県 | 13 | 3 |
| 福井県 | 9 | 1 |
| 新潟県 | 7 | 3 |
| 石川県 | 3 | 0 |
| 長野県 | 5 | 7 |
| 広島県 | 1 | 1 |
| 鳥取県 | 2 | 0 |
| 山口県 | 0 | 0 |
| 合計 | 66 | 35 |
注=長野の5人のうち1人は川へ転落し、死亡したと推定される
北海道のヒグマと違い、本州、四国にすむクマ。体長約一・五メートルと、ヒグマに比べて小さい。全身はほぼ真っ黒で、のどの下に三日月状の白斑(はくはん)があります。冬は木の下のうろや穴に入り、冬眠します。
雑食性ですが、ヒグマに比べ肉食の傾向は少なく、果実、木の芽、ハチ、昆虫、アリ、カニ、魚などを食べます。生息数は全国で一万頭前後と推定されています。