2004年9月29日(水)「しんぶん赤旗」
昨年5月、東京・品川区の戸越交差点で、青信号を渡っていた一人の幼女が左折してきたダンプカーにひかれて命を落としました。遺族は、同じような悲しい事故を起こさないためにと住民とともに運動し、歩車分離式信号の設置が決まりました。東京総局・松本眞志記者
亡くなった幼女は佐藤菜緒ちゃん、六歳。水泳教室から帰宅途中の出来事でした。
被害者の父親、佐藤清志さん(40)は「家族にとって時間が止まったように感じられました。菜緒は青信号で交差点を渡ろうとしただけです」と当時を振り返ります。
事故の理不尽さを問うために検察に訴えましたが、親身な対応ではありませんでした。「法的アドバイスはなく、被害者の心情を理解しているとは思えませんでした」と語ります。
困惑した佐藤さんの目にとびこんできたのは、日本共産党の中塚亮品川区議の法律相談のポスターでした。中塚区議は話を聞き、弁護士を紹介しました。
佐藤さんは、加害者を「ひき逃げ行為」の罪で告発。しかし、検察は遺族の要求を退け業務上過失致死罪の容疑で禁固五年を求刑。七月五日に東京地裁は実刑禁固二年六月の判決を下しました。
事故後、「一番悔しい思いをした菜緒のためにも事故の再発防止を」と考えていた佐藤さんに、菜緒ちゃんの通っていた幼稚園の父母らが声をかけました。
「青でも安心して渡れる分離式信号の設置をと、父母ら四人が中心となり、署名活動を始めました」と青木京子さん(39)は語ります。
中塚区議はこの住民運動を支援し、地域の教育懇談会の会合で佐藤さんを紹介しました。「署名の訴えに、事故をわがことのように受けとめてくれた人々のあたたかみを感じました」と佐藤さんはいいます。運動は区議会でも党派を超えて支持が広がり、署名は五千二百八十六人分集まり、五月に高橋久二品川区長に提出しました。
日本共産党の秋田かくお都議も、ふじた美佳都議候補とともに事故の調査をすすめ、三月の都議会警察・消防委員会で分離式信号の設置促進を求めました。
警視庁は「二〇〇八年三月末までの四年間で二百カ所程度の交差点に、歩車分離式を整備してゆく計画」と答弁。今月半ば、今年度中に戸越交差点を含む都内六カ所に歩車分離式信号を設置する方針を決めました。
佐藤さんは分離式信号設置について「非常に喜ばしい」といいます。「本来ドライバーがマナーを守っていれば事故は防げます」
全国交通事故遺族の会に入会し、交通事故被害者に不利な状況を改めようと活動をすすめている佐藤さんはいいます。
「被害者の心情がくみとられない裁判制度のもとで多くの遺族が悩んでいます。遺族の立場にたった制度にするために私たちの活動を広げたい」
歩行者の横断中に右折・左折してくる車両に接触して起きる事故を防ぐため、歩行者と車両が交錯しないよう分離する信号です。歩行者側の信号がすべて青、車両側はすべて赤になって斜めにも横断できる「スクランブル式」などがあります。