2004年9月25日(土)「しんぶん赤旗」
人身売買被害者の最大の受け入れ国の一つ―日本。防ぐための対策が不十分として国際社会から批判をあびてきました。法務省は人身売買罪を新設するなどしたうえで、来年にも国連の「人身売買防止議定書」に批准しようとしています。問題は解決するのでしょうか。
竹本恵子記者
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日本では、アジア、中南米などから受け入れる人身売買の多くは強制売春が目的で、暴力団の資金源となっています。
国内の被害者は数万人といわれます。
女性や児童の人身売買の検挙件数は統計を取り始めた昨年までの四年間に八十一件、ブローカーや風俗店経営者など検挙者百六十四人、被害女性三百七人。
氷山の一角です。
これまで人身売買の加害者には、入国管理法や職業安定法、売春防止法などが適用されてきましたが、刑罰は軽く、人身売買そのものを処罰する法律はありませんでした。そのため、国連から法整備を勧告されていたほか、六月には米国務省からも「監視対象国」にあげられました。
こうしたなか、九月八日、法相は、人身売買罪の創設を柱とする刑法などの改正を法制審議会に諮問しました。
昨年設立したNGO「人身売買禁止ネットワーク」共同代表の吉田容子弁護士は、「実態のあるものにするには、加害者処罰とともに、被害者支援・救済・人権の保障が不可欠です。被害者が保護され証言が得られなければ、加害者を訴えることも難しい」と話します。
これまでは、本来保護されるはずの被害者が不法滞在・不法就労者として、処罰されてきました。命からがらブローカーから逃げても、警察では不法就労者として逮捕され、本国に強制送還された例も少なくありません。
関係省庁では、被害女性が不法滞在者であった場合、すぐに強制送還せず、保護や心身の安定を図れるようにするなど、対応を改める方針です。
しかし、吉田さんは「政府は被害者に交番にきてほしいというが、身分が不法な状態であれば、安心してかけこめないのが現実です。被害者には刑の免除規定を設けるほか、合法的な在留資格を発給して、生活保護や医療保護が受けられるようにするなどの救済法が必要です」。
「彼女たちがくる背景には経済格差があり、日本社会が人身売買の加害者になっていることを考えてほしい」。吉田さんは、問いを投げかけます。
被害女性を保護する婦人相談所は、家庭内暴力などDV被害者の対応で手いっぱい。民間で保護しているのは全国に二カ所しかありません。
東京の「HELP」はその一つ。国籍、在留資格の有無を問わない緊急避難所です。
ディレクターの大津恵子さんによれば―。保護される人身売買被害者は、売春とわかっている人もいれば、工場で働くといわれてくる人もいます。渡航費用と称して数百万円もの借金をおわされ、パスポートをとりあげられる。また、国際犯罪組織であるため、「逃げたら本国の家族を殺す」と脅されるなど逃げ出せない状況です。
あるタイ人女性は子ども二人を育てる生活費のために、日本で一年間働きました。やっと自由になれると思ったとたん、地方に転売されました。客のところに宅配のように行かされる売春。何カ月働いても一銭ももらえずに逃げ出し、HELPにきました。
大津さんは「被害者は、加害者を訴えたい、賠償請求したいと考えます。しかし、生活費や医療費も保障されず、シェルターを出たあとの安全が確保されなければめどがたたない。彼女たちをケアし、自立を援助していくために、公的な支援が必要です」と訴えます。