日本共産党

2004年9月20日(月)「しんぶん赤旗」

9・11から3年 世界は 番外編

ゆきづまる米の対テロ戦争

浮上する平和な世界秩序への流れ


 9・11同時テロ以来の三年間、世界はどうなったのか―。

「より安全」か

 「対テロ戦争」の言葉を繰り返すブッシュ米大統領はこういいます。「米国を守るたたかいのおかげでフセインやタリバンの凶悪な政権が過去のものとなり、五千万人の人が解放された」「より安全な世界を」(米共和党大会で)。そして同時テロ三周年の十一日には、ホワイトハウスから「われわれは敵を打ち負かす」「対テロ戦争」をつづけると演説したのでした。

 果たして、イラク国民は「解放」され、世界は「より安全」になったでしょうか。

 たしかに、イラクの独裁者サダム・フセインの政権は倒れました。しかし、イラク国民はいま、引き続く戦争状態に置かれたままです。

 イラクの現状について、最近の米国の週刊誌はこう伝えています。「われわれが考える以上に状況は悪い」(『ニューズウィーク』)、「(戦争勝利の)任務はまだ達成されていない」(『タイム』)。イラクでは今、毎日数十人の市民が殺され、米兵も死亡しています。市民の犠牲者の中では、子どもや女性が多数を占めています。戦争をつづける米軍の指揮官は市民殺りくの事実を認めてはばかりません。「その通り。われわれは市民を殺している」(米軍指揮官、キアレリ少将、『タイム』二十日号)。

市民を殺す

 昨年三月から四月の「戦争」でも大勢の市民が殺されましたが、基本的には旧イラク政権軍との「戦争」でした。しかし、いま米軍は市民を殺す「戦争」をおこなっているのです。これは「解放」ではありえません。

 アフガニスタン、イラク、二つの戦争での死者の数は、いまでは、9・11テロでの事件の犠牲者約三千人の数倍になろうとしています。米兵の死者はすでに千人を超え、負傷者は七千人以上となっています。

 そして、いま世界のいたるところに、国際テロの危険性が存在しています。九〇年代、国際テロの件数はせいぜい一ケタ台でしたが、二〇〇一年以後、この種のテロは急増しています。世界は「より平和」でなくなりつつあります。

 それこそが、ブッシュ政権の「対テロ戦争」の結果にほかなりません。

大量破壊兵器

 イラク侵略戦争開始の口実にされた、イラクにおける大量破壊兵器の存在、国際テロリスト勢力とのつながりという二つの口実のウソは今や国際的にも米国内でも明らかになっています。国連憲章の守り手である国連事務総長アナン氏その人が、「(イラク戦争は)違法だ」(十五日)とのべたのは、そうした状況のもとででした。

 昨年十一月、ある米国の新聞は「イラクの向こうにベトナムが見える」と題した論評を掲載しました。イラク戦争とベトナム戦争はさまざまに比べられていますが、最大の共通点は、大義のない侵略戦争だということにあります。その結果は、戦場の兵士の間でも「何のためにたたかうのか、何のために死ぬのか」という疑問を急速に膨れ上がらせています。その状況こそ、二つの戦争に共通した事実ともいえるでしょう。

 この三年間のブッシュ政権の「対テロ戦争」は、テロを解決せず、逆に拡大しています。同時に、国際法や国連憲章をじゅうりんする「違法」な戦争は、今日の国際社会の秩序そのものをも脅かしています。そして、その戦争のもとで、おこなわれている数々の無法行為が、その違法性をさらに拡大しています。

 国際法上の手続きを一切無視して多数の外国人をグアンタナモ米軍基地の監獄に閉じ込めつづけている事実。乱暴にとらえ、勾留したイラク市民にたいする拷問、陵辱、殺りくという犯罪をおこないながら、これを個人の罪にしてことをすまそうとしている事実などなど。

 国際法や国連憲章、そして米国憲法にも盛り込まれている自由と民主主義、さらには人間の尊厳を守るという人間社会の原理そのものを踏みにじる、そうした野蛮な行動が、新たな野蛮なテロの原因となり、口実になっていることをもブッシュ大統領は知るべきです。

歴史の底流は

 しかし、この三年間のもう一つの重要な事実は、まさにこの米国の「対テロ戦争」の中から、軍事力ではなく対話と政治的な取り組みを通じてテロを克服するという新たな動きがたくましく浮上してきていることです。そして、米国一人が世界の指導者で世界を仕切るという単独行動主義、覇権主義の間違いを乗り越え、国際的な協調によって新たな世界秩序を築こうという流れが浮かびあがってきていることです。

 複雑な過程をへながらも、その流れは欧州で新たに浮上し、アジアで模索されながら、歴史の底流へと成長しつつあります。その底流は、いま国連の場へと回帰しようとしています。アナン事務総長の「違反」発言は、その歴史の流れの確かさを映し出したものではないでしょうか。

 三浦一夫記者

図

9・11テロを上回るアフガン・イラク戦争の犠牲者

 米同時多発テロでの犠牲者(2001年9月11日) 約3000人


 アフガニスタン

 米軍の空爆による犠牲者数

 最小  4401人  最大   4888人

 (米ニューハンプシャー大学のマーク・ヘロルド教授調べほか)


 イラク戦争

 イラク人死者

 <イラク民間人の死者>

 最小  12778人  最大   14820人

 (9月19日現在 米英のNGO「イラク・ボディー・カウント」調べ)

 <イラク軍兵士>

 最大   4895人  最大   6370人

 「連合軍」

 <米軍兵士> 1032人

 *負傷者は7000人以上(ワシントン・ポスト紙報道)

 <英軍兵士> 66人

 <その他の「連合」軍兵士> 69人

 (9月18日現在 米国防総省、英国防省などの発表)



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