2004年9月8日(水)「しんぶん赤旗」
【モスクワ=田川実】子どもら三百三十人以上の犠牲を出し終結した南ロシアの北オセチア共和国ベスランでの学校占拠事件を受け、治安、統治システムの強化を打ち出したプーチン大統領。事件を国際テロによるロシアへの「戦争」ととらえ、結束した対処を国民に呼びかけました。独立派武装勢力の活動が続く南部チェチェン共和国の問題を含め、さまざまな議論や意見が出ています。
民間ラジオ局「モスクワのこだま」は大統領演説の翌五日、「戦時法の下で生活する覚悟はあるか」との電話投票を実施。四千余りの回答のうち、覚悟あり48%、なしが52%。事件の衝撃からか、大統領の方針への支持につながる意見が少なくありません。
有力紙イズベスチヤ六日付にも賛否両論の投書が載りました。
モスクワの自称哲学者の男性は「戦争の戦略でなく和平の戦術を」と主張。「今後の可能性として恐ろしいのは、(ロシア南部)カフカス地方の人々への弾圧と暴力のエスカレートだ。イスラエルのようにテロが日常の世界に住みたくはない」と書きました。
男性は、ベトナム戦争で侵略した側の米国が和平会談をした例を挙げながら、武装勢力側との交渉も一案としています。
別のモスクワの女性も「これ以上血を流さないため」と、チェチェン政策の変更と、武装勢力側との何らかの合意形成を訴えました。
これには、「殺人が職業となり、戦闘に利益をみる集団との和平はまったく疑問」と反対する意見も別の女性から寄せられています。
政界では野党、ロシア共産党のメリニコフ第一副議長がプーチン演説を痛烈に批判しました。
外国からロシアのテロ犯罪者への支援があることは明白としながらも、「事件の原因を自国内部ではなく国際テロに探しているうちは、国と市民の安全問題は解決しない」と強調。
旧ソ連のベラルーシやウクライナ、東欧諸国には、ロシアのようなテロ問題はないとも指摘しました。
「ロシアがチェチェンで犯した数々の誤り」やソ連崩壊後の経済破たんや貧困などが、諸事件の真の原因だと述べています。
一方、下院のスリスカ第一副議長は独立新聞六日付で、「マスコミがテロ活動を助長しないような措置が必要」「国の安全を望むなら一定の制限は甘受すべきだ」と主張。近く議会で審議すると述べました。
これには民族派左翼・祖国のロゴジン党首が「まったくのお笑い」だと反論。事件の結末に責任がある内相、国防相の即時退陣を求めました。
【ロンドン=西尾正哉】英国では政府、メディアとも多数の犠牲者を出した学校テロを厳しく批判するとともに、ロシア政府の対応にも批判の声が上がっています。
ストロー外相は六日、英BBC放送のラジオ番組のインタビューで「われわれは常にロシア政府と対テロで緊密に協力してきた。もし、援助と助言の必要な時があれば、もちろんいつでも提供する」と、対テロ作戦で協力を表明しました。
続けて外相は、武装勢力によるテロが問題となってきた北アイルランド紛争に言及。この紛争が英国とアイルランド政府によって平和裏に解決したとし、チェチェン問題も平和的解決の可能性があると指摘しました。
ブレア首相は六日、プーチン大統領に電話で会談。首相官邸の報道官は、首相が同情の意を伝えたことに大統領が謝意を表明したとだけ発表しました。
フィナンシャル・タイムズ六日付は「ベスランの教訓」と題した社説を掲載。プーチン大統領が今後の対策で「テロの回答として軍事力に非常に力点を置くのは誤りだ」「米国ですら、より多くの軍隊を中東に派遣することだけでは米国市民を守れない」とし、力で封じこめることは誤りだと指摘しました。
社説は「プーチン大統領は、チェチェンへの彼の強硬姿勢がチェチェンの若い分離独立主義者をテロリストに駆り立ててきたことを認識しなければならない」とプーチン大統領のこれまでの対応を批判。「クレムリン(ロシア政府)は独立主義者の指導者と接触し、暴力を非難できる信頼に足る交渉相手を探すべきだ」と指摘しました。
インディペンデント紙六日付社説も、プーチン大統領の打ち出した対策は武力に頼りすぎていると批判。「(チェチェン問題の)解決のための唯一の方策は政治的な解決だ」と強調しました。