2004年9月2日(木)「しんぶん赤旗」
「起訴状については納得がいかない点がある」。三菱ふそうトラック・バスの元会長・宇佐美隆被告(64)は一日、横浜簡裁で起訴事実を否認し、争う意思を表明しました。一方、検察側冒頭陳述は、同社最高首脳による、組織的な隠ぺい工作の舞台裏を生々しく明らかにしました。
![]() 大型トレーラーが頻繁に通過する横浜・瀬谷区のタイヤ脱落・母子死傷事故の現場 |
二〇〇二年一月十日の横浜市瀬谷区で起きたタイヤ脱落母子死傷事故の直後から社内工作が始まりました。
起訴された宇佐美、三菱自元常務花輪亮男(63)、同社元執行役員越川忠(61)の三被告らの、組織的な隠ぺい工作の舞台は、同年一月十七日に設置された「マルT対策本部」です。同年二月一日まで四回、開かれていました。
十七日は、本紙が過去の同種事故をスクープし、事故の「多発性」を暴いた日でもあります。
検察側は冒頭陳述で二月一日の午前、宇佐美被告の執務室で、国交省報告に備えた最終打ち合わせが行われたことを紹介。「被告人宇佐美から、技術的根拠はないのに、国交省に対しては『今回の基準により十分なハブの耐久寿命を確保できる。点検基準はある程度過酷な使用条件にも十分耐え得る安全係数を見込んだものである』との虚偽の報告をするとの最終指示が出された」と述べました。
冒頭陳述が「二月一日」に差し掛かった時です。終始下を向き目を閉じていた宇佐美被告が大きく首をひねりました。
同社製大型車の車輪と車軸をつなぐ部品「ハブ」が、フランジ部根元から「輪切り」状に切れる破損事故は五十七件あります。横浜市の事故以前に三十九件発生していました。
横浜の事故直後、同社は国交省から再発防止策についての検討を指示されました。検察側は「花輪被告の指示で、事故原因等については何ら調査することなく、死亡事故についても、従来の販売会社やユーザー向け説明どおり、整備不良による摩耗が原因である旨を主張することにした」と指摘しました。
また、同省からハブ破損事例のデータの提出を求められた際、具体的な摩耗量を記載すると原因が「強度不足にあると疑われる」ことから、「摩耗欄に『有』とのみ記載した」一覧表に作り変え提出していました。
宇佐美隆被告らが無罪を主張したことについて傍聴席からは驚きの声があがりました。
庄村敦子さんは「宇佐美被告が、死亡事故について謝罪した直後に無実を主張したので、オーと、なんてふてぶてしいのかと思った。遺族がいたら本当に驚いたでしょう」。
高橋耕さんは「三菱には、自動車をつくっているという志が感じられない。グループ内での自己防衛しか考えていないのだと思いました」と話しました。
二〇〇二年のタイヤ脱落事故は、改正前の道路運送車両法が適用され、個人・法人ともに二十万円以下の罰金でした。
罰金以下の刑は、簡易裁判所で裁かれます。
通常なら裁判官が書類で審理する略式起訴で済みますが、今回、横浜地検は「極めて悪質」として異例の公判請求に踏み切りました。
二〇〇〇年の三菱自動車のクレーム隠し事件を受け、同法は改正(〇三年施行)。罰則が強化され個人には一年以下の懲役か三百万円以下の罰金、法人には二億円以下の罰金となりました。