日本共産党

2004年8月26日(木)「しんぶん赤旗」

高知にみる郵政民営化 −上−

議会で反対相次ぐ


 政府の経済財政諮問会議(議長・小泉純一郎首相)は、九月をめどに郵政民営化「基本方針」の取りまとめを急いでいます。「身近な郵便局や郵貯はどうなるのか」という不安が広がる中、県内五十三市町村のうち十三議会で郵政民営化反対の意見書が採択されている高知県の動きを追いました。

 北條伸矢記者


村長も住民も“中止を”

物部村

地図

 県北東部に位置し、三嶺(さんれい、一八九三メートル)など四国有数の山々に囲まれた物部村(ものべそん)。実が固く、品質の良さに定評があるユズの産地で、市町村別生産量は日本一という村です。

写真

高知県物部村の宗石教道村長

 高知県町村会副会長も務める同村村長の宗石教道=むねいし・きょうどう=さん(70)が語ります。

 「郵政民営化には国土政策の観点が欠けている。経済の効率化ばかりでいいのか。明治時代から築いてきた郵便局網がなくなれば地域の共同体意識も崩壊してしまう」

 村議会も六月、「郵政分割民営化の中止を求める意見書」を採択しました。意見書は「(民営化の)この方向では、いままでのような事業運営ができず、もうからない地域からの撤退、つまり廃局が過疎辺地だけでなく市部でも懸念されます」と強調。郵便局がなくなれば「身近な財産管理・運用の場、行政サービスの場を失う」として、民営化の中止を強く求めています。この声は村民の総意でもあります。

坂道を1時間半

 一九五六年に槙山(まきやま)、上韮生(かみにろう)両村が合併して物部村が誕生しました。当時一万二千人だった人口は現在三千人余り。かつて小学校が十二、中学校が五つありましたが、今は各一校です。高齢化も深刻です。

 杉やヒノキに覆われた山あいを進むと、車の通り道と急坂の脇道で結ばれている家が目立ちます。行政の援助で乗用の昇降機(簡易モノレール)を設置している高齢者世帯も少なくありません。地元の人によると「もっと奥に行けば、坂道を歩いて片道一時間半かかる家もある」といいます。

 九四年に近隣八町村の農協が合併し、村の生活は激変しました。二支所、四事業所(出張所)が一支所(物部支所)に統合されました。送迎バスが運行されているとはいえ、貯金の窓口は一つだけになっています。他に銀行出張所が一つありますが、利便性は著しく低下しました。

 八月初め、物部村と近隣の土佐山田、香北両町が加わる法定合併協議会の解散が確実となりました。「農協の合併で生活が不便になった。村が捨てられるのではとの不安が町村合併反対の世論にも影響した」と指摘するのは、日本共産党の萩野昭彦村議(61)です。

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大栃郵便局

ええことはない

 村役場の支所もないため、村内の大栃、岡ノ内、安丸の三郵便局(いずれも集配局)が、村民の日常生活を支える最も身近な公的機関としての役割を担っています。大栃郵便局の小松孝局長(45)が話します。

 「新聞も郵送で届ける家が多い。お年寄りから貯金の引き出しを頼まれたり、『歯医者の電話番号を教えてくれ』と言われます。支障がない限り応じます。郵便局は頼りにされています」

 大栃地区に住む岡本千代子さん(76)は「なんで民営化するのか分からん。ええことは一つもない。大反対です。山の上にいて外出できない年寄りは配達の人が頼り。孫のように毎日待っている」と怒ります。

 昨年、隣接する香北町にある府内簡易郵便局の廃止計画が持ちあがった際、利用する住民が多い物部村も加わって地域ぐるみで陳情を繰り返し、今年春に存続が決まりました。郵便局を守ろうとする住民の意志の強さを示す出来事でした。宗石村長が続けます。

 「村の面積の95%が森林だ。われわれは森林を守ることで国土を守っている。人が住み続けないと自然は守れない。郵便局や郵貯が縮小されれば、ますます人が住めない地域になる。何でも民営化すればいいという発想でなく、安定したサービスを未来に残してほしい。国はきちんと責任を果たすべきだ」

 (つづく)


基本方針の骨子

経済財政諮問会議

 六日の経済財政諮問会議が了承した「民営化基本方針の骨子」の概要は次の通り。これに基づき、具体的な「基本方針」を九月にまとめます。

 ◆郵政公社の民営化にあたっては(1)経営の自由度の拡大(2)民間との競争条件の緩和(3)事業間のリスクの遮断―を重視する。

 ◆二〇〇七年四月に民営化し、移行期間をへて、一七年に最終的な民営化の姿を実現する。具体的な工程については、さらに検討する。

 ◆持ち株会社の下、窓口網、郵便事業、郵便貯金、郵便保険の四つの会社を独立させる。

 ◆郵貯、保険は新規契約分から国家保証を廃止し、民間金融機関と同等にする。

 ◆窓口網会社の地域分割の是非は検討する。

 ◆全国一律サービスの形態や義務づけについて検討する。

 ◆民営化と共に、職員は国家公務員の身分から離れる。



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