2004年8月25日(水)「しんぶん赤旗」
【アテネ五輪取材団】第二十八回夏季五輪・アテネ大会第十二日は二十四日、野球の準決勝が行われ、プロ選手で構成する日本は0―1でオーストラリアに敗れ、三位決定戦にまわりました。バレーボールの日本女子は準々決勝で中国にストレートで破れ、四強はなりませんでした。男子板飛び込みの準決勝では寺内健選手が五位で決勝に進みました。
二十三日は新種目のレスリング女子で日本は四階級すべてで表彰台に上がる快挙を成し遂げました。55キロ級の吉田沙保里選手は世界一といわれるタックルのスピードを存分に発揮して頂点に立ち、63キロ級の伊調馨選手とともに金メダルを獲得。伊調選手の姉で48キロ級の千春選手は銀メダル、72キロ級の浜口京子選手は銅メダルでした。
体操の種目別で日本は男子の平行棒で冨田洋之選手が9・775点で二位、鉄棒で米田功選手が9・787点で三位に入る健闘をみせました。女子はカタリナ・ポノル選手(ルーマニア)が平均台とゆかを制し、二冠を達成。団体総合と合わせると三つ目の金メダルとなりました。
金メダルを告げるブザーが鳴る。吉田は何度も右手を高くかかげ、「最高にうれしい。プレッシャーはあったが、自分自身とたたかって、自分に負けませんでした」と胸を張りました。
吉田のレスリングは、小気味よい。それは磨き抜かれた鋭いタックルがあるからです。
準決勝のゴミズ戦。一時は3―6とポイントをリードされます。しかし「あいつにはタックルがある。逆転できる」。娘にレスリングを手ほどきした父・栄勝さんは心配しなかったといいます。
自宅にあるレスリング道場。吉田のタックルをはぐくんだ場所です。
栄勝さんは全日本選手権の優勝者。しかし、自身の反省からある結論を導きました。「自分のような守りの選手はだめ。タックルで攻撃的なレスリングをしなければ」
3歳ごろからレスリングを始めた吉田は父からタックルを仕込まれました。1日2時間の練習のほとんどをそれにあてたといいます。
リング一面がやっととれる程度の広さ。鋭いタックルでなければ、相手が壁にぶつかり勝負が中断してしまいます。「狭いところでもいかに前に出るか。それでタックルが磨かれた」と吉田。
中京女子大の栄和人監督の下で、タックルはさらに進歩しました。入り方の変化、フェイント、両足だけでなく片足を狙うタックルなど、少しずつ「引き出し」が増えていきました。
「突然視界から消える」「分かっていても防げない」といわれる、タックルの完成です。
「練習した分だけ強くなれる。それは本当だと思う」。21歳の攻撃レスリングが、五輪を見事に制しました。和泉民郎記者