2004年8月22日(日)「しんぶん赤旗」
ヨーロッパで一番標高の高い動物園として有名なオーストリア・インスブルックのアルプス動物園には、百五十種二千匹の動物がいます。アルプスを中心に欧州に生息する動物たちが集められ、身近な自然の大切さを伝えています。
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アルプス動物園に入ると、その傾斜にまずびっくりします。傾斜一六度、標高六五〇メートルから八〇〇メートルの緑の山の中腹にある動物園で、動物園を回るのはちょっとした山登り。アルプスに住む大きな角をもつアイベックス(岩山に住むヤギの一種)やアルプスカモシカにはちょうどよいすみかがつくられています。
人気が高いのは、ひょうきんなヒグマや、中欧では見られなくなったオオカミです。ヒグマの囲いの前では子どもたちが声をあげていました。ビーバーやカワウソ、フクロウ、ヘビといった動物たちも見られます。動物のすむ囲いはなるべく自然に近いかたちでつくられているのが特徴です。生息地域のほか、絶滅が危ぐされる種についての説明が表示されています。
シュツットガルトから車で四時間かけてやって来たというウリ・エッテルさん(35)は「家族五人で来ましたが、身近なアルプスの情報や今どんな動物が絶滅のおそれがあるのかがよくわかります。この動物園を見ると、だんだん少なくなっている自然を子どもたちに残したい、という気持ちになる」と話しました。
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アルプス動物園がつくられたのは一九六二年。アルプスの身近な動物を育てていたハンス・プセンナー氏が動物を寄付して公共の動物園をつくりたいとインスブルック市に申し出て、できたのでした。動物園職員のディルク・ウルリヒさんは「この動物園の基本的な考え方は、私たちの周りに住む動物が、どんなところでどのようにして暮らしているか、その生態を伝えることにあります。ヨーロッパに住む動物以外はいません」と語りました。
絶滅のおそれがある種を守る取り組みもおこなわれています。ヒゲハゲワシはヨーロッパアルプスでは一九一二年に一度、絶滅してしまいましたが、アルプス動物園がヒマラヤにすむ同種を育成。数を増やしてヨーロッパアルプスにもどす試みが成功し、今ではヒゲハゲワシは欧州の自然の中で子育てをし、生息数も増えています。現在はフランクフルト動物園などと共同でオオヤマネコの育成と自然に返す事業に取り組んでいます。
ほかにも、インスブルック大学の動物学研究室と提携して動物の生態研究を実施したり、アルプスでけがをした動物たちを引き取って治療し、また自然に返す取り組みもおこなっています。夜に動きまわる動物たちを見るための夜間のガイド付きツアーもあります。雪が積もる冬にも開園し、楽しませます。
(インスブルックで片岡正明 写真も)