2004年8月17日(火)「しんぶん赤旗」
原水爆禁止二〇〇四年世界大会で国際会議を含めた全日程に参加し、日本をはじめ世界の反核・平和運動家と交流を深めた政府代表の姿は、国内外の参加者を大いに励ましました。マレーシアのハニフ大使は、同国が議長国を務める非同盟諸国会議(百十五カ国で構成)の核兵器廃絶の立場の取りまとめ役を務め、新アジェンダ連合に参加するメキシコのデアルバ軍縮大使は、九月開幕の国連総会第一委員会(軍縮委員会)の議長に予定されています。国連交渉の第一線で核兵器廃絶に熱心に取り組んできた二人に、初来日し世界大会に参加した思いや来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議へ向けた意気込みを聞きました。(聞き手=鎌塚由美記者)
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今回参加したのは、非政府組織(NGO)、特に日本のNGOから話を聞くためです。原爆の被害者である日本の人々が核兵器廃絶についてどう考えているかを聞くために来ました。この経験は、わたしが国際会議の場で活動するうえで役に立つと思います。
広島訪問は今回が初めてです。原爆資料館にも足を運び、人々の苦しみを目の当たりにして心が痛みました。被爆者たちの話を聞き、心を動かされました。彼らの苦しみを理解するのは簡単ではありませんが、それを感じとることができました。
日本のNGOの議論には、核兵器の問題に加え、日本国憲法改定の問題が出ていました。憲法問題は世界大会に来てわたしが新しく学んだことです。世界大会で議論されていることと、国会で憲法改定が議論されていることは結びついています。核戦争についてのわれわれの議論とも結びついているのではないでしょうか。
われわれができるのは、力を合わせることです。一つの国だけでは、どうにもなりません。すべての国が一緒になり核保有国を孤立させることができれば、好機をつかめます。人々こそが政府に働きかけることができます。
なぜマレーシア政府が、核兵器削減でなく完全廃絶を目指すのか。将来にわたり核戦争を起こさない唯一の保証が核兵器廃絶だからです。核軍縮だけを議論し、自衛のための核保有を認めるのなら、脅威は残ったままです。
マレーシアは、外国列強によって長年、植民地支配を受けた国です。一五一一年にポルトガルに征服されました。その後オランダが来ました。そして英国、一九四一年から四五年までは日本です。第二次世界大戦後に英国が戻り、五七年の独立までいました。
数百年にわたり植民地化され、苦しんだ苦しみを、二度と味わいたくない。平和であってこそ発展が可能です。われわれは平和的環境をつくり出すなかで発展を続けてきました。
現在の状況は危険です。単独行動主義が存在するからです。あの戦争(イラク戦争)は安保理の承認もなしに行われました。今日はイラク。明日は、どこの国でしょうか。マレーシアかもしれません。誰が次の標的になるか分からない、テロリズムとのたたかいの名で国連を軽視する単独行動主義を許してはなりません。
兵器が存在する限り、兵器が使われる脅威があります。「すべて廃絶してしまえ、そうすれば脅威はなくなる」という大変単純な問題です。核廃絶をすれば、拡散の問題も解決できます。核兵器がなくなれば、核保有国が新たな技術で核兵器を開発する問題もなくなります。
来年の核不拡散条約(NPT)再検討会議までにできることは何か。同会議の議長はブラジル大使です。(今年の再検討会議の)第三回準備会合では暫定的議題が採択されませんでしたが、彼は出された提案を各国と協議するように要請されています。ですからブラジルは、会合の合間に協議を行うことになるでしょう。
第二に、マレーシアは非同盟運動の議長国です。十七日から(南アフリカの)ダーバンで始まる外相会議で、非同盟諸国の立場を調整します。そこでは外相レベルで意見交換する機会があります。国連総会開会中にも機会があります。
われわれは、核保有国に対しては、二〇〇〇年再検討会議での(核廃絶の)約束を尊重するよう求めます。これは、われわれが許容する最低レベルです。それ以下になってはなりません。二〇〇〇年の誓約を変更しようとするような、どんな動きにもノーと言います。
(二〇〇〇年の約束を尊重しないようなら)NPTは実際的価値をもたなくなるでしょう。NPTは非核保有国にとってだけでなく、核保有国にとっても大切です。NPTを存続させる必要があります。合意したことを土台にして、前へ進まなくてはなりません。
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私たちは、広島、長崎への原爆投下を忘れてはなりません。広島、長崎は、わたしたちのたたかいと努力のシンボルであり、核兵器がいかに非人道的な兵器であるかを教え続けてくれています。
原水爆禁止世界大会への招待は、わたしにとって大変うれしいことでした。来年五月の核不拡散条約(NPT)再検討会議までの数カ月間、核保有国に核廃絶の「約束」を実行せよと圧力をかける、そのための勢いを生み出すことのできた大会でした。
世界大会からたくさんのエネルギーをもらいました。日本の各界各層のこれだけ多くの人々が、核兵器廃絶へ向けた行動の欠如に怒り、今すぐの核廃絶を求めていることが分かりました。国連での交渉に携わっていると、決して実現できないのではないかと思うこともありますが、世界大会に参加し、これならできる、という自信が生まれました。
今回の会議の豊かな成果は、非政府組織(NGO)と外交官、政府の同盟強化を確認しあったことではないでしょうか。世界各国からの参加者は、多様な背景、活動分野を持った人々でした。
NPT再検討会議に向けて、第四回準備会合を開くように国連総会に提案する可能性は検討中ですが、私はこのアイデアにはあまり賛成していません。議題さえ合意できなかった前回の準備会合(今年四―五月)と同じ結果になるだけだからです。
むしろ私が議長になる軍縮委員会にまずは集中する方が重要でしょう。(同委員会は)NPT問題を扱うわけではありませんが、すべての加盟国が参加し、軍縮全般を議論する重要な機会です。ここで活発な討議を促したい。多くの国の意思なくして劇的な変化は望めませんが、少しでも変化をつくり出したい。まずは、具体的行動を伴わない言いっ放しの演説の数を減らし、実のある議論をすることです。
来年のNPT再検討会議の議長は、新アジェンダ連合に参加しているブラジルの大使です。合意形成の過程でわれわれは協調していけると思います。
核軍縮と核不拡散は同時に追求されるべきです。一部の国は、テロリストや「ならず者国家」だけに関心を向け、核不拡散を声高に叫びたいようですが、国際社会全体で核拡散を阻止するとともに、核軍縮を同時に行わなければなりません。
核兵器をめぐる状況は明るくありませんが、平和運動は勢いを増しています。イラク戦争反対、大量破壊兵器使用反対などで、運動をさらに盛り上げていかなくてはなりません。NPTだけを目標にするのではなく、平和の文化を発展させる運動を広げるべきです。
メキシコは長年、核兵器廃絶に活発に取り組んできました。何人もの軍縮大使が、活発な外交活動を行ってきました。その後を継ぐことができ光栄です。
核廃絶の取り組みは、骨の折れる仕事です。現状への厳しい批判と楽観主義が求められます。核保有国が行った二〇〇〇年の合意を前進させられるかどうか。悲観的にならず、わたし自身の問題として、またメキシコ政府として課題を前進させる道筋をみつけたいと思います。そのためにも、非核保有国同士の関係を強化しなくてはなりません。
メキシコはNPT再検討会議を前に非核地帯条約に加入している諸国の首脳会議を開き、核保有国に核廃絶を迫る政治的メッセージと圧力を強めたいと思います。
今日、核兵器を持つことは特権となっていますが、核保有は誇ることではなく恥ずべきことです。核兵器保有・開発は恥だということを核保有国に理解させ、圧力をかける必要があります。