2004年8月2日(月)「しんぶん赤旗」
新潟・福井の集中豪雨災害は、農業分野に深刻な打撃を与えました。自然に左右される農作物は、災害への対策として国の助成金も入った農業共済制度があります。しかし農機具が泥水に漬かり故障が続出するなど、既存制度の範囲を超えた被害状況です。新潟県の農民は実態を調べ、「補償対策を求めていこう」と声をあげています。中沢睦夫記者
新潟県三条市にあるJAにいがた南蒲(なんかん)農協の三条農機センター。トラクターやコンバインが二十台ほど置かれていました。
農民連(農民運動全国連合会)にいがた県央センターの鶴巻純一事務局長は、トラクターについた一・五メートルあたりの泥水につかった跡を指差し、「コンピューター基盤が完全にだめになっている」といいます。
同センター修理担当の内山照敏さんは「分解して洗い、オイル交換もするので一日四台の修理がやっと」とため息をつきます。費用は大型トラクターやコンバインが約三十万円。農家に据え付けられている乾燥機は二十万円から五十万円はかかるといい、「古い機種は簡単だが、最近のはコンピューター部品が必ずある。全部交換しなければならない」と語ります。
鶴巻さんは、修理の作業員を激励し、「購入せざるを得ない人には無利子融資、中古農機を無料で貸してもらう手配が必要だ」と話しました。
三条市の稲作農家はトラクター、田植え機、コンバイン、乾燥機と農機具一式を備えています。
二十ヘクタールの水田を耕作する金子良助さん(59)=同市農業委員=は、泥水が押し寄せたとき、クレーンで農機具をつり上げ被害を食い止めました。しかし乾燥機のコンピューター制御盤やモーターが故障しました。息子と一緒に修理したものの五十万円かかりました。「うちはまだ高台に家があるが、親類の集落は二メートルもの泥水が押し寄せた。車も農機具も全部だめになった」といいます。
農業委員仲間でもある鶴巻さんは、「農業委員会で被害の実態を調べ、対策を明らかにさせよう。黙っていてはだめだ」と話しました。
十ヘクタールの水田を持つ広川広雄さん(56)も、高台の自宅とは別の作業所に収納していた農機具に被害がでました。「五台修理にだしたが、あとコンバイン、田植え機など二十台以上ある。修理代だけで数百万円かかるんじゃないか」と心配します。
農業共済は水稲のほぼ全農家が加入していますが、農機具の加入農家はいないといいます。「水稲に比べて掛け金が高いうえ、今回のような水害被害を農家は想定していないから」(中越農業共済組合・吉田睦生所長)という事情があります。
広川さんの被害は稲と水田に深刻です。水稲は水田によって五日間は泥水状態でした。中心銘柄のコシヒカリは穂が出る前だったため、今後病気がなければ改善も期待できます。被害がはっきり出ているのは、わせ品種です。広川さんは「穂が出ていたところに泥の粒が入り、稲が腐ってしまった。水稲共済金の支払いのための収量査定を早くしても良いのではないか」と訴えました。水田三十アールは土砂に埋まり、稲は収穫は見込めず、土砂の排除や水路整備が来年三月までに必要です。
「激甚災害に指定されれば負担が少ない。あんたが埋めたわけでないんだから対策を訴えよう」農民連会員で、大豆畑や野菜の被害を受けた五十嵐昇さん(54)は、鶴巻さんとともに行政への交渉に意欲を示しました。
新潟県農民連は、被害実態を調査し、「既存の救済制度では対応できない緊急対策の実施を求める」(和田忠敏事務局長)といいます。
農業共済制度 農家の「掛け金」をもとに災害や事故を受けた農家に「共済金」を支払い、被害軽減をする仕組みです。水稲・麦の共済は掛け金の国庫負担があります。全員加入が原則。共済金の多くは地域の七割まで補償、最高で九割補償です。農機具は損害総合共済に加入しなければ対象になりません。