2004年7月31日(土)「しんぶん赤旗」
小泉内閣にとっては4度目の予算編成となる05年度予算。概算要求基準を決めた30日の閣議で小泉首相は、「引き続き歳出改革路線を堅持・強化していくことが何よりも大事だ」とハッパをかけました。“堅持・強化”される「改革」路線のもとで、国民にもたらされるものは何か。概算要求基準を見てみます。 山田英明記者
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高齢者が増えれば社会保障関係費は増えていきます。
来年度の「自然増」は一兆八百億円。概算要求基準はこれを二千二百億円圧縮し、伸びを八千六百億円に抑制することを盛り込みました。
具体的にどこを抑制するか。
財務相の諮問会議である財政制度審議会(財政審)がまとめた来年度予算編成に関する意見書(五月建議)では、介護保険制度の自己負担割合や給付範囲を見直し、生活保護の生活扶助基準や母子加算などを見直すことなどを打ち出しています。
現行の制度ですら、「利用料が高くてサービスを切り詰めざるをえない」などの声が聞こえる介護保険。財政審の意見書は、現在一割の利用者負担を「二から三割への引き上げによりコスト意識を喚起すべきだ」と主張しています。
![]() 在宅介護を受ける高齢者=東京都内 |
「これまで以上に明確なメリハリをつける」―二十七日の経済財政諮問会議で決定された「予算の全体像」はこう強調しました。概算要求基準では、この方針にそって、既存制度の改廃による費用の削減努力を、別事業での要求額に上乗せできる仕組みを盛り込んでいます。
財政審の意見書を見ると、メリハリの中身が浮かび上がります。
例えば公共事業では、上下水道、地方道などを抑制し、三大都市圏環状道路、大都市圏拠点空港などに「重点的に取り組む」とのべ、地方財政については、「地方交付税の総額を抑制すべき」だ、「(社会保障関係の補助金の改革は)不可欠の課題である」と主張しています。
概算要求基準で盛り込まれた新たな仕組みとは、「歳出削減」を理由に、介護や生活保護など、暮らしのための予算や地方への補助金などを切り詰め、新たな大型公共事業など大企業やゼネコンに恩恵をもたらす事業に予算を重点化させていく仕掛けにほかなりません。
しかも、「歳出の抑制」を図るために、社会保障の自然増分を大幅にカットしながら、同じ「義務的経費」に含まれる軍事費は前年並みに温存されています。この中には、約五兆円の軍事費の大半(人件費、正面装備などの後年度負担の歳出化経費、在日米軍への「思いやり予算」など)が入っています。
「公共投資関係費」も今年度当初予算と比べ、3%の削減にすぎませんでした。経済財政諮問会議が二十七日にとりまとめた「〇五年度予算の全体像」では、「補助事業の削減やコストの削減等、重点化・効率化に努力」すると強調しています。3%の削減分は、生活道路など地方で行われてきた生活密着型の公共事業の削減とコストカット(経費削減)によるものです。
概算要求基準決定直前の二十九日、細田博之官房長官は「総合的に医療も介護も年金も含めて計算し直して、どうしても勘定があわないとか、介護のあり方とか医療のあり方とか、そういった面でも合理化をした上で、どうしてもこれだけ(の消費税率の引き上げ)は必要だということは、議論としてはあり得る」と述べました。
官房長官の発言は、「基準」に盛り込まれた歳出抑制路線の先には、消費税増税があるということを浮き彫りにしています。
「基準」が踏まえた「予算の全体像」は、「景気が回復しつつある今こそ、財政の構造改革を進める必要がある」と強調しました。
たしかに、トヨタ自動車が一兆円を超える利益をあげるなど、大企業は「景気回復」といえる状況をおう歌しています。
しかしその一方、依然として厳しい雇用情勢のもとで、庶民は貯蓄を取り崩して消費を維持し、経済苦による自殺者も過去最高となっています。
本当の財政改革をめざすなら、庶民に負担を押し付けるのではなく、浪費型の公共事業や海外派兵型に重点を移す軍事費に思い切ったメスを入れたうえで、「景気回復」をおう歌する大企業にもうけに見合った応分の負担を求めることこそ必要です。