2004年7月30日(金)「しんぶん赤旗」
国松孝次警察庁長官(当時)銃撃事件に関与したとして警視庁公安部に逮捕されたオウム真理教(現アーレフ)元幹部ら四人が処分保留で釈放された(二十八日)ことで、公安警察主導の見込み捜査があらためて強い批判を受けています。公安警察の情報をうのみにしたマスコミ報道にも関係者から厳しい指摘がでています。
![]() オウム真理教元幹部らが処分保留で釈放されたことを受け、記者会見する国松孝次元警察庁長官=28日午後、警察庁 |
オウム問題にくわしい宗教学者の浅見定雄東北学院大名誉教授は、「公安は、銃撃事件はオウムがやったらしいという印象を国民に残すというねらいがあったのではないか。失敗しても、『公安はよくやったが否認されて及ばなかった』で終わらせたかったのでは」と語ります。
本紙は十九日付で「公安捜査に疑問の声 実行役 いまだ特定せず」と捜査を批判しました。こうした批判は、逮捕当初から出ていました。
(1)肝心の銃撃実行役が特定されず(2)これまで内容がくるくる変わってきたオウム元信者である元警視庁巡査長の供述を最大の根拠にした―という致命的な問題があったからです。元巡査長のコートから銃弾と矛盾しない金属成分が検出された、ということだけで、犯人を特定するには無理があります。
元巡査長は逮捕後になって、「自分が撃ったかもしれない」「コートを誰に貸したか覚えていない」などと供述を変え、捜査の“支え”は根底から崩れました。もともと、元巡査長は一九九六年に「自分が撃った」などと供述しましたが、その後供述を変え、東京地検が「信ぴょう性に欠ける」と立件を見送っていました。逮捕されたオウム元幹部ら三人も容疑を否認しました。
とくに、オウム元信者の端本悟被告については、マスコミで「銃撃実行犯」という報道が大々的におこなわれました。
しかし、同被告は関与を完全に否定しました。すでに坂本弁護士一家殺害事件などで死刑判決を受け、事件解明にも協力してきており、同被告と接見している前出の浅見氏は「もし関与していれば隠す必要がない」と主張しています。
浅見氏は、「今回の公安部の捜査がまったく信用できないということを国民に理解してほしい。『オウムが不当に迫害されている』という、いい弁明の材料にもなってしまう。これはオウムにとって大変なポイントになる」と指摘します。
オウム真理教家族の会の永岡弘行会長も、端本被告を実行役などとした報道に驚いた一人です。「マスコミは何を根拠に書けたのか。検証して書くべきだ。いまも非を認めずに平気でいられるのは信じられない」といいます。
「『実行』端本、『指揮』早川被告か」「早川被告、現場指揮か 実行役、端本被告?」などという記事が一般マスコミに登場しました。
供述の信ぴょう性など捜査の問題点はほとんど報道されませんでした。
毎日新聞(二十九日付)は今回の事件報道について「当局情報によりかかり過ぎているとの指摘もあります。それを真摯(しんし)に受け止め、今回の取材過程や判断を改めて検証する」とのべています。
浅見氏は「ジャーナリズムは警察情報の垂れ流しでなく、検証する責任があるはずだ」と警告しています。