2004年7月26日(月)「しんぶん赤旗」
「二大政党」の流れの中、有権者はどのような思いで投票所に足を運び、どのような選択をしたのか――。参院選結果の背景をつかもうと、本紙は東京都内三カ所で市民百人にインタビューしました。(政治部取材班)
インタビューは、(1)参院選で自民党が負けて民主党が伸びたことをどう思うか(2)その理由(3)消費税増税をどう思うか(4)憲法九条は維持すべきか変えるべきか(5)日本共産党をどう思うか―の五項目。
民主党や同党候補に投票した有権者は四十人。共通していたのは、小泉自公政治への強烈な拒否感でした。
「今の自民党は私たちの身になってということがない。小泉首相も誠実さがみられない」と五十六歳の主婦。今回初めて民主党に投票した六十二歳の自営業の男性は景気の悪さを嘆き、「自民党はわれわれ小さいところのことを考えていない。民主党がいいとは思えない。ただ入れるのは一時的。景気がよかったら自民党に入れた」と話しました。
「二大政党」の流れの中で、「自民党政治をこらしめたい」「政治を変えたい」という思いが民主党への投票に結びついた形です。同時にこうした行動が、消費税増税や憲法九条改定など民主党の政策を丸ごと支持した結果でないことも、インタビューで裏付けられました。
日本共産党については「初めて入れた」「一番まともなことをいっている」という人も。一方で「いっていることはいいが、小さい」(五十二歳主婦)などの声も聞かれ、「二大政党」のキャンペーンの強い影響をうかがわせました。
参院選の投開票(十一日)から二週間。有権者はこの選挙でどのように動いたのか、また結果をどう受けとめているのか。市民百人インタビューからみえてきたものは――。(政治部取材班)
インタビューで共通して語られたのが、自民党に対する激しい批判、怒りでした。
自民党に投票した人や棄権した人からも、「自民党に飽きたのではないか」(七十三歳女性、年金生活者)、「小泉さんのしていることが支持されていない」(三十九歳女性、パート従業員)などの声が聞かれました。
とくに、民主党に投票した四十人では、「自民党がイヤだから」「自民党政治がひどすぎる」を理由とした人が十七人。
このうち「とにかく自民党政治を変えたい」「政治を一歩でも変えたい」など「政治を変えたい」と答えた人が九人いました。
「一回(政権が)変わってみたらどうなるのかなと思った。自民党にも刺激になり、競い合ってやったらいい」(五十歳女性、パート)と「二大政党」に期待する人や民主党の政策に積極的支持を表明する声も二、三ありました。
しかし多くは、「自民が勝つと困るから民主にいれた」という消極的支持でした。そこでは、「数の上から対抗できるのは民主党しかいない。政策はあまり吟味していない」(五十六歳、主婦)、「変えたいの一点。民主党は政党では自民党と肩を並べられそうだから」(四十歳男性、自営業)、「自民党そのものが嫌なのと、社民党とか共産党があまりにもちっちゃいので、民主党が一番対抗できるかなと思って」(五十二歳、主婦)――など判断のさい、「二大政党」の流れが、民主党への投票という有権者の投票行動に大きく作用したことがうかがえます。
「とりあえず可能性にかけた」「民主党でなくてもいい」などの声があるように、民主党支持が固定的でないことも示しています。
民主党に投票した人の意見をみると、同党の政策との大きなズレがみられます。「民主党でなくてもよかった」「入れるのは一時的」など消極的支持の表れともいえます。
とくに、憲法問題では「絶対変えない方がいい。戦争を経験したたいへんな思いをした人たちがつくったものだから」(三十三歳男性、会社員)、「世界に誇る条項だ。多国籍軍やイラク派兵でなし崩しになるのを懸念している」(五十八歳女性、著述業)など、九条改憲に反対する声が民主党投票者のなかでも六割を占めました。明確に九条改憲に賛成した人は三人にすぎません。九条を含めた改憲を打ち出した民主党の政策とはかけ離れた結果でした。
にもかかわらず、民主党に投票した背景には、同党が参院選直前に自衛隊の多国籍軍参加反対を打ち出したことが影響しているようです。同党支持の理由に、イラク多国籍軍参加反対をあげた人が三人おり、なかには、「イラク派兵などに反対する勢力がいることを示すことができた」(五十八歳女性、公務員)という声がありました。
一方、消費税増税については、「賛成」九人、「反対」十人、「仕方ない」十七人(残りはその他)。政府・与党と一体となった「消費税増税やむを得ない」宣伝が大きく影響しています。
それでも、「仕方ない」とするなかには、「使い道の明確化」「ムダを削るのが優先」「食品など一律増税反対」など条件つきがほとんどで、すんなり増税を認めているわけではありません。
年金目的を口実にした民主党の消費税増税政策については「知らなかった」「納得していない」という声も多くありました。
インタビューでは、日本共産党に投票したと答えた人が九人いました。五十八歳の男性会社員は「共産党に初めて入れた。民主党とか、二大政党制があまりよくないと思うから」と語り、二十八歳男性会社員は「人のことを一番よく考えてくれている政党だからです」と、その理由を説明しました。
そのほかにも、「言っていることが一番近い」(比例は共産、選挙区は民主という三十八歳男性)、「きちんと筋道をたてていて、論理性があるから」(四十三歳男性、無職)など、政策的な共感が理由となっています。
民主党に投票した人でも、なんらかの形で共産党について知っている人は、「いっていることは一貫しているし、ポリシーがあってわかりやすい」(四十歳、主婦)、「一番まともなことをいっている。共産党には、本質的な問題でしっかり発言を続けてほしい」(三十一歳男性、会社員)など、肯定的な印象を語る人がほとんど。
「一般に思われているほど拒否感はない。やっていることは正論だと思う」(投票先ノーコメントの四十二歳男性、会社員)という声も聞かれました。
一方で、「共産党があまりに小さいから、民主が一番自民に対抗できると思った」(五十二歳女性)という声に代表されるように、「二大政党」の流れは、共産党を選択肢から排除するという方向で有権者の投票行動に影響を与えました。
マスメディアでも共産党の存在が無視、黙殺されるなか、二十代、三十代では、共産党について「イメージがわかない」「新聞やテレビでみない」という声も聞かれました。
日本共産党の訴えがまだ広範な有権者に届いていないことを示しています。
今回の選挙結果について、「二大政党」の流れをつくったマスメディアの影響を指摘する声も聞かれました。
民主党に投票した人のなかでも、二十八歳の男性会社員は、「二大政党と騒がれて自民か民主かでやむを得ない雰囲気がつくられた」と指摘。二十七歳の男性エンジニアも、「メディアの影響が大きかった。自民、民主の対決をあおった」とのべています。
他党に投票した人のなかにも「メディアが民主党をとりあげているから、そっちにいった」(四十七歳男性、自営業)、「マスコミに影響された。二大政党とか」(三十五歳男性、会社員)などの声がありました。
「選挙戦に入って報道特集などで共産党の話に拍手とか起きて、少しはいくのかなと思っていたのにがっくりきた」という五十五歳の公務員(共産党に投票)は、「マスコミの報道が二大政党どころか、民放などは民主党ばっかり。ほかの政党がいいことをいっても報じない」と怒っていました。
【実施日】7月19、20、22日
【調査場所】東京・練馬区光が丘公園、中野区サンモール商店街、千代田区日比谷公園
【内訳】男性64人、女性36人 計100人
【年代別】10代2人 20代9人 30代23人 40代15人 50代25人 60代12人 70代7人 80代2人 不明5人
【民主党に投票した人】100人中40人(男性27人、女性13人)
【質問項目】(1)参院選で自民党が負けて民主党が伸びたことをどう思いますか(2)その理由は(3)消費税増税をどう思いますか(4)憲法9条は維持すべきですか、変えるべきですか(5)日本共産党についてどう思いますか
質問の(2)(5)を中心に紹介します。
(1)37歳男性、会社員(2)民主に自民党政治の弊害が直せるか断言できないが、とりあえず可能性にかけた(5)政策は理想論に聞こえる。実現できればすばらしいし政策的にはいいところがある
(2)27歳女性、パート(2)とくにどれに共感したというものでもない(5)あまり関心を持たなかった
(3)40歳男性、自営業(2)とにかく政治を一歩でも変えなければと思った
(4)72歳男性、無職(2)自民よりはましだと思った。民主はイラクの自衛隊派遣に反対していた(5)政策はよく分からないが、昔はつきあいで入れたことがある
(5)56歳男性、会社員(2)年金問題で民主に入れた(5)いいこといってると思うが本当に実行できるかが分からない
(6)60歳男性、無職(2)政策を判断して投票したのではない
(7)52歳女性、主婦(2)民主が一番自民に対抗できると思った(5)嫌いではないが力があるのか。区議選では入れることもある
(8)51歳男性、プログラマー(2)官僚組織を変えるにはインパクトのある変化を起こさないとダメだ。一番の近道として民主を選んだ
(9)38歳男性、会社員(2)比例は共産党。選挙区で民主が頑張ってる姿が印象的だった(5)大きな政党のなかで存在する意味があるという訴えを分かりやすくすべきだ
(10)37歳男性、会社員(2)政権交代を望んでいる(5)新聞やテレビでもあまり見ない
(11)37歳男性、会社員(2)自民党がイヤだという理由だけ(5)ビラとかもあまり見ない
(12)55歳女性、会社員(2)年金問題などで期待している(5)昔は期待していたがいまは力不足か
(13)30歳代後半男性、会社員(5)名前を変えてもっと目立った方がいい
(14)33歳男性、会社員(2)自民が×なだけ。民主じゃなくてもいい(5)父親などは偏ったイメージをいうが、悪いものではなく、あってしかるべき思想だと思う
(15)30歳女性、主婦(2)岡田さんを見る限りしっかりしてくれそう。政策的にはよく見えない(5)イメージがわかない
(16)40歳女性、主婦(2)自民が勝つと困るから民主に入れた。他の政党だと票がムダになる(5)いっていることは一貫しているしポリシーがあって分かりやすい。一番きちんとしている
(17)31歳男性、会社員(2)この辺で自民と小泉にちょっと待ったという気持ち(5)以前はずっと共産党支持だった。一番まともなことを言っている。本質的な問題でしっかり発言を続けてほしい
(18)40歳男性、会社員(2)極論すればどこでもいいが、現在では民主に入れるのが効果的
(19)65歳男性(2)自民が勝手なことばかりやるから
(20)45歳男性、建設業(2)改革のスピードアップが理由
(21)62歳男性、自営業(2)景気がひどく、自民党に入れれば間違いないと思って入れてきたが今回だけは仕方がなく民主に初めて入れた。ただ民主でも景気はよくならないと思う。入れるのは一時的だ(5)景気のことをやってくれれば共産党でもいい
(22)58歳女性、主婦(2)岡田さんがすごくいいわけではない。民主のことはよく知らない
(23)52歳男性、自営業(2)年金問題で岡田さんの考えの方がいい。しかし民主はまだ物足りない
(24)59歳男性、会社員(2)岡田さんのまじめなところ。小泉さんも当初は期待したが、人任せなところがイヤだ(5)もっと議席を伸ばして発言力を大きくしてほしい。魅力ある人物が出てほしい
(25)65歳男性、元公務員(2)新しい勢力として選んだ。民主党ができるかできないかよりも、堕落した政権に代われるかどうかだ(5)二大政党のなかで埋没した
(26)58歳女性、著述業(2)年金に対する考え方に賛成
(27)44歳男性、会社員(2)外交では党内に右から左までいる。このへんをもっとはっきりさせれば一度くらい政権を任せてみてもいい(5)安全弁として必要だとは思うが
(28)65歳女性、年金生活(2)ともかく自民党に変わってほしい。小泉首相が自民党を変えるといったのは本気かなと思ったこともあったが、すぐ違うと分かった(5)もっとおおらかにいろんな相手を受け入れる姿勢がほしい
(29)32歳男性、会社員(2)何か変わるんじゃないか、年金問題なども前向きでやると思った(5)ビラなども見たことがない
(30)56歳女性、主婦(2)自民への批判票。ある程度数の上からも対抗しうるのは民主しかない。政策はあまり吟味していない(5)あまりアピールする部分が少ない。数も少なくなったし
(31)37歳男性、会社員(2)特別ここがよくて入れたというわけではない。政権が担えるかどうか期待していない
(32)50歳女性、主婦(2)比例は共産党。ほかはまともなところがないから。選挙区では政見放送を聞いて一番まともなことをいっていたから民主党に投票した(5)共産党のいっていることは一番正論だけど、何かその人の言葉じゃないような気がした
(33)58歳男性、会社員(2)小さい政党に入れても死票になる。自民が倒れればいいと思って投票するなら、民主に入れておこうと。政策を考えたわけじゃない(5)いっていることは悪くないが早い時期にできるのかどうか
(34)51歳男性、製造業(2)民主に特別期待したわけではない。ほかに選択肢がなかった
(35)27歳男性、エンジニア(2)イラクの多国籍軍への自衛隊参加問題が一番大きい(5)正直あまりよく知らない
(36)30歳女性、法律事務所勤務(2)とにかく変わってほしかった。民主に入れた方が自分の票も生きると思った(5)共産党に入れても政権交代になるほど票が集まらなかったら、入れた票が捨て票になる
(37)50歳代女性、パート(2)1回ぐらい民主にやらせてみれば少しはよくなるかも(5)理想的なことばかりで実行力があるのかと思う
(38)22歳男性、学生(2)二大政党制になった方がいいのではないかと思った(5)必要ない政党とは思わないが
(39)58歳女性、公務員(2)いつもは無党派層だが今回は平和問題を重視した(5)日本は変わってきているのだから共産党もやり方を変えないといけないのでは。揺るぎないところは信用できる
(40)37歳男性、会社員(2)小泉内閣への批判を示したかった。消去法で今回は民主。普段は無党派だ(5)以前と比べると変わってきていると思う