日本共産党

2004年7月25日(日)「しんぶん赤旗」

ここが知りたい特集 ブッシュ核戦略

具体化すすむ

ブッシュ核戦略


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 核兵器廃絶を求める世界の声の高まりに逆らい、「使いやすい核兵器」の開発を進め、核兵器使用への道を歩むブッシュ米政権。その恐ろしい核戦略とは? 被爆60周年の2005年を前に、核廃絶の道は切り開けるのか―。鎌塚由美、坂口明記者

核兵器を持たない国に核を使った先制攻撃も

 「ブッシュ政権の核戦略とは何か。それは核兵器を持たない国への先制核攻撃戦略の完成といえます」―米国の核戦略を長年にわたって分析してきた国際問題研究家の新原昭治さんは指摘します。一九九一年のソ連崩壊後、米国は、自分たちの気に入らない発展途上国への先制攻撃戦略を練り始めた、それが行き着いた姿が、ブッシュ政権の核戦略だというのです。

 二〇〇二年一月、米国防総省は「核態勢見直し」という秘密報告を議会に提出しました。そこでは七つの国を核攻撃の対象にしていることが暴露されました。ロシア、中国という核保有国以外は、イラク、イラン、北朝鮮、シリア、リビアという、核兵器を持たない途上国です。

 ブッシュ政権は、同年九月にホワイトハウス(米大統領府)の公式方針として発表した「国家安全保障戦略」などで、米国に歯向かう可能性があると米国が勝手に判断した国に対しては、米国が攻撃される前に、先に攻撃する「先制攻撃戦略」を公然と打ち出しました。二〇〇三年のイラク・フセイン政権打倒の戦争は、この戦略の具体化の第一歩でした。

 イラク戦争では、政権打倒の軍事行動は短期間で終わり、核兵器は使用されませんでした。しかし、通常兵器と核兵器の敷居を取っ払い、核兵器を特別視せず、「普通の兵器」の一つとして使いやすくするというのが、ブッシュ政権の考え方です。先制攻撃戦略の危険は、先制核攻撃の危険と一体化しています。

より「使いやすく」「小型化」開発すすめる

 「核態勢見直し」報告でブッシュ政権は、「新たな要請に応じて新型弾頭を設計、開発、製造、認定することが必要であり、地下核実験の再開に向けた準備を維持する」と表明。同戦略の具体化を着々と進めています。

 昨年五月、議会で多数を握る共和党は、五キロトン以下の小型核兵器研究・開発を禁じた九三年の法律の条項を撤廃し、軍事予算案に小型核兵器研究費を盛り込みました。小型核兵器に六百万ドル、強化型地中貫通核兵器に七百五十万ドルを計上。ブッシュ大統領が同法案に署名し、同法は成立しました。

 この動きを受け、エネルギー省国家核安全保障局のブルック局長は、国立核兵器研究所あてに「好機を逃すな」と最大限の研究を進めるよう通達を出しました。

 小型核兵器とは通常、破壊力が数キロトンから数十キロトンと、相対的に小さい核兵器をいいます。「小型」とは、米国の核兵器一個の平均爆発力が広島型原爆(十五キロトン)の十倍という現実を前提にしたものにすぎません。「小型化」すれば標的周辺の住民への被害を小さくできるから「使いやすい」兵器になるというのが、開発の理由づけです。

 米政府は、核爆弾の起爆装置として使われるプルトニウム・ピットの生産も再開しました。八九年に、深刻な環境汚染が問題でロッキーフラッツ工場(コロラド州)が閉鎖に追い込まれて以来の動きです。〇三年四月からロスアラモス研究所(ニューメキシコ州)で生産が始まっています。

増える核保有国揺れる不拡散条約体制

 米国などの五大国の核兵器保有を公式に認める一方で、他の国が核兵器を保有することを禁止する―そんな「不平等」な国際合意が、一九六八年に署名された核不拡散条約(NPT)です。五年ごとの条約見直し会議を来年に控え、NPTがいま激しく揺れています。

 一つの問題は、公認の五核保有国以外に、核兵器を保有する国が増えていることです。

 パレスチナへの軍事攻撃を続けるイスラエルは、二百―三百発の核兵器を保有していると推測されています。これは、公認核保有国である英国をも上回る規模です。しかし米国は、北朝鮮やイラクなどが核兵器を保有しようとしていることを攻撃する一方で、イスラエルの核保有を不問に付してきました。

 九八年にはインドとパキスタンが核実験をし、核保有を表明しました。これに対しても米国は、自国の都合から黙認する構えです。

 また、二〇〇〇年に開かれた前回のNPT再検討会議では、米国を含むすべての核保有国が「核兵器の完全な廃絶を達成」する「明確な約束」をしました。これは、核保有国が核軍縮の義務を負うというNPT第六条の具体化と、核廃絶を求める国際世論が強く反映したものでした。

 ところが、来年の再検討会議に向けた今年五月の準備会合でボルトン米国務次官は、核軍縮を議論することさえ拒否。核廃絶の「約束」を棚上げする態度をとりました。

 これに対し、非同盟諸国や新アジェンダ連合諸国など多くの国が、ブッシュ政権が狙う新型核兵器開発などを厳しく批判。前回会議の合意を守り、核廃絶に踏み切れと要求しました。

 もう一つの問題は、ブッシュ政権が今年二月に大量破壊兵器拡散防止の新政策を発表し、NPTの基本原則の一つを侵そうとしていることです。

 NPTは第四条で、核兵器開発・保有を禁止された国に対し、平和目的で原子力を利用する権利を保障しています。ところが米国の新政策は、これが核兵器保有の抜け穴になるとして、日本など一部の国以外の国に対し、平和利用の権利を否定しようというのです。

 しかし、この政策への反発があまりにも強いことから、米国は同提案を事実上取り下げたとも報じられています(「朝日」十九日付)。


広がる反対の声 米国内で国際社会で

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NPT再検討会議の第3回準備委員会開催に合わせて開かれた反核集会に参加した米市民=5月1日、ニューヨーク市(遠藤誠二撮影)

 「使いやすい核兵器」の開発を目指すブッシュ政権に対し、米国内からも批判の声が上がっています。六月二十五日、米下院本会議では与党・共和党議員の主導で二〇〇五年度の核軍拡関連予算を削る予算案が採択されました。

 十一月の大統領選に民主党から出馬するケリー上院議員は六月の演説で、過度の核物質や核兵器の削減に言及。「地中貫通型の新世代核兵器を開発するとの現政権の計画を中止する」と公約しています。

 国際社会では、核兵器廃絶を求める声が、ますます高まっています。昨年十二月の国連総会では、新アジェンダ連合の「核兵器のない世界へ」決議が賛成一三三、反対六、小型核兵器などの「非戦略核兵器の削減」決議が賛成一二八、反対四で採択されています。



ブッシュ政権の核・軍事政策の展開

2001年……………
1月ブッシュ大統領就任
5月ブッシュ大統領が演説で先制攻撃戦略を打ち出す
9月同時多発テロ
10月国防総省が「4年ごとの国防態勢見直し」(QDR)報告を発表。テロなど「非対称的脅威」への対応が急務と指摘
12月弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの一方的離脱をロシア政府に通告(02年6月に離脱)
2002年……………
1月国防総省が米議会に「核態勢見直し」報告を提出
1月ブッシュ大統領が一般教書演説でイラク、イラン、北朝鮮の三カ国とテロリストとの連携を「悪の枢軸」と攻撃
5月米ロ首脳が会談し、双方の戦略核弾頭を2012年までにそれぞれ現在の3分の1程度の1700―2200個を削減することを盛り込んだ「戦略攻撃兵器削減条約」(モスクワ条約)に調印。ただし必要に応じて再配備可能
9月ホワイトハウスが「米国の国家安全保障戦略」を発表。先制核攻撃戦略を米国の公式戦略として明記
12月ブッシュ政権が「大量破壊兵器とたたかう国家戦略」を発表。大量破壊兵器を開発・保有する敵対国の攻撃から米国や同盟国を守るため、核兵器使用を辞さないと再表明
2003年……………
3月イラク戦争開始
4月核兵器の起爆装置として使われるプルトニウム・ピットの生産がニューメキシコ州のロスアラモス国立研究所で再開される
11月ブッシュ大統領が、小型核兵器研究禁止を解除し、地中貫通核兵器の開発に予算をつける国防権限法案に署名し、同法が成立
2004年……………
2月ブッシュ大統領が演説し、核兵器をはじめとする大量破壊兵器の拡散に対する新方針を発表

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