日本共産党

2004年7月22日(木)「しんぶん赤旗」

堀越さんの弁護人がのべた「起訴状に対する意見(その1)」

要旨(下)


 2 本件公訴は判決をもって棄却されるべきである。

 (1)刑事訴訟法338条4号の該当性

 刑事訴訟法は338条4号に「公訴の手続きがその規定に違反したため無効であるとき」は、判決で公訴を棄却しなければならないと定める。

 公訴の適法とは、起訴が起訴手続きとして定められた規定に形式的に合致することをもっては足りない。実質的にも起訴およびその後の訴追手続きが、公訴官としての職務義務に適合するものでなければならないのである。(略)

 (2)本件起訴は違法捜査に基づく起訴である。

 ア(略)

 イ 本件公訴は、被告人が国家公務員であり、その国家公務員が勤務時間外に職場外で、私人として政党機関紙やビラをポストに投げ入れたことを犯罪であるとして実体審理を請求するものである。

 本件は非常に特殊な犯罪類型であるといわねばならない。行為が行われたときに、あるいは行われようとしているときに、その行為が犯罪であると判断するためには、行為者が国家公務員であるということを事前に了知していなければならないのである。

 問題は、警察がいかにして被告人が国家公務員であるとの認識に到達しえたかにある。

 被告人が職場において行為した場合であれば、公務員であるとの認識に到達することは容易である。

 しかし、被告人の勤務地は目黒区であり、公訴事実記載の配布場所は中央区である。被告人が勤務中ないし勤務に接着して配布したものでないことは公訴事実の記載自体から明らかである。被告人がなしたとされる配布行為が犯罪であると判断されるためには、公訴事実に記載される行為が行われた場面とは別の場面で、被告人が国家公務員であることが確認されていなければならないのである。

 では、警察はいかなる手段で被告人が国家公務員であることを確認したのか。

 唯一の可能性は、嫌疑無き捜査、違法な情報収集が行われたということしかない。犯罪の嫌疑もないのに、ストーカー行為と同様の尾行や監視が行われたのである。さもなくして、被告人が国家公務員であるとの資料は得られるわけがない。警察は、自ら不法行為を行い被告人のプライバシーを侵害して、被告人の身分を特定したのである。

 ウ 何ゆえ嫌疑無き捜査が行われたのか、何ゆえ被告人について国家公務員身分の特定が行われたのかの問題がある。

 被告人に対する捜査は警察の思想信条による差別意思によるものであり、差別意思に基づき違法捜査が選択されたものである。二重に違法な捜査である。

 起訴検察官は、あえて違法捜査に基づく捜査であることを了知しながらその捜査による資料のみによって公訴を提起したのであり、本件起訴そのものが違法な公訴提起たることを免れないのである。

 まさに本件違法捜査と本件公訴は一体であり、違法捜査なくしては本件公訴は存在し得ない関係にある。本件は違法な公訴提起として、裁判所は公訴棄却の判決をなすべきである。

 (3)実質的違法性を欠く起訴価値のない事案の起訴

 本件公訴事実とされているのは、国家公務員が職場から遠く離れた居住地近辺で、職務時間外に、人に手渡すのではなく各戸の郵便ポスト及び集合住宅の集合郵便ポストに政党機関紙号外及びビラを投げ入れたという事実である。人事院規則14―7第6項の定める政治行為としては最も公務との関連性のない政治行為である。

 しかもその行為の形態はポストへの投げ入れという、行為の外形から見る限り行為者が国家公務員であることを推定させる要素の全くない行為である。市民は何人が投げ入れたかについては、関心を持たないのである。

 昭和49年の最高裁猿払事件判決は、国家公務員の政治活動により侵害される法益を「行政の中立的運営に対する国民の信頼」に置いている。

 しかし、本件公訴事実に記載されている行為は、その行為をみたとしても、およそ行為者が国家公務員であると推定する可能性さえないものであり、「行政の中立的運営に対する国民の信頼」に対する疑義を掃除させる可能性の全くない行為である。すなわち、本件公訴事実記載の行為は、猿払事件最高裁判決が措定する保護法益を侵害する可能性が全くないものなのである。

 (4)憲法14条に反する差別的起訴

 この間、一般国家公務員が私人として、勤務とは関係なく行う政治活動については、常識的判断にもとづいた運用がなされた結果、国公法102条1項違反として立憲されることはなかった。他方、特権官僚が、在職中の権限を利用して、省庁ぐるみ、業界ぐるみの選挙を展開することがしばしば問題とされたが、こうした行為に対して国家公務違法102条1項による規制がなされることもなかった。

 両者のいずれが国家公務員の「職務の中立」にとって弊害が大きいかは論じるまでもない。ところが、本件は、比較にならないほど弊害の大きい「政治的行為」を野放しにしておきながら、実質的な弊害が全くない被告人の職場外・勤務時間外のビラや機関紙の配布をあえて起訴したのである。

 本件起訴は、思想信条による差別を禁じた憲法14条に反するものであり、同時に、著しく均衡をかくものであり、平等原則に反する起訴にほかならない。

 (5)本件起訴は訴訟条件を充たしていない。

 本件は、公安警察と検察庁が、被告人が所属する行政組織や人事院が全く問題としていない行為をその頭越しに国公法102条1項および人事院規則14―7に違反する犯罪行為であると決めつけ、起訴したものである。

 しかし、国公法102条1項および人事院規則14―7が禁止する「政治的行為」にあたるかどうか、あたるとした場合に刑事罰を科すべきかどうか、という判断については、規則を制定した人事院とこれを実際に運用する立場にある所属長等の判断が優先されるべきである。人事院や所属長が当該国家公務員の行為が国公法102条1項および人事院規則14―7に違反すると判断し、刑事訴追を求めることが訴訟条件となっているというべきである。

 本件起訴は、このような条件を満たさないまま、公安警察と検察庁の独断専行にもとづいてなされたものであるから、訴訟条件を欠くものとして、公訴棄却の判決を言い渡すべきである。

 3 本件公訴は決定をもって棄却されるべきである。

    (以下、略)


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