日本共産党

2004年7月21日(水)「しんぶん赤旗」

堀越さんの弁護人がのべた「起訴状に対する意見(その1)」

要旨(上)


 堀越明男さんの弁護人が二十日の法廷でのべた「起訴状に対する意見(その1)」の要旨は次の通りです。

 第1 なぜ公訴棄却を求めるのか。

 1 本件の特徴と本質(1)最も基本的な人権の全面的なはく奪の是非が問われている

 本件公訴事実は、国家公務員が休日に職場とは関係のない場所で政党機関紙の号外やビラを郵便受けに投かんしたというものである。

 ビラの配布は、ほとんどの国民にとって最初にできる最も容易な意思表明の手段である。このビラ配りさえも規制されてしまうのであれば、特別な意思表明の手段を持たない普通の国民は、意思表明の手段のほとんどすべてを奪われることになるのである。

 国家公務員法102条・110条、人事院規則14―7が無限定に適用されるのであれば、国家公務員は市民的自由権である表現の自由を全面的に奪われることになってしまう。

 国家公務員であることのみをもって政治的意思表明の自由を全面的に奪うことが憲法21条に反することは言うまでもない。また国際人権規約も具体的理由のない表現の自由の規制を全面的に禁止している。

 本件事件で問われているのは、そもそも国家公務員であるが故に政治的意思表明を全面的に禁じるような、それも刑事罰を持って禁じるような野蛮な制度が、日本国憲法をはじめとする近代人権法制の下で許されるのかということであり、この野蛮な制度、国家公務員法102条を、同条にもとづく起訴をしないことで凍結してきた社会の安定を破壊してよいのかということである。

 (2)違法な情報収集活動がなければ立件できない事案である

 本件の特徴は、一般市民であれば犯罪とならない行為が、国家公務員であるということによって犯罪に転化するというところにある。

 通常の犯罪であれば、その行為の外形から犯罪を犯しもしくは犯されようとしていると容易に判断され得る。しかし、本件公訴事実記載の行為の外形からは、そのような判断は不可能である。

 したがって、本件公訴事実記載の行為を訴追するためには、被告人が国家公務員であること、そして、被告人が公訴事実に記載されているような政治活動を行う者であることが事前にわかっていなければならない。そして、そのためには、後に詳述するとおり、捜査機関が犯罪とは無関係に被告人の思想信条をはじめとするプライバシーに関わる事項に関する情報を収集することが不可欠となる。

 (3)33年ぶりの起訴、なぜ33年間も起訴がなかったのか

 国家公務員の政治活動が国家公務員法102条違反として起訴されたのは、昭和46年以来実に33年ぶりのことである。

 昭和46年から本件事件までの間、国家公務員の政治活動が国家公務員法違反で起訴されることは無かった。この間昭和49年に猿払事件・全逓徳島郵便局事件・総理府統計局事件の最高裁判所判決がなされたものの、以後1件たりとも国家公務員の政治活動を国家公務員法違反で起訴した事件はなかったのである。

 なぜ33年間にもわたり、国家公務員の政治活動が国家公務員法違反で起訴されることがなかったのか。

 そのひとつの理由は、猿払判決多数意見の憲法解釈論の誤りにある。公務員の政治活動一般を一律に罰則をもって禁止することを合憲と判断するために構成した論理は、憲法学者・行政法学者の圧倒的批判にさらされ、その思想のいかんを問わず憲法学者のただ一人といえども多数意見を支持するものはなかったのである。

 もうひとつの理由は、昭和54年5月に市民的及び政治的権利に関する国際規約(いわゆるB規約)の批准がなされたことがある。日本国民に直接適用される同規約の批准により、表現の自由・プライバシーの権利に対する侵害は徹底的に排除されることになった。これにより、国家公務員法102条・110条は国際条約違反の法律になったのである。

 これらの理由にもまして国家公務員法102条による起訴を拒んできたのは、国家公務員法102条および人事院規則14―7各号があまりに市民的常識に反するということであった。

 そもそも、国家公務員法102条・110条は占領軍の命令(マッカーサー書簡)によりまともな審議もなされずに国会を通過させられたものであり、政治活動の定義を政令ですらない人事院規則に委任した異常な法形式による刑罰法制である。また、政治活動を定義した人事院規則14―7は占領軍の個別の指示により決められたもので、投票行動を除くほかほとんどの政治的行為・意思表現を禁止し公務員の市民的自由を全面的にはく奪するおよそ市民の常識とはかけ離れた無茶苦茶なものである。あまりにひどい規定であるため、占領が終了し、その後の混乱期を除いては、国家公務員法の政治活動で起訴されることはまれであった。

 後に地方公務員法が制定されるにあたり、この国家公務員法の弊害が認識されていたため、刑事罰は規定されなかったのである。

 そのため、国家公務員法102条は33年間にわたり、事実上凍結されてきた。国家公務員法102条は発動されないということで、一定の法的安定状態が形成されていたのである。

 今回の逮捕・捜索・起訴はこの国家公務員の政治活動禁止法令の凍結状態、一定の法的安定状態を一挙に破壊するものである。

 (4)本事件の起訴の不当な目的

 ア、イ(略)

 ウ 国家公務員法違反で起訴されるということは、公務員は私人として生活しているときも、常に国家公務員法の威圧の下に置かれ、職務外でも、休日でも、それこそ子供と遊んでいても、意見表明を禁じられることになるのであり、市民として生活しているときに政治活動をしないかと見張っている公安警察の24時間の監視下に置かれることになるのである。

 公安警察は国家公務員を24時間監視する体制を合法化し再び戦前のような警察監視国家とすることを目指して、本件事件を立件したのである。

 このような公安警察による恒常的な監視体制が憲法が保障する個人の尊厳を破壊し、表現の自由や政治活動の自由を侵害するものであることはいうまでもない。

(つづく)


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