2004年7月14日(水)「しんぶん赤旗」
![]() ハブが破断し、グリースがまとわりつくブレーキドラムやライニング(左)と後輪タイヤ(右) |
重大な交通事故の背後に車の欠陥が隠されていた――。運転手の操作・整備ミスとして処理された三菱製大型車の事故が、実は欠陥部品によるものであることが次々と判明しています。栃木県宇都宮市のダンプ運転手・星野靖夫さん(60)と所属する労働組合は先月二十九日、五月に起きた人身事故が「リコール対象の後輪ハブの欠陥によるものだ」として栃木県警に再捜査を求めました。再捜査の行方が注目されます。遠藤寿人記者
事故は五月十三日、同県上都賀郡粟野町の県道で起きました。星野さんは十トンダンプ「ザ・グレート」(一九九〇年式)で砂利を運搬していました。
長さ百五十メートル程の道幅の狭い橋を渡りきり、右カーブに入る際、対向車がセンターラインを越え膨らんできました。
星野さんが急ブレーキを踏むと、「軽く握っていたハンドルが半周あまり右へ回転しハンドルを戻すことができなくなった」といいます。
ダンプは、対向車線に進入し左前角に乗用車が衝突。乗用車の運転手の男性(70)は、片足を骨折し全治二カ月の重傷を負いました。
「どうしてハンドルが右にとられたのか」。星野さんは事故後、疑問と不安をぬぐい去ることができませんでした。ダンプ歴三十年、運転歴四十年、無事故でした。
一週間後、点検のため民間の整備工場にダンプを入庫すると、左後輪ハブ(車輪と車軸をつなぐ部品)が完全に破断し、グリース(潤滑油)が飛び散り、ブレーキドラムやライニングに付着。「ブレーキの利きが通常より悪くなる」(整備工場)状態でした。
それを証明するかのように、事故現場の路面には右タイヤのブレーキ跡しかなく、左タイヤのものはありませんでした。ブレーキが「片利き」の状態だったことを示しています。
栃木三菱ふそう自動車販売鹿沼支店は、整備工場の連絡を受け、後輪ハブを交換。「後輪ハブは、前輪と違って破断してもタイヤは外れない構造だ。ブレーキ性能が低下したかどうかは分からない」としています。
星野さんは当初、ハンドルが右に取られたことを警察に話しませんでした。「自己弁護していると思われ、処分が重くなると思った」といいます。
その結果、重過失による重傷事故扱いで六十日の免許停止処分の対象となりました。
三菱ふそうトラック・バス(三菱自動車から分社)製大型車の後輪ハブの異常は、一九九〇年から六十五件も訴えられてきました。
それにもかかわらず同社は十四年間、欠陥を放置、四月にハブの強度不足を認め、二万一千七百六十九台のリコール(回収・無償修理)を届け出ました。
星野さんのもとには事故の一週間前にリコールの「案内」が届けられていました。「連休明けで仕事がつまっていたので車を持ち込めなかった。三菱がもっと早くリコールを届け出ていたなら事故は防げたのではないか」との思いを強くしました。
星野さんは六月二十四日、宇都宮地検栃木支部から呼び出しを受け、後輪ハブの問題を話しました。担当官は「慎重に検討する」と答えたといいます。
三菱ふそう本社によると、後輪ハブのリコール対策状況は、18・4%(七月三日現在)にすぎません。
同鹿沼支店は「部品が間に合わず、お客さんに待ってもらっている。星野さんの事故車には、他の販売店から部品を取り寄せて交換した」といいます。
支店を束ねる栃木三菱ふそう自動車販売は「再捜査を見守る」としながら、現在に至っても「どういう事故だったのかよく分からない。事故とリコールが因果関係があるとは考えていない」と答えています。三菱本社にも事故報告されず、本社が事故を知ったのは星野さんの再捜査の訴えの後です。
星野さんは、大型ダンプを自己所有する労働者でつくる、全日本建設交運一般労組関東ダンプ協議会栃木支部に加入しています。
同支部山内健人書記次長は、「事故発生直後に本社お客様相談室に相談したら、『重大な事故だから社内で検討する』といったきり、連絡もよこさない」と無責任な対応に憤ります。
山内さんは「ハブ破断でブレーキ性能が低下することがあまり知られていない。他のブレーキが正常であれば、急ブレーキでも踏まないかぎり異常に気づかないのでは」と指摘。「全国一の砕石場で、三菱製ダンプを愛用する組合員も多い。リコール対策も進まず、危険な状態で車が走行している可能性がある」と徹底した原因究明を求めています。