2004年7月11日(日)「しんぶん赤旗」
【カイロ=小泉大介】国際司法裁判所が九日、ヨルダン川西岸の分離壁を違法と認め、撤去を勧告したことについて、パレスチナ指導部とアラブ諸国は歓迎するとともに、今後、国連などが勧告の具体的実施にむけた努力を強めるよう要求しました。一方、イスラエル政府は勧告を無視し分離壁建設を強行する姿勢を明らかにしています。
パレスチナ自治政府のクレイ首相は九日、「国際司法裁判所は、世界とイスラエル、米国にたいし、他の国民の土地、占領地に建設された壁が違法なものであると勧告した」「これは世界で最も権威ある裁判所による歴史的な決定であり、今日は歴史的な日である」とのべました。
同政府のアラファト議長も勧告を「素晴らしい決定」であり、「パレスチナ人と、自由を求める世界の人民の勝利である」と評価しました。
アラブ二十一カ国とパレスチナ自治政府が加盟するアラブ連盟のザキ事務局長報道官は九日、「国際法の勝利」と、勧告の意義を強調するとともに、「司法的な判断が明白となったいま、国際社会に求められているのは、いかにイスラエルに国際法を順守させるかである」とのべました。
アラファト議長顧問のルデイナ氏は「今回の決定はイスラエルの孤立を導くだろう。法と国際関係を破壊した理由で、国際社会がイスラエルにたいし制裁を加えることが必要である」とし、勧告の実施を保障するための国連安保理決議採択を要求。自治政府のアリカット交渉相は「(国際司法裁勧告をうけ)米国がイスラエルに決議を履行させるよう希望する」とのべ、これまでイスラエル支持の立場に立ってきた米国をけん制しました。
一方、イスラエル政府は、六月三十日に同国最高裁が人権侵害を理由に分離壁の一部ルート変更を命令したことにつづく今回の勧告で、まさに内外の厳しい批判にさらされたことになりました。しかし、同政府は、国際司法裁の勧告がパレスチナ側の「テロ」に言及していないことなどを理由に分離壁建設を強行する立場を崩していません。
イスラエル政府の九日発表の声明は、「テロがなければ分離壁も必要ない」「テロという犯罪行為に直面すればいかなる国家もイスラエルのように行動するだろう」などとのべ、勧告を無視する立場を表明。シャロン・イスラエル首相報道官は「勧告は、イスラエルから自衛の手段を奪い取るものだ」と非難しました。
【パリ=浅田信幸】国際司法裁がイスラエルによるヨルダン川西岸の分離壁建設を国際法違反と勧告したことについて、欧州連合(EU)議長国オランダのボット外相は九日、「EUは、テロ攻撃から市民を守るイスラエルの権利を認めつつ、イスラエルに東エルサレム周辺を含め分離壁の建設を停止するよう求めてきた」との見解を明らかにしました。
同外相はまたイスラエル・パレスチナ紛争の解決は中東和平行程表(ロードマップ)の実行によって可能になると指摘し、当事者間の「交渉による解決」の追求を求めました。
EU諸国は、分離壁問題を国際司法裁で審理することはなじまないとの立場から口頭弁論では陳述せず、裁判所の勧告的意見が中東和平プロセスを損なうことを懸念し、踏み込んだ判断を避けるよう求める意見書を提出していました。
【モスクワ=田川実】イスラエルによる分離壁の建設に関する国際司法裁判所の勧告的意見についてロシア外務省は九日、「尊重する」との声明を出しました。「今必要なことは、行き詰まっている(中東和平の)行程表に基づく和平プロセス再開のため、実際的な問題に集中することだ」と強調しています。