2004年7月2日(金)「しんぶん赤旗」
暑い夏。気をつけたいのが熱中症です。頭痛、めまい、意識障害などの症状が起こり、最悪では死亡する例もあります。財団法人気象業務支援センターが開いた「都市気候と熱中症に関する講演会」から、対策について紹介します。
熱中症の被害は七、八月に集中しています。熱中症は暑熱環境で発生する障害の総称で、熱虚脱、熱射病、熱けいれんなどに分けられます。この中で最も重いのが熱射病で、死亡事故につながることもあります。
労働との関係について、産業医科大学の堀江正知教授は「熱中症による死亡例は労災だけでも、ここ十五年で二百三十五人。業種は、建設業、製造業、林業などに多いのが特徴です」と報告。スポーツとのかかわりについて文教大学の梶原洋子教授は、「三十二年間に熱中症で九百三十五人が死亡しています。その半数はスポーツが原因です」と報告しました。
熱中症が起きるシステムはこうです。
人間は体温が四二度以上になると生命を維持できません。産熱と放熱のバランスをとるために、汗を皮膚表面で蒸発させて、気化熱で体を冷ましています。
汗で血液中の水分や塩分が過度に失われると、血流が不足し、脳が最初に影響を受けます。
症状としては、熱虚脱(頭痛、めまい、吐き気、ねむけ、言動の異常など)や、熱けいれん(塩分の補給不足による筋肉のけいれん)、熱射病(体温をコントロールする視床下部の機能が失われることによる発汗停止、意識消失)などがあります。
熱中症が起きる大きな原因は、暑いときに、無理な運動や労働をすることにあります。また、気温が低くても、湿度が高い、運動強度が強いなどで熱中症にかかる例もあります。このため、気温、湿度、ふく射熱の三条件を基準にした環境温度である、WBGT(湿球黒球温度)で計測した温度を指標にすることが呼びかけられています。WBGT三一度以上で原則運動中止、二八度以上で厳重警戒、二五度以上で警戒、二一度以上で注意、となっています。
また、その人にとって初めて暑くなった日も要注意です。梶原教授は「夏場は、スポーツをする側だけでなく応援する人、ロックコンサートの参加者などで、かなりの被害が出る」と指摘しました。暑い日が続くと汗を上手にかけるようになり、汗への塩分の喪失が減る(暑熱馴化(じゅんか))ようになりますが、急に暑くなった場合には、熱中症にかかりやすいのです。
熱中症にかからないためにはどうすればよいのでしょうか。
労働やスポーツの現場では、0・1〜0・2%ほどの塩分濃度の水分やスポーツドリンクを用意してこまめに水分を補給する、日陰で休息する、食事や睡眠をきちんととる、体調の悪いときは無理しない、飲酒は尿量を増やし脱水症状を起こすので飲酒後に水分補給を十分に行う―などの注意が必要です。また、服装の通気性、吸水性、吸湿性も大切です。熱中症のかかりやすさには個人差があり、基礎代謝や皮下脂肪、体調などが要因となります。
熱中症の救急処置は次の通りです。
いつもと違う言動(足がもつれる、舌がもつれる、けいれんなど)があれば熱中症を疑い、涼しい場所で安静にさせて、体を冷やします。食塩水かスポーツドリンクを与え、脳血流の循環を維持するために、足を上げて脳に血流を戻します。本人は中枢神経がまひして判断できなくなっている場合が多いため、周囲の迅速な手当が重要です。受診時は同行者が医師に経過を説明してください。