2004年6月1日(火)「しんぶん赤旗」
米政府は五月はじめ、四十年以上にわたって続けてきたキューバへの制裁と干渉の政策をさらに強化する新政策を発表しました。この政策では、キューバへの経済的締め付けの強化と反革命勢力への支援など外部からの政権転覆が公然と企てられています。キューバの自決権を真っ向から踏みにじる覇権主義であり、国際的な批判にさらされています。
新政策は、米政府が昨年設置した「自由キューバ支援委員会」の報告書(五月提出)を公表する形で発表されました。それによると、キューバの現体制に反対する勢力を内外で支援するために行動資金として向こう二年間に五千九百万ドル(約六十五億円)という巨費を投入。具体的には、第三国のボランティアを通じた反革命支援、反革命勢力への奨学金プランの提供、反政府宣伝の謀略放送強化のためにキューバ周辺に軍用機C130を飛行させることなどが挙げられています。
またキューバ経済の締め付けのため、(1)キューバ系米国人による親族への送金を制限。キューバ政府関係者や共産党員への送金は禁止(2)親族訪問のための渡航回数を三年に一回に制限(現行は年一回)(3)キューバに投資した外国人投資家にたいする米国入国ビザ発給を禁止、キューバと取引した第三国企業を米国法廷で裁くなどキューバ制裁強化法(ヘルムズ・バートン法)の厳格な適用などを盛り込んでいます。
ブッシュ大統領は政策発表の際に「キューバに自由が訪れることを期待することはできない。自由の日のために活動しなければならない」と発言。体制変革を外部から押し付ける意図を公然と宣言しました。
バティスタ独裁政権を打倒した一九五九年のキューバ革命は、民主的な国づくりをめざすキューバ国民自身の意思とたたかいによって成し遂げられたものでした。バティスタ政権を支援していた米国は、自分たちのいいなりにならないカストロ革命政権を敵視し、打倒をめざして六〇年代はじめから経済封鎖政策をとってきました。また、反革命雇い兵を使った軍事侵攻作戦を強行し、それが失敗するとカストロ議長の暗殺をも繰り返し企ててきました。
一九九一年ソ連が崩壊すると、同国に依存していたキューバの経済は深刻な打撃を受けました。米政権はこれを機会にキューバの政権崩壊を狙って制裁政策を一段と強化。ヘルムズ・バートン法を成立させて、締め付けを強化しました。
米国の横暴な干渉の背景には、カリブ海を自国の裏庭とみる前世紀から続いた特別の覇権主義があります。しかし米国の干渉主義は近年、国際世論の厳しい批判にあって、孤立を深めてきました。国連総会では、九二年から毎年、キューバ封鎖の解除を求める決議が圧倒的多数で採択されています。賛同国は年々増大し、昨年の総会では反対は米国など三カ国のみになっています。
特にヘルムズ・バートン法は、欧州の同盟国やラテンアメリカ諸国が強く反発しました。ラテンアメリカ諸国が多く参加するイベロアメリカ首脳会議などでは、制裁やヘルムズ・バートン法を非難する決議や文書が採択され、米国の横暴が厳しく批判されてきました。
今回の新政策についても、メキシコ政府は、即座に賛同できないとの立場を表明。デルベス外相は十日、スペインのモラティノス外相と会談し、内政問題への不干渉という原則にたって、米国の新政策に同調しない態度を確認しました。メキシコやスペインは、キューバ国内の人権問題ではカストロ政権と論争する場合もありますが、それでも今回の米国による干渉強化策には明確に反対の態度を示したのです。
二十世紀の歴史を通じて、たとえ小国であっても自国の進路を自主的に決定する民族自決権があり、厳格に尊重されなければならないという原則が確立しました。ブッシュ政権の新政策は、この原則を無視し、気に入らない政権には外部から圧力をかけて打倒してもかまわないという議論に立っています。これは、イラク戦争など軍事干渉、覇権主義的横暴と共通するきわめて危険な考えです。
ノリエガ米国務次官補は新政策発表の際、ラテンアメリカ諸国が米国の努力と「共同するよう呼びかける」と述べていました。しかし、これに応えて共同を明確に表明する国はいまだに現れていません。ブッシュ政権が対キューバ新政策を強行するなら、米国は世界からさらに孤立を深めることになるでしょう。(メキシコ市=菅原啓)