日本共産党

2004年5月26日(水)「しんぶん赤旗」

連合軍強化、撤退示さず

米英イラク新決議案 仏独ロ中など批判


 【ワシントン=浜谷浩司】イラクの主権移譲に関する国連安保理新決議案の討議が米英両国による草案の提示を受け、本格的に始まりました。米英両国は二十四日、六月末にイラク暫定政府に主権を移譲し、占領を終結するとしながらも、一方では、米主導の多国籍軍に今後一年にわたって強大な権限を認める新決議案を提出しました。

 フランスやドイツ、ロシア、中国などは、真の主権回復を早期に実現すべきだとの立場から、決議案が米軍の撤退期限を示していないことなどを批判。米政府は決議案の採択に自信を見せているものの、すんなりと同案が採択される状況にはありません。

 決議案は、多国籍軍に「安全と安定の維持」に必要な「すべての措置をとる権限」を認め、イラク治安部隊への指揮権も確保。実質的に、イラクの主権を制限するものとなっています。

 また、暫定政府の樹立から来年一月までの選挙実施を含む、すでに明らかになっている時間表に支持を表明。それをてこにして、多国籍軍や、そのもとに新設される国連要員警護部隊への派兵をはじめとした支援を、各国に迫っています。

 ブッシュ米政権が国連をないがしろにしてきたことへの批判を反映して、決議案は前文で国連の「主導的役割」をうたいました。しかし国連が今後のイラク復興にどうかかわるのか、多国籍軍との関係などは依然としてあいまいなままです。

 ブッシュ大統領は二十四日、ペンシルベニア州の陸軍大学で演説し、(1)主権移譲(2)治安確保(3)経済復興(4)国際支援(5)選挙実施―のイラク復興・民主化に向けた五つの柱を提起しました。六月三十日には「われわれ連合国は選挙を準備するイラク国民による政府へ完全な主権を移す」と述べる一方で占領続行の姿勢を堅持する構えを示しました。


米英が提出した イラク新決議案

主権移譲期限まで5週間

展望描けぬ米政権

解説

 米国が定めた六月三十日のイラクへの主権移譲まで五週間を残すだけ。しかしイラク情勢は泥沼化し、主権移譲の現実的な展望は生まれていません。米英両国が二十四日に提示したイラク主権移譲に関する国連安保理決議案は、これを「打破」するために急いで出されたもの。中仏ロの常任理事国を含む各国は、同案では真の主権移譲とならないと批判。交渉は難航が予想されます。

駐留に限定なく

 決議案の最大の問題点は、「六月三十日までの占領終結」を言いながら、米軍などの外国軍の駐留継続を無限定に認めていることです。

 決議案は、昨年十月採択の安保理決議一五一一が多国籍軍を承認したことを再確認。「多国籍軍は、イラクの安全と安定の維持に貢献するすべての必要な措置をとる権限をもつ」としています。

 しかも、多国籍軍の駐留について、「決議採択の日から十二カ月後、あるいはイラク移行政府の要請に基づいて見直す」とし、決議採択から少なくとも一年間は外国軍が駐留する権利を認めています。それ以降については規定がありません。

 パウエル米国務長官は十四日、もしイラク暫定政府が米軍撤退を求めれば米側はそれに従うと表明しました。しかし提示された案文は、イラク側が外国軍駐留を拒否する権限を保障していません。イラク政府がイラク軍に対しどの程度の権限をもつのかも明示していません。

 フランス、中国、ロシア、ドイツなど多くの理事国が、主権移譲というのなら外国軍撤退の期限を明記すべきだと主張しています。中国の王国連大使は、多国籍軍駐留期限は当面、国民議会選挙が実施され移行政府が発足する来年一月までの半年間にすべきだと提起しました。

資金管理も制限

 決議案は、連合国暫定当局(CPA)の解散に伴い、イラク復興のためのイラク開発基金の資金の使途は暫定政府が決めるとしています。しかし、これも、同基金の運用を監督するために設置された国際諮問監視理事会の監視下におかれるとされ、イラクの主権は経済面からも制約されます。

 そもそも、主権移譲といっても、誰が暫定政権の首相や閣僚になるのかは何も決まっていません。三千人規模の世界最大級の大使館の設置を決め、すでにネグロポンテ国連大使をイラク駐在大使に指名した米側の手回しの良さと対照的です。

 イラクの主権移譲は、決議案の内容、イラク現地の情勢のいずれをとっても不確定要素に満ちています。形だけでも暫定政府を発足させ、「イラクはうまくいっている」との印象をつくり出して十一月の大統領選に臨むというブッシュ政権の計算通りに事態が進む条件は見えません。 坂口明記者


 イラク暫定政府と移行政府 イラクの主権移譲について現在出されている構想によると、現在の米英の連合国暫定当局が六月三十日に解散した後に構成されるのが「イラク暫定政府」です。この後、遅くとも来年一月末までに国民議会選挙を実施。それに基づいて発足するのが「移行政府」です。次いで新憲法を起草し、来年十二月十五日までに総選挙を実施。来年末までに正式な政権が発足する段取りになっています。


イラク新決議案(要旨)

 米英両国が二十四日に提示したイラクの主権移譲に関する国連安保理決議案の要旨は次の通り。

 一、六月三十日までの暫定政府発足を承認する。

 一、六月三十日までに占領を終結するとの占領当局の約束を歓迎する。連合国暫定当局(CPA)は解散し、暫定政府が責務と権限を引き継ぐ。

 一、国民会議開催と、遅くとも来年一月末までの暫定議会の選挙実施などの政治日程を支持する。

 一、国連事務総長特別代表と国連イラク支援団(UNAMI)は、国民会議の開催支援、選挙実施に関する助言、憲法起草の促進をする。事情が許せば、行政面の助言、人道援助、復興・開発への貢献などを行う。

 一、決議一五一一で創設された統一指揮下の多国籍部隊の承認を再確認する。多国籍軍は、イラクの安全と安定の維持に貢献するすべての必要な措置をとる権限をもつ。任務を一年以内、またはイラク移行政府の要請に基づき、見直すことを決定する。

 一、多国籍部隊の中に国連要員を警護する特別部隊を創設する。

 一、多国籍部隊がイラク軍の養成を支援する。これに関し、多国籍部隊と暫定政府が取り決めを作ることを歓迎する。

 一、CPAの解散に伴い、イラク開発基金の資金は暫定政府が使途を決めることとし、(同基金の運用を監督する)国際諮問監視理事会は活動を続ける。この規定は一年以内またはイラク移行政府の要請で見直す。

 一、石油・食料交換計画に関連する権利や責務は暫定政府に引き継がれる。


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