日本共産党

2004年5月19日(水)「しんぶん赤旗」

「使いやすい核」へ 勢いづくブッシュ政権

脅威があるなら、なきものにしてみせる

米・新核戦略 国際問題研究家 新原昭治氏にきく


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 「使いやすい核兵器」を求めてブッシュ米政権が勢いづくもと、核問題をめぐり新しい動きがみられます。国際問題研究家の新原昭治氏に核問題の現状とブッシュ政権の核戦略について聞きました。

聞き手=鎌塚由美記者

ずばぬけた大量殺りく兵器

 改めていうまでもなく、核兵器は、一般市民を無差別に途方もない規模で一挙に大量殺りくするための、空前の残虐な破壊力を持つ兵器という点で、人類史上前例のない最も凶悪な大量殺りく兵器です。

 しかし米国の小型核開発などの危険な動きがあるにもかかわらず「『核』は関係者の間でこそ話題になるものの、一般的にはなかなか話題になっていません」と伊藤一長長崎市長も、危機感を表明しています(非核の政府を求める会ニュース三月十五日号)。

 こうした懸念は、核兵器問題の本質や米国の核兵器使用戦略の怖さがまだひろく知られていないことに一つの原因があるのではないかとみています。

 ブッシュ政権は今、核兵器を生物・化学兵器と意図的に同列で扱っています。第三世界の一部の生物・化学兵器の方が、核兵器より恐ろしいかのような宣伝さえ流しています。同政権の大量破壊兵器「拡散対抗戦略」によるものです。

 もちろん、非人道兵器はすべて許されませんが、核兵器、とくに米国が持つ核兵器が、ケタ違いにずば抜けた大量殺りく兵器だという事実を忘れてはならないでしょう。

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核不拡散条約(NPT)再検討会議第3回準備委員会に際しニューヨークで行われた反核集会に参加した米国市民=1日(遠藤誠二撮影)

公然と展開「小型化」推進論

 先制攻撃戦略に代表される横暴な覇権主義をすすめるブッシュ政権は、それと表裏一体で核使用政策に重点をおく新核戦略を推進しています。昨年十二月のブッシュ大統領の署名で新型核兵器開発が公式に始まったのも、その一つです。超小型核兵器開発禁止という十年来の米議会決議をさっさと破棄させてしまいました。深刻な事態です。

 一方、新核戦略にそい、米本土に貯蔵中の核巡航ミサイルを攻撃型原子力潜水艦に必要に応じ再配備する方針を国防総省が昨年暮れ改めて決定しました(本紙昨年十二月三十日付)。

 米核問題専門誌『ブレティン・オブ・アトミック・サイエンティスツ』五・六月号はこれについて、「世界中どこにでも秘密裏に核巡航ミサイルを配備する態勢」と報じました。

 国防総省の核作戦計画責任者だったスティーブン・ヤンガー同省国防脅威制圧局長(当時)は、一月の米軍需産業の円卓会議でこう発言しています。

 「米国に対する極めて重大な脅威があるなら、われわれはそれをなきものにしてみせるであろう。核兵器が必要になるかもしれない。米国の至高の国益にかなうなら、それが核兵器をもっていなければならない理由である」

 国防長官の諮問機関(国防科学会議)や国立核兵器研究所が小型核兵器開発の推進論を公然と展開しています。小型核なら「副次的被害」が小さくなり、住民に深刻な被害を与えずに使えると強調しています。しかし、大量殺りく兵器を「小型化」したら大量殺りく兵器でなくなり「きれいな核兵器」になるかのような宣伝は、真っ赤なウソです。

 「小型」化とは、米国の核兵器一個の平均爆発力が広島型原爆の十倍という現実を前提にしています。広島・長崎型原爆とさして違わない「小型核」となる可能性が高いということです。残虐きわまる大量殺りく兵器であることに変わりはありません(非核の政府を求める会発行の新しいパンフレット『非核・平和の世界と日本を』の新原報告参照)。

非核国への先制攻撃戦略

 ブッシュ政権の核戦略とは何か。それは核兵器を持たない国への先制核攻撃戦略の完成といえます。ソ連崩壊後、米国は気に入らない第三世界の一部非核保有国への先制攻撃戦略をつくりはじめました。これが行きついた姿がブッシュ核戦略です。

 二〇〇二年一月に国防総省が米議会に提出した「核態勢見直し」(NPR)の秘密報告で、核攻撃の対象として七カ国をあげていることが暴露されました。対象国には、核保有国のロシアと中国も入っていましたが、他のほとんどが第三世界の核兵器を持たない国でした。

 これは、反核運動が盛り上がり第一回国連軍縮特別総会が開かれた一九七八年以降、米国がとってきた非核保有国に核攻撃を加えないという対外誓約を破棄するものです。

 もともと、米国など五つの核保有国だけが核保有を許され、残りの国は禁止されるという核不拡散条約(NPT)は、核兵器独占のための差別条約にほかならず、主権平等の国際社会の流れとも根本的に矛盾しています。

 そこで、NPTの成立前からスウェーデンなど非核保有国が、そうした取り決めをつくるさいは「核兵器を持たずその領域に他国の核兵器を持ち込ませていない国」の主張をきちんと取り入れよとの国連総会決議を成立させたことがあります。

 非核保有国の筋の通った主張に最小限配慮した結果が“非核保有国には核攻撃を加えない”誓約だったのに、それを一方的に破ったのです。まさに、核兵器問題で唯一の超大国の特権をふりかざすブッシュ政権の横暴を見る思いがします。

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ニューヨークで行われた反核集会で核兵器の廃絶を訴える広島・長崎の被爆者=1日(遠藤誠二撮影)

核兵器廃絶の世論をさらに

 核保有国は、核兵器廃絶を迫る国際世論のひろがりにおされ、二〇〇〇年五月のNPT再検討会議で、「核兵器廃絶の明確な約束」をおこないました。核軍縮に取り組むというNPT第六条の約束が、核兵器廃絶の公約に高められたのです。「NPTのもつ矛盾を突破する重要な成果」と評価されています(日本原水協のNPT再検討会議第三回準備委員会にあたっての声明、本年四月)。

 二〇〇五年再検討会議では核兵器全面禁止協定を直接の議題にし、その手順や期限を検討し合意できるようにすることが、核使用に反対し核兵器廃絶を求める世界の国々の政府をはじめ国際世論や核兵器全面禁止の運動にとってたいへん重要な目標になります。

 今年の準備委員会は米政府代表の妨害的態度により実質合意がないまま、七日に終わったとのことで、核兵器廃絶の世論と運動をさらに大きくすることが切実な課題になっています。

 来年は、広島、長崎の被爆六十周年です。広島、長崎をくりかえさせないために、核兵器使用の恐ろしさと核使用をくわだてている勢力の現実的な危険を、「いま、核兵器の廃絶を」国際署名などを活用して広範な人々に知らせ、核保有国に核兵器廃絶へ足を踏み出させる国際世論を高めることが、強く求められています。

 イラク反戦の高まりを核兵器廃絶の大きな流れと合流させたいものです。それは、イラク戦争への国際世論の明確な反対表明につづき、世界の平和が理性と法の力によってこそ解決されるということを内外にはっきりと示すことになるでしょう。


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