2004年5月10日(月)「しんぶん赤旗」
【モスクワ=田川実】対独戦勝記念日の九日、記念式典中のロシア南部チェチェン共和国の首都グロズヌイのスタジアム「ジナモ」で爆発があり、インタファクス通信などによると、カディロフ共和国大統領ら十人以上が死亡し、バラノフ・ロシア連邦派遣軍司令官ら四十人近くが重軽傷を負いました。
爆発は観客席に設けられた来賓席の下で午前十時半ごろ起き、市民や退役軍人らでいっぱいだった会場には悲鳴と怒号、警備の銃声が響きました。ロシア内務省は調査と今後の対策のため将校の一団を新たにチェチェンに派遣します。
事件は共和国大統領を「モスクワのかいらい」と非難するチェチェン独立派武装勢力によるテロとみられています。プーチン・ロシア大統領は同日、モスクワでの戦勝記念式典に出席した退役兵士らとの懇談で、「テロリストたちは報いを避けられないだろう」と強調しました。
チェチェン共和国 一九九一年にロシアからの独立を主張する勢力が独立共和国を宣言。しかし、ロシア連邦は独立を認めず、九四年と九九年に軍事侵攻。九九年の侵攻でロシア軍は、独立派を首都から排除し、親ロシア派のカディロフ政権を樹立。プーチン大統領は「チェチェン問題は解決した」と称していました。その後独立派による攻撃やテロがつづき、二〇〇二年十月のモスクワ劇場占拠事件や今年二月のモスクワ地下鉄テロが発生しています。
【モスクワ=田川実】ロシア全土が愛国的雰囲気に包まれる対ナチス・ドイツ戦勝記念の祝日に合わせた九日のチェチェンの爆破事件は、「分離(独立)派へのクレムリン(ロシア政府)の強硬措置に反対する政治的テロ」(イリーナ・ハカマダ元大統領候補)と言えるものです。
二期目に入ったばかりのプーチン政権は、紛争が政治解決の段階に入ったとして、最近も武装勢力幹部の殺害、投降を相次いで発表していました。しかし、二月のモスクワ地下鉄爆破に続く今回のテロ事件は、問題解決の難しさを改めて示しました。
旧ソ連ロシア共和国からの独立を宣言したチェチェン共和国を、ロシア連邦政府が武力で抑えにかかり始まったチェチェン紛争。プーチン政権一期目の二〇〇三年三月、チェチェンをロシアの一部と明記した新共和国憲法が採択され、今回死亡したカディロフ氏は同年十月、クレムリンの強い後押しで新「大統領」に就任しました。
しかし、チェチェン出身で在モスクワのサイード記者によると「カディロフは人気がなく、現地では今もさまざまな組織とロシア軍の戦闘が継続中」。同記者は、一九九七年に共和国大統領に選ばれながら戦闘再開の中で姿を消しているマスハドフ氏とプーチン政権が「独立問題はさておき、停戦交渉をするしかない」と本紙に語りました。
カディロフ氏の死亡により、臨時の共和国大統領選が行われます。事件を受けロシア議会の一部には、共和国をプーチン大統領の直轄統治にすべきだとの主張も出ています。先のハカマダ氏は、「クレムリンがチェチェンの部族長や有力者に信頼されない人物を共和国の長にすえれば、同じことの繰り返しになる」と警告しています。